9人
「そろそろ敵が集まってくるころです」
キャサリンは何事もなかったかのように言った。
レイン達5人はあの後大男と小柄な男にとどめを刺して再び木の上にいる。
これがこそがレードルの作戦だった。
話は数時間前に遡る。
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レインとソフィアは何もない空間にいた。
VR世界ではマップに転移される前に一度この空間に飛ばされる。
「初めまして。静謐の傭兵団団長、レインです」
「同じく静謐の傭兵団のソフィアと申します」
2人は参加メンバーに挨拶をした。
「はっじめましてー!わたしはリリー!よろしく!」
リリーの身長はとても小さくまるで子供のようだ。
髪の毛は長くオレンジ色で目はクリクリとしている。
「ワシはドミニクじゃ。何か困ったことがあれば遠慮なく聞いとくれ」
60代前半くらいの見た目に和服を着ている。
銀色の髪の毛を刈り上げており、その立ち姿は老練の戦士といった雰囲気だ。
「おい、自己紹介なんてここは学校か?そんなものは必要ないだろう」
赤い髪をツンツンに逆立て、軍服を着た青年が水を差した。
場の空気が悪くなる。
「確かにルークの言う通りですね。挨拶は後にしておいて作戦の確認を行いましょう」
切り替えるために声を発したのはキャサリンだった。
…やはりあの服を着ている。
10人が円を組むようにして立っている。
「ようやく作戦を話せるな」
レードルがため息を吐くように言った。
「なんで早く教えてくれなかったのー?」
リリーが首をかしげてかわいらしく質問した。
「現実世界はどこの誰が聞いているかわからないからな。それに万が一この中に裏切り者がいたとしても、この空間に来てしまえば外部との連絡をとることはできない」
レードルは一人一人の顔を確認するように言った。
「そっかー!いろいろと難しいんだねえー」
リリーは手に顎を載せてふむふむとうなずいている。
「まずはルールの再確認を。我々はここにいる10人に対してあちらは100人。戦力差は10倍、通常のルールだったら正直勝ち目はなかっただろう」
レードルは拳を握りしめた。
「だが!私は頑張った!それはもう頑張った!友好国とはいえ同じ立場の者にへこへこと頭を下げ、敵国から嫌味をたらたらと聞き続けた結果勝ち取ったんだ!」
レードルの目からは涙が出ているように見える。
「頑張ったんですねえ、レードル大臣。ほら、いい子いい子」
そう言って頭をなでているのは緑色のドレスを着たお姫様のような女性だった。
髪の毛も緑色でふんわりとパーマがかかっている。
「ああ、そうやって褒めてくれるのはステラだけだよ…」
レードルは腕で目を覆った。
「良い年した大人が何を言っているんですか」
キャサリンがローファーの先でトントンと音を立てながら言った。
「あら、キャサリンさん?"嫉妬"でもしているんですかあ?」
何かが切れる音がした。
「まさか。あなたこそいつぞやの"復讐心"でも燃やしているのでは?」
「面白いことを言いますねえ」
「あなたこそ」
二人の間を見えない何かが飛び散っている。
「まあまあ落ち着いてって二人とも!ほら、おっさんも早く話を進めろよ」
いかにもきゃぴきゃぴした見た目の女の子が仲裁に入った。
髪の毛は金髪で盛りに盛り、派手な化粧にきらきらなネイルをしている。
服はパーカーにTシャツ、ホットパンツといった装いだ。
「アンナ…せめて名前で呼んでくれ…」
「わかった。レードルのおっさん早くしてくれ」
レードルの目から涙がこぼれる。
「レードル大臣の立ち位置ってあんな感じなのね。正直イメージと大分違うわ」
ソフィアはレインに小声で話しかけた。
「そうだね。内心僕も驚いてるよ。ただ、短期間でこれだけの関係を築いているっていうのはさすがだと思う」
「確かに…言われてみればそうね」
「まあ、バカにされていると言えなくもないけど。でも僕はそんなことより前から気になっていたことがあるんだ」
「なにかしら?」
「彼女たちの服装だよ。今から戦争をするんだよね?こんな格好でいいのかな?今まで色々な国に傭兵として参加して来たけれど初めてだよ」
「…本人が良ければそれで良いんじゃないかしら」
「そういうものなのかな」
「きっとそうよ」
ソフィアはキャサリン、ステラ、アンナの3人の女性の服を見渡した。
「ねえ、レイン。…あの3人の中だったらどの服装が好み?」
ソフィアは自分の着ている軍服を見ながら言った。
「そうだな…。僕はソフィアが着るならどんな服装でも好きだよ」
レインはソフィアの事を見ている。
「そ、そういうことじゃないの!客観的に見て!」
頬を染めながら少し声を大きくした。
「うーん……」
レインは顎に手を当ててしばらくの間考える。
「…でもやっぱりどんな服でもいいかな。ソフィアが着る服なら、どんなにおしゃれな人の服よりも好きだよ」
「………」
ソフィアは俯いて何も答えない。
「ぺっ。どんな状況でもいちゃつき出しますね」
キャサリンが唾を吐いた。
「本当ですねえ。少し殴ってきても良いですかあ?」
ステラは拳を握りしめる。
「わああっ」
アンナは赤くなっている顔を両手で隠しながら、しかし指の間からチラリと見ている。
レードルはレインのことを見ながらニヤニヤとした後、
「オッホン、そろそろ話を元に戻すぞ」
真剣な表情をして言った。
皆静かに一斉に静かになる。
「今回のルールは大臣首取りだ。こちらは私が、ビル国はダミアン大臣が完全消滅した場合に敗北する」
「つまり、大臣さえ倒してしまえば勝てるということですね?」
レードルの言葉にキャサリンが質問した。
「ああ!このルールにする為に私がどれほど頑張ったか!」
レードルの目に再び涙が溜まり始めた。
「おい、良い加減にしろ。こっちはずっと待ってるんだぞ」
ルークは不機嫌そうだ。
「そうだな。すまないルーク、それにドミニクも」
「問題ないわい。わしは年齢的にもこれで最後かもしれんからのう」
ドミニクはヒゲをさすりながら言った。
「よし、今度こそ話を戻すぞ。大臣首取りとは言え、圧倒的な戦力差から敵国は完全に油断している。その証拠に今まで提示してきていたランキング5位以内の不参加がない」
「だからわたしたちが戦えるんだねー!」
リリーは万歳のような形で両手を挙げた。
「そうだ。敵国もクールルが馬鹿だと知っていたのだろう」
「お互いにランキング下位同士を使い、どちらの戦略が優れているのか決めようなどと提案してきましたからね」
キャサリンは頭を抱えている。
「そしてそれに乗っかったあの馬鹿は連敗を積み重ねたわけだ」
はあ、と言うため息がレードルの口から溢れた。
「我々は量より質という点で有利を取っている。情報では向こうの参加者の中に10位以内はいないようだ。これはチャンスだ」
レードルは疲れた顔から一転、笑みを浮かべている。
「そこで戦闘部隊と護衛部隊の2つに小隊を分ける。戦闘部隊には派手に暴れてもらい、敵国の注意を引きつけてもらう。護衛部隊には私の護衛をしてもらう」
「じゃあ誰が大臣を倒すのー?」
リリーは皆が思っているであろうことを代弁した。
「レインだ」
レードルは力強く言い切った。




