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ゴスロリ

「ようやくダイブしてきたようだな」


 レードルは首を回しながら言った。

 何もない空間に4人が対角線上に向かい合って立っている。


 レードルの装いは長袖長ズボンの水色の軍服といったものだ。

 レードルの隣には秘書のキャサリンが立っており、こちらも水色の軍服を着ている。


 レインとソフィアは落ち着きを感じさせる青色の軍服を着ている。

 まさに静謐さを感じさせる雰囲気だ。


 4人がいる場所はVR世界であり、意識だけがここにある。

 ちなみに、現実世界に残された身体は厳重な警備によって守られている。


「VR世界だから遠慮はいらないぞ」


 レードルは準備運動をしながら言った。

 本当はいらないのだが癖になっているのだろう。


「はなからそのつもりです」


 レインは何もせず、立ったままだ。


「冗談の通じないやつだ」


 レードルは笑った。


「僕はあなたに腹が立っていますので」


 レインはソフィアを見ながら言った。

 ソフィアはレインを熱い眼差しで見ている。


「白馬の王子様にも嫌われたものだ。

 しかし大丈夫か?そのままではスキルに影響してしまうぞ」


 レードルは意地の悪い笑みを浮かべた。


「心配には及びません。公私混同はしませんので」


 レインは冷淡に言った。


「見上げたプロ意識だ。つまり、心の底からは怒っていないわけだ」


 ニヤニヤ笑いながらソフィアの方を見る。


「私はレインの事を信頼しています。私たちの心を乱そうとしても無駄です」


 ソフィアは毅然とした態度で言った。

 レインはソフィアに微笑みかけ、ソフィアも笑顔で返す。


「ふむ…。ハッタリではなさそうだな。流石に挑発は通じないか」


 レードルは笑みを浮かべるのをやめて真剣な表情になった。


「キャサリン、油断するなよ」

「わかっています」


 レードルとキャサリンはお互いの顔を見ずに会話をした。


「そろそろ始めよう。ルールはそっちで決めていいぞ」


 レードルは身体の動きを確認しながら言った。


「ではマップは古代樹。ルールはライフ1の完全消滅か降参、制限時間は1時間で」


 レインはまるで初めから決めていたかのように答えた。


「そんな標準的なルールでいいのか?」


 レードルは少しだけ眉を上げた。

 キャサリンはレインとレードルの会話を見守っている。


「ええ。大丈夫ですよ」


 レインは平然としている。

 ソフィアはレインに全てを任せるといった雰囲気だ。


「その余裕、私の戦略で打ち砕いてみせよう」


 レードルは語気を強めた。


 4人の中央に大きな数字が表示される。

 数字は5から減って行く。


 5…4…3…2…1…THE WAR IS ON.


 空間から4人が消えた。




「行こうソフィア」

「そうねレイン」


 先程の空間からレインとソフィアは古代樹マップへと転移していた。


 木々が乱立しており、中央には現実世界では考えられないほど巨大な古代樹が生えている。

 陽の光は葉の間から漏れていて地面の土は乾燥している。

 柔らかな風が吹くと葉がざわざわと心地のいい音をたて、葉は散歩でもするかのように飛んで行く。

 どこまでもそれが続いていて、見る者にどこか安らぎを感じさせるマップだ。


 ソフィアとレインは木々の間を走る。


「ソフィア、必ず僕が君の事を守るから」


 レインは隣のソフィアを見ずに、自分の中で覚悟するかのように言った。

 ソフィアは少し顔を赤らめた。


「でも私だって戦えるわ。…それに、私もレインの事を守り…たい」


 ソフィアの声は徐々に小さくなりながらも、レインに聞こえるように答えた。


「ありがとうソフィア。すごく嬉しい」


 レインはソフィアの方を見て微笑んだ。

 ソフィアは顔が赤いままボーッとレインを見つめる。


「チッ!戦場でもイチャついて!」


 レインとソフィアは咄嗟に声がした方を見た。

 キャサリンが木の枝の合間を縫って、金棒を片手に上空から飛び降りてきている。

 周りは木々に囲まれていて横には逃げられない。

 レインは咄嗟にソフィアの身体を抱え、後方にジャンプする。

 キャサリンはそのまま落下し、金棒を地面に激突させた。


 衝撃で地面からは土の破片が飛び散る。


 レインは抱えているソフィアを守るように後ろを向いた。

 辺りには土埃が舞っている。

 土埃が晴れると、中から金棒を肩に担いだキャサリンがいた。

 キャサリンは2人を見たまま動かない。


「キャサリンさん…ですよね?」


 レインはキャサリンに聞いた。

 キャサリンの服が余りにも違いすぎたからだ。


 なぜか先程の軍服ではなく黒を基調としたドレスを着ていた。

 ドレスには白いレースやフリルがふんだんに使われていて、スカートの部分はふんわりと膨らんでいる。

 靴はローファーで足首にはリボンが添えられている。

 そして胸の真ん中には存在を大きく主張するように真っ赤なバラが飾られていた。


 先程纏めていた黒髪はなぜか靡かせ、黒いリボンがチョコンと乗っている。

 メガネを外したことによって泣きぼくろが強調され、首にはチョーカーまかれている。

 かわいらしさと妖艶さを混ぜたような雰囲気だ。


「いい加減降ろしたらどうです?」


 キャサリンはレインの質問を無視して、レインへ質問した。

 レインは自分の状況を把握するために下を向く。

 顔を真っ赤にしているソフィアがいた。


 ソフィアはいわゆるお姫様抱っこでレインに抱えられていた。


「ご、ごめん。今降ろすねソフィア」

「…大丈夫よ」


 レインは慌ててソフィアを降ろす。


「はあ。イチャつくのもほどほどにしてもらえますか?この勝負、どちらが勝っても貴方達は傭兵として雇われるんですよね?それならば私達のルールの中で働いていただかないと」


 キャサリンは溜まっていたものを吐き出すように言った。


「そ、そうですね…。すみません。でもその格好は…」


 レインは戸惑ったように答え、そして独り言のように言った。


「お説教はこれで終わりです」


 レインの言葉を無視してキャサリンは2人の不意をつくように、突然金棒で殴りかかった。

 黒い髪と黒いドレスがひらひらと舞う。


 レインはそれにしっかりと反応した。

 ソフィアを守るように、今度は避けずに前へ出る。

 レインの方が身長は高いが無手のため、金棒を持っているキャサリンの方がリーチは長い。

 金棒が地面を這うように振られる。

 キャサリンはレインの腹めがけて金棒をすくい上げた。

 レインは真上にジャンプしてそれを回避する。


 飛んだ高さは4メートル以上だ。


 キャサリンの金棒は空を切る。

 キャサリンはその反動で首に手を巻くような形で硬直してしまう。


 レインはその隙を見逃さなかった。

 重力に身を任せ、飛び蹴りの姿勢でキャサリンへ迫る。


 それを目にしたキャサリンは反動に逆らおうとすることをやめた。

 勢いのままに体をひねり、金棒を支点として飛ぶ。

 そのまま金棒とキャサリンの身体を一直線にさせ、こちらも蹴りで対応する。


 何故かスカートはめくれない。


 レインの蹴りとキャサリンの蹴りが激突する。

 空気が震え、キャサリンの金棒が地面にめり込む。


 一瞬拮抗しているかのように見えたが、数秒も経たないうちにキャサリンが押され始める。


 キャサリンは不利だと判断したのか、わざと金棒を横に倒す。

 金棒と一直線だったキャサリンは金棒を支点として「く」の字になった。

 そのままレインの蹴りの力を利用し、金棒を手にしたまま横に抜けていく。


 レインは逃さまいと力を緩めたが勢いは止まらず、地面へ蹴りを放つ形になった。


 レインが着地した地点は、一番最初にキャサリンが金棒を振り下ろしたところより広範囲に地面が割れている。


「流石は五傭兵の一角。強いですね…」

「それはどうも」


 レインは謙遜せずに淡々と答えた。


「これは出し惜しみしている場合ではありませんね」


 キャサリンはその長い髪の毛を振り払った。


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