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ここはとても暗い場所。深淵を覗いたなんて表現があるが、あながち間違いではないことに気づく。
「...」
いや、やっぱり違うな。深淵を覗き続けているというか、その底なし沼になぜか立たされていたというか、ひたすらに足から、ズブズブと音を立てて沈んでゆき、沈み始めたその四肢が、胴が、その体の感覚がなくなるまで加速して沈んでゆく。。。ある種の不気味なまでに心地よい感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。
あの世界はとても『恐ろしい世界』であった、いや、そんな生半可な表現で表しきれるものでもないのであるが、如何せんこの僕にはボキャブラリーというものがない。だが、だからこそ逆説的に『恐ろしい世界』という表現で事足りるのではないのであろうか。まぁ、先に述べたこの世界に見事なじめなかった不適合者ってのがこの僕であった、というだけのことだ。あなた方が気にすることはないのでろう。気にする素振りを見せられても、こちら側としては反応に困るだけのことだ。
さて、では君に聞こうかね。
「『異世界』とはなにか。」




