お金
「失礼します」
レインはそう言って部屋に入り、ソフィアが後ろから続いた。
2人はレイシュ国軍務省の談話室に来て居た。
レインもソフィアもカジュアルな紺色のスーツを着ている。
「ただ今レードルを連れて来ますので、こちらにお座りになってお待ちください」
そう言ってレードルの秘書はお茶を置いて部屋を出て行く。
レインとソフィアはソファに座った。
「それにしても高そうな部屋だね」
「そうね。流石は1国の大臣の部屋と言った感じかしら」
2人は部屋を見回す。
高級な雰囲気を漂わせるソファに、荘重な雰囲気の長机。
壁には風景画が飾られて居て、骨董的な壺まで置かれている。
さっき2人に出されたお茶の器にも綺麗な細工が施されていた。
「ねえソフィア。今僕が思ったことわかる?」
「ええ。多分同じだわ」
「「なるべく触らないようにしよう」」
2人は程よい緊張感を抱えながらレードルを待った。
10分ほど経つとノックが聞こえた。
「失礼する」
入って来たのは20代後半くらいの男性だった。
背はレインよりも低いが、平均よりは大分高い。
髪の毛は黒色で至る所に生えている白髪が目立つ。
しかし目力は強く、服の上からでも身体が鍛えられていることがわかる。
レインとソフィアはソファから立ち上がり挨拶をする。
「静謐の傭兵団団長、レインと申します。隣にいるのは団員のソフィアです」
そう言った後にレインとソフィアは頭を下げた。
「そんなに畏まらなくていい。今回は私がお願いをする立場なのでね」
そういってレードルは2人の向かいのソファに座った。
2人も遅れて座る。
「単刀直入に言おう。今回君たちを雇ったのは他でもない、その実力を買ったからだ」
レードルは手に持った資料を読みながら言った。
「とんでもございません」
レインはいやらしくならないように答えた。
「謙遜などしなくていい。それに畏まらなくて良いと言っただろう?それとも慇懃無礼と言う言葉も知らないのか?」
レードルは少し威圧した。
「そうですね。失礼しました」
レインは肩の力を抜いた。
「それでいい。ところで、君達は団員数が他の傭兵団に比べて明らかに少ないのだね」
「少数精鋭ですので」
レインは短く言った。
「いや責めているわけではないんだ。むしろ感心している。よくここまでの人材を集められたな」
レードルは資料をペラペラとめくっている。
レインは何も答えない。
「それで、今回の戦争には何人出してもらえる?いや、誰を出せる?」
レードルはレインの目を見て言った。
「僕たち2人です」
「ふむ…」
レードルは思案するように手で顎を触りながら目を瞑った。
レインとソフィアはレードルの言葉を待っている。
数十秒経ったのち
「この話は無かったことにしてくれ」
そう言ってレードルは立ち上がろうとした。
「何故ですか?」
ソフィアが質問をしてしまった。
レードルは2人に見えないようにニヤリと笑い、再び座りなおす。
「では聞こう。ソフィアと言ったな。君は何故ここに来た?」
「何故というと…?」
「君が戦えるようには見えないのだが」
ソフィアは少しの間逡巡する。
「確かに私には戦闘系スキルはありません。ただ団長レインのスキルは随一です」
ソフィアがそう言うと、レードルの口角が僅かにあがった。
「つまり君は居なくてもいいということだな」
レードルはソフィアに問いかけた。
ソフィアは言葉に詰まる。
レインはソフィアの顔を見た後、助け舟を出すかのようにレードルに言う。
「いいえ、そんなことはありません。確かに彼女は戦闘スキルは持っていませんが、僕のスキルとの相性は抜群です」
レインはスラスラと言った。
「つまり、君は戦闘に参加せずレイン君のサポートのみをするということか」
レードルはソフィアを見ながら言った。
ソフィアは何も答えられない。
「いいえ。戦争に参加すると言うことは戦闘に参加すると同義です。それに僕は彼女のサポートなしで戦えません」
レインが少し言葉に力を込めて答えた。
「ほう。では君の能力はそれほど強くはないと」
レードルは眉を上げて言った。
「それも違います。僕が虎だとするならば、彼女は龍です」
レインがそう言うとレードルの眉が下がる。
レインとレードルはお互いに睨み合っている。
今にも火花が見えそうだ。
「…譲らないな」
「ええ」
そう言うとレインとレードルは睨み合うのをやめた。
張り詰めた空気が少し穏やかになった。
ソフィアは場の状況がよく分かっていないのか困惑した表情を見せている。
そんな顔のソフィアの耳元で、レインは
「後で教えるよ」
と囁いた。
ソフィアは顔を赤くして頷いた。
そんな2人を見てレードルが言う。
「仕方がない。私が直接君達の実力を見よう。キャサリン」
レードルがそう言うと先程の秘書が入ってくる。
秘書は黒いスーツにタイトスカートを着ていた。
さらにはメガネをかけていて、黒色の髪をお団子にして結んでいる。
いかにも真面目そうだ。
キャサリンはレードルのソファの後ろに立った。
「勝った方が要求を通すと言うのはどうだ?2対2のチーム戦だ」
レードルがレインに聞いた。
「いいでしょう。ただ、そちらのペースに乗るのですからこちらが勝った際は覚悟してください」
「良いだろう」
レインとレードルは不敵に笑った。
「ダイブ部屋はこの建物の地下一階にある。キャサリン、案内しておいてくれ。私は準備をしてくる。1時間後に戦闘開始だ」
「はい。畏まりました」
レードルは部屋を出た。
「それではついて来てください」
レインとソフィアはソファから立ち上がり、キャサリンへ着いて行く。
「ねえレイン。さっきのは一体どういうこと?」
歩いている途中、ソフィアはレインに質問した。
「うーんそうだな…。ソフィア、僕は怒っていないから唯の事実として聞いてね」
「う、うん」
「実はさっきのやり取りは、僕らを雇う金額についてだったんだ」
「金額?」
「そう。僕たちを雇うには莫大な費用がかかるよね?」
「そうね。世界で5本指には入る傭兵団だし」
「だからレードルは費用削減しようとしたんだ」
「もしかして…」
ソフィアは顔を青くして言った。
「最初はソフィアを雇う金額を安くしようとして、次にそれに反論した僕の金額を安くしようとしたんだ。けれど僕が折れなかったからこうやって戦って決めることになったけどね」
レインはなるべく笑いながら言った。
「これ…私のせいよね。私が聞いてしまったから…。ごめんなさい」
ソフィアはみるみる元気をなくしていった。
レインはそんなソフィアの前に立つ。
そしてソフィアの頬っぺたを軽く両手でつまみ、上下に動かした。
「次から気をつけてくれればそれでいいよ。そんなことよりも、僕はそうやって落ち込むソフィアを見たくないなあ」
レインはソフィアの頰をいじりながらおどけて言った。
レインは数秒ソフィアの目を見つめた後、何かを確認したように手を離した。
「…ありがとうレイン」
「どういたしまして!」
2人がそうやって笑っていると声をかけられた。
「あの、廊下でイチャイチャしないでくれませんか?」
キャサリンだった。
「「す、すみません」」
レインとソフィアは揃って言った。
「ペッ」
キャサリンはその見た目に反して唾を吐いて歩き出した。
「それにしても、その頭の回転を普段から使えば良いのに…」
ソフィアは誰にも聞こえないように呟いた。
ソフィアの頰は赤い。
それは頰をつままれたからなのか、それとも他に理由があったのか。
答えは本人にしかわからない。




