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工事

 建築・土木科の設置は巨大プロジェクトの第1歩であった。最初は娘の問題を解決してくれたお礼に、ツキヨミに褒美として土地と建物をあげたのだが、ツキヨミはそこに芸術学園を設立、さらに閑古鳥が鳴いていた、となりの神社を巻き込んで一大観光・芸術の拠点にしたのだ、すでにその神社と学園は世界的に名が知られ、城下に巨大な利益をもたらしてくれた。充分に採算がある。


 国は、学園の建築・土木科の増設と、海運・造船学科の増設を一緒に認めた。城主は覚悟をきめた。いまここで立ち上げなければ、必ず後悔する。学園の建物が短時間で作られた、学生は男女半々で、建築、土木、海運、造船に各100人、全体で400人とした。教師はいない、しかしツキヨミには秘策がある。最近開発した魔法で知識の転写がある、あらかじめ精神魔法で学生に不審に思われないよう操り、実務に必要な最低限の知識だけを400人の学生に転写する、


 ツキヨミは400人の学生と一緒に隣の神社の神殿に行く、景気がいいので、最近立て直し、荘厳な雰囲気がある、


 かしこみ、かしこみと神官が神殿に向かってのたまう。ウケモチノカミ様が光につつまれて、徐々に姿をあらわす。神官が立ち上がり、皆のもの、今よりウケモチノカミ様が汝らに奇跡の御技を示す、平伏して神の話を聞け。


 ウケモチノカミ様のお話がありました、

 「今回、国がおまえたちを、学園にまねいたは、国の命運をかけた事業のため、我れが、そこなるツキヨミに命じ、この事業にかかわるおまえたちを呼んだは、この事業のための、最低限の専門知識を授けるためだ、ゆうちょうに学ぶ時間がないのだ、わが神通力をその身に受けよ」


 いつの間にか天井は無くなり、暗雲が発生したと思ったら、巨大な雷が生徒一人ひとり落ちてくる、驚愕するいとまもなく全員が気を失っていた。


 正気に戻った学生に、ツキヨミは言葉をかける、

 「みな、正気に戻ったか、恐れ多くもウケモチノカミ様より、それぞれの専門知識を授与された、神が神威を示された、ここにいる者はすでに学生ではない、神より任命された技術者、現場監督だ、学園は授業の場ではなく、作業場である。設計する場であり、積算する場であり、現場に指揮する場所である、各人今日中に、現場を確認して図面と照らし合わせろ」


 街路工事がはじまりました。ホテルの建設が始まりました、インフラの工事が始まりました、港の工事が始まりました、大型船の造船が始まりました。多くの工事材料が頻繁に運び込まれます。どこもかしこも工事だらけです。職人がどんなにいても足りません、僅かの工期で、プロジェクトは完了しました。予算もだいぶ余りました。なぜだって? 現場監督の給料は無給です。授業料はもちろん、もらいました。


 大型帆船のおかげで、観光は賑わいました、なにせ真っ白な帆船は、カップルにとってロマンチックです。それに乗るだけで充分元がとれます。中には食堂もあり、個室もあり、この帆船に乗っただけで自慢できます。


 神社の荘厳なたたずまいと、参道の活気あふれる雑多な気配、ホテルの瀟洒な建物、街路の美しさ、国立総合芸術大学の明るい雰囲気、どこから見ても、観光・教育都市として、一流です。


 工事にかかわった学生たちの就職率は当然100%です。企業からの学生の取りあいで、騒動まで起こりました。


 気がつけば、また時空の狭間にいた、向こうから歩いて来る男がいた。「ツキヨミ様、お久しぶりです」「おまえは城主の娘のときの」「今日はツキヨミ様にお願いがあって来ました」男は寂しそうな捨て犬のような目をしていた、男が何を求めているのか、なんとなく分った」「私はもうすぐあの世界からはなされ、また時空の狭間を旅する事になる」「お願いです、ツキヨミ様、従者としてお連れ下さい」彼女もまた男のためにも、そのほうが良いとおもった。男の必死さから見捨てたら後味が悪い、「行くか、私は不安定な世界にいる、はざまから、世界、そしてまたはざまから、異なる世界に、後悔するかもしれない」「独りでいるほうが、何倍も後悔します」男の言葉に、縋るような気持ちが込められていた。

 また意識がなくなった、遠くでツキヨミを呼んでいる。「ツキヨミ、ツキヨミ、起きて、」心配そうな顔をしたかおりがいた。「どうしたの?」「きゅうに、ツキヨミが何処かへ行ってしまうような気がして」泣きそうな顔をしているかおりがいた、ぎゅうと抱きしめられた。


 かおりに引き止められたようだ、時空の狭間に行くのにまだ時間がある。かおり、ふたりで旅行しようか、ツキヨミの言葉にかおりは頷く、不安な顔が去らない、一緒に寝ていい、かをりの言葉に驚く、なにか感じているのか。ふたりで立ち上げた事業はすべって旨くいっている、学園のスタッフも優秀な人材がそろっている。もうツキヨミが居なくても、問題がない。ただ神社の派手な奇跡が無くなるが、やむをえない、かおりが手をにぎってくる、


 城主に挨拶に行く、姫も年頃となり、これほど美しい姫だったのかと驚く、今度、かおりと旅行に行こうと思います、事によったら、もう会えなくなるかも知れません。城主は不安そうな顔をする、かおりさんもですか。なぜみんな、そんな顔をする、かおりは戻ってきますよ。


 ツキヨミとかおりが設計した帆船で世界旅行にでかける。青い海原が気持ちよい、子犬が一匹まぎれ込んだ、かおりが抱きついて離さない、やがて夕暮れ、「かおり、船室に戻ろう、」かおりは子犬をだいたまま、暮れなずむ水平線をじーとみていた、「子犬がいてよかった、」かおりの言葉に、きっと深い意味はないのだと思おうとした。まだ世界旅行を楽しむぐらいの時間はあるはずだ、


 最初の寄港地は、全ての建物が白で塗られていた、「ツキヨミなにか食べに行こう、子犬とツキヨミの手をとって、桟橋に降りた、これだけの大型帆船が寄港できる大桟橋だ、ここも学園出身の技術者がつくったのよ。誇らしげに語る、かおりだった。最近は学園出身の技術者がつくる帆船の種類も多くなった。


 「今度、学園主催の帆船の設計コンテストを計画しているのよ、毎年決まった時期に開催することにして、権威あるものにする」


 30日間世界一周の旅が終わり、かおりは設計コンテストに向けて頑張っている。


最近は頻繁に時空の狭間に飛ばされる、子犬が常に傍らにいる。


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