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 オートマタはツキヨミの眷属神ではない。少年隊や少女隊のように神より眷属神と認められた存在ではない。しかしツキヨミによって生み出された事実は変わらない。

 人間の社会で認められて、全員が最高位のポジションに就いている。


 ツキヨミは段階的にオートマタと希望するホモンクロスには、平行宇宙の世界への移住を勧めている。人間の遺伝子は確実に、この世界に根付いた。古きものが何時までも、権力を持つのは好ましくない。ただ監視者は残す。道を踏み外さないように、命を至上の価値あるものとする社会の為に。


**********************************************


 18歳少女型ロボットが人間型オートマタの補助として開発されたのは最近の事である。大きな機能の違いはオートマタの電子頭脳基盤が人間の生態頭脳に限りなく近づけた事に対し、ロボットの電子頭脳基盤は人間の言葉、仕草に反応を返す事だけで感情は無い。辺境の地域で発見された特殊金属のお陰で、電子頭脳の能力は飛躍的に上がり、ロボットを外見で人間や、人間型オートマタとの違いを見極めることは困難になった。


 事故が起こったのは、移動中であった。突然の岩盤崩落事故により、岩盤の下に閉じ込められた。


**********************************************


 助けられた時には数千年の時を経過していた。突然の夕立に洞窟の中に避難した村人に救われた。衣服は当時の最先端の科学により、ほぼ無劣化であった。


 少女型ロボットは村に保護され、村人の使う言語を短時間に覚えた。村落の人間関係と上下関係、掟と常識、この世界の事を村人が知る限りの事を知った。そして自分がこの村落に長い年月居られないことも理解した。人間の寿命は60年、ロボットの寿命は半永久的、化け物と思われる。


 丁度良い機会があった。村落の近くに生贄を要求する神がいる。10年に一度、年頃の少女を生贄に差し出さねば、村は滅びる。血縁者の娘は生贄として出しにくい。少女型ロボットが生贄として選ばれた。若者達から不満があった。美しい妙齢の女性を伴侶として狙っていた若者は多い。


 神にささげる為に、白木の杭にしばられ、一人生贄の広場に置かれた。やがて大蛇が広場に現れた。少女は大蛇に会話を試みた。言葉でなく思いを意識に乗せて伝達する。これなら高位の動物ならイメージとして捕らえることが出来る。


 「あなたは神様ですか」美しいソプラノで思いを伝達する、イメージの中に声の情報を入れることで、相手は勝手にソプラノの声と思い込む。「私を食べるのですか」

 「お前は人間か?」大蛇は少女を見て考え込む。「何者だ、答えろ」

 「何者だと思いますか」電子頭脳が駆け引きをする。「あなたが答えたら、私も答えます」

 「私は神だ、はやくお前の正体を明かせ」どうやら大蛇も駆け引きにでたようだ。

 「信用できません、神ならその証を見せてください」少女型ロボットはいいつのる。「人間に変身できますか」

 「いいだろう、変身してやろうじゃないか」大蛇はドロロンドロドンと煙をだして変身した。「どうだ、見たか」美男とは言いがたいが、それなりに精悍な顔立ちである。


 電子頭脳は判断に迷っている。こんなだらしの無い神があってたまるか。「神通力も見せて下さい、私と勝負しましょう」

 「よし、お前を丸焼けにしてやる」「神様とあろう者が、女ひとり殺すのに、後ろ手に縛ってなければ出来ないの」ロボットも必死である。「だらしない神様」

 大蛇は恥じ入ってロボットの縄を解いた。「さあ勝負だ、掛かって来い」

 「ハンデを下さい、あなたは男で、おまけに神様」ロボットはしおらしく大蛇にお願いする。この女性型ロボットは当時の標準基盤能力として光学迷彩、医療魔法、精神魔法、透視魔法、反重力魔法、体術、剣術、言語解析、水中活動が組み込まれている。エネルギー源は魔法素子の結晶体。大気に魔法素子があれば、故障しない限り、半永久的に動く。メイドとして家事全般、看護士あるいは緊急の場合医師、追跡、逃走、情報収集の能力を持つ。恐怖も不安も喜怒哀楽の感情もなく、外見は表情豊かである。


 ロボットは必死だ。負けるもんか。「もう一度聞きます。あなたは若い女性を捕まえて食べるのですか」ロボットは男の瞳をじっーと見つめる。大蛇が変化した男はつられる様にロボットの目を見つめ返す。

 「お嫁さんにするだけだ」

 「嫁さんにするだけで、10年に一回、生贄に差し出させるのですか」

 「人間はすぐ死んでしまう、死んだら食う」言いながら大蛇は今までの生活を思い出している。大蛇の性欲に人間の女は耐えられず、半年ほどで衰弱する。後は面白くなく、生きたまま丸呑みして、別の村に女を受け取りに行く。この国の村はみな被害にあっている。「お前は俺の嫁さんにする」

 嫁さんに成るのも良いかもしれない、電子頭脳は選択する、ただし大蛇を精神魔法で支配下に置ければの話だ。歳も取らずに18歳のまま、半永久的に人間の社会で生きていくのは難しい。「分かりました、私をお嫁さんにしてください」精神支配魔法は会った時から、必死にかけている。相手が神なので効果の程が今ひとつ分からない。「ただ私の前では人間の姿を保って下さい」

 「ああ、これが俺の本来の姿なのだ」神はロボットが無抵抗に成ったので喜んだ「いくぞ」小柄なロボットを腕にかかえ次元を超えた。


 神の巣は洞穴の中であった。いままで食った女達の骨がうず高く積まれていた。

 乱暴にロボットを床に投げ出す。神は体が欲望で昂ぶっている。「三々九度の杯を受けてください」ロボットは自分の乳首から乳液を出し、杯に満たす。「これを飲んで夫婦の契約をします」ロボットは自分の体内で幾つかの乳剤を作ることが出来る。これは精神魔法が効き易くする乳剤。神はなみなみと満たされた乳液を飲み干した。「さあ、主様、来てください」ロボットは流し目をくれて、神をさそった「優しくして下さいね」

 神の性交は猛り狂っていた。これなら人間の女なら1年ともたず死ぬだろう。猛々しい欲望のまえに心は無防備になる。完全に神はロボットの制御下にはいった。


 「お前様の神通力を残らず見せてください」ロボットは神の能力をすべて知ろうとする。「すべて見せるまでは休息はなしです」形あるものは、すべて変化できるようだ。空中でも、水中でも変化によって可能となる。竜種に変化して炎を吐き出す事も可能だ。姿を消すことも可能だ、良き武器を手に入れた。


 ロボットには名前がある。奈菜と言う。月読命の尊が奈菜を作ったとき、菜の花が綺麗だった。

 大蛇の洞窟を整理して館を造ろうと計画する。「主様、ここに主様と私のための館を造ろうと思います。作業が出来る主様の眷属はいないのですか」蛇神だけではなかなか館が立たない。眷属が居ないのなら人間を脅かして作業者にすればよい。「領主か国王を脅かして、作業員を連れてきましょう」ロボットの言葉は蛇神に対する命令に等しい。精神魔法で雁字搦めに縛り付けてある。


 蛇神と領主の館に向かう。精悍な若者と見目麗しい乙女との旅は、誰が見ても似合いのカップルと思える。


 街道の治安は悪く、砦や関所は旅人から税金を徴収するだけの機関のようだ。商人は自衛のため商団を組み、護衛を雇う。一般の旅人も幾ばくかの金銭を払い、商団に入れてもらう。「おい、兄ちゃん、領主の館へ向かうのだったら、一緒に行かないか」旅人を見ると彼らは商団に組み込こもうとする。少しでも費用を分かち合いたいのだ。「これから先、山賊の砦がある」

 奈菜にはお金が無い。蛇神は若い女しか興味なく、財宝を貢物として求めなかった。ただ刀が一本あった。「私たちにはお金がありません、けれども刀があります。これで足りますか」ろくに手入れもしてない刀だが、取り返しの付かない錆は無い。奈菜はロボット基盤に鍛治師の技術は記憶されている。手入れさえしてあれば、業物ともいえる刀だ。砥ぎは軽くしたが、あまり刃物に興味なかったので、そのままにした。「名刀と言える刀だと思います」

 受け取った男も刀を見る目がある。砥ぎが少し甘いが対価としては多すぎる。「これを商団の中で競にかけていいかい、対価としては多すぎる」「お願いします。私たちもお金が少し必要です」ロボットは何より情報を欲しがった。商団の中なら色々な情報が手に入る。数千年のブランクは大きい。


 山岳地帯に入ると山賊の山塞がある。何でも死んだダンジョンの跡を要塞として山賊の拠点にしているようだ。拠点を支配出来れば、館を建てる必要は無い。「主様、機会があれば山賊の拠点を奪いましょう」山賊は討伐すべきもの、逆らう者は殺しても已むを得ない。「逆らう者は食べても良いですよ」


 商団の中は陽気だった。子供もいる。勿論護衛は手を抜かない。ロボットも斥候、護衛、攻撃、デマによる撹乱、いわゆる忍術の技も極めていた。焚火の周りで飲む酒は旨かった。「人と接するのがこんなに楽しいとは思わなかった」蛇神は酒を飲みながら、奈菜に語る。「人間は今までは食い物だと思っていた」


 機会があった。山賊が大挙押し寄せた。ロボットはいち早く気配を察知して商団長に知らせる。言葉と同時に軽い精神魔法を掛ける。商団長は疑いもせずに、全員に知らせる。精神魔法は手間を省く。「護衛隊は正面、自警団は右手、左手は俺達が引き受ける」団長は手際よく手配する。山賊はこんなに早く気配を察知されると思わず、油断して近づく。


 奈菜は蛇神と打ち合わせる。「商団のみんなに見えない所で、恐怖を味あわせて追い返してくれる、後で役に立つやつは子分にしたい」蛇神に命じて奈菜は露営地に戻る。「頑張ってね、私たちの住処の為に」心の中で蛇神に伝える。


 森の中で戦闘が始まった。蛇神と山賊達、気配が伝わってくる。同時に四方から山賊が攻めてくる。ロボットは目立たないように、子供、女、年寄りを守る。蛇神が大半を引き受けて呉れたため、死者を出さずに済んだ。商団長と護衛隊長が勝ち鬨の声を上げた。


 街は大きかった。領主の館もすぐに分かった。ロボットはまず情報を集めて分析、落盤事故から数千年の空白を埋めようとしている。辺境の村と違って人々が多い。光学迷彩で姿を隠し、領主の館に忍び込み、領主や役職に付く者達の意識を読み取る。余りに長い年数のため、すでに神話の世界になっている。オートマタ、ロボットで意識の中を検索する。何も出てこない。

 魔法で検索する。魔法使いは存在する。しかし実用レベルではない。光を一瞬出す程度。

 錬金術も存在する、しかし低級ポーションの作成が精一杯。

 医療魔術、検索に引っかかった、まじない程度。

 精神魔法、睡眠術程度。ここで領主の意識を手放した。これ以上は有益な情報は無い。


 これなら、数千年前に一緒に働いた錬金術師の先生やツキヨミ様が別の存在になってしまう。多くの技術が奈菜が眠っている間に失伝してしまったようだ。


 「王都に行きましょう、少し調べたい事があります」ロボットは蛇神と王都に向かう、「主様、貴方は人を殺して食べたり、女をさらって犯したりする事を止める事が出来ますか」蛇神をこのまま王都に連れて行って大丈夫かと、

一抹の不安があります。

 「人間でなくとも良い、豚は好きだ、牛も旨い」蛇神は舌なめずりして、生きた食い物を想像する。「女はお前がいれば良い、色々させて貰える」

 奈菜は少し赤面する。これは相手の言葉に反応するだけで、ロボットには恥ずかしいという感覚も、性欲もない。相手の欲望を理解して、相手の望み通りの反応を返すだけだ。「わたしで良いなら何をしてもいいよ、その代わり、人を殺したり、女をさらって犯したりするのは、止めて頂けますか?」王都に住むのに、今まで通りの蛇神なら、一緒に連れて行けない。


 奈菜は病人や怪我人がいると、治療して代金を稼いだ。その間蛇神は魔物や獣を丸呑みして、食事をすませる。街道は物騒だが大抵は蛇神がひとにらみすれば、怯えて引き下がる。

 「主様、あなたが洞窟に住んでいたのは、食料が豊富にあったからですか」奈菜の問いに蛇神は答える。「あの辺りは、順番に村を脅かし、若い女を生贄として貢がせるのに都合がよかった。若い女は食料にも、嫁にもなる」「なら、私がいれば、食料の問題が解決すれば、王都でも生活できる?」ロボットの問いに蛇神は「俺も人との関わりがあんなに楽しい物とは思わなかった、王都に住むのが楽しみだ」蛇神は商団との山賊退治を思い出していた。


 ロボットには幾つかの定点があれば、地図を作成する能力がある。岩盤の下に閉じ込められる前の数千年前の位置情報は把握している。しかし肝心のGPS衛星も、地上の補助局の電波も受信できない。大陸といえど、数千年の時を経るなら、移動してもおかしくはない。星座も地軸の変動により多少の変化はあるだろう。王都に行っても、前の王都とは関係無い土地にあるのかもしれない。しかし奈菜が使えていた先生の館の位置が分かれば、必要な機材が手に入るかも知れない。非常時のため、どの様な災害からも守られる地下の部屋がある。


 奈菜は記憶を呼び覚まそうと、何度も試みた。自分が月読命によって、人間と同列のオートマタに準じるロボットとして、過酷な作業のために作られたことは思い出した。その作業は何だったのか、やり遂げたのか、失敗したのか思い出せない。ロボットの奈菜に与えられた能力は、この世界では稀有の物だとわかる。


 昔の港に着いた。様々な地理的情報、天文観測から、数千年前にはオートマタやロボットによって湾岸設備が作られた場所だ。何かしらの痕跡があるはずだ。弱い電波をキャッチした。夢中になって電波源を探す。あった!


 頑健な部屋は数千年の時を物ともしなかった。当時と変わりなく存在した。座標もとらえていた。何かしらのメッセジーが残されていないか、PCを検索する。なぜか月読命なら自分が再起動することが分かっていたのではないかと思った。行動する目的が欲しかった。


 森に呑まれた5千年前の港の遺跡に奈菜と蛇神は住み着いた。蛇神の食料は豊富だ、森には魔獣が豊富にいる。奈菜は食の味は分かる。人間と交わって生きるため、人間の生理をまねている。基本的に食事は必要無い。


 「王都に行ってみようか」めずらしく蛇神が奈菜をさそう。「ここも良い所だが、変化があった方が良いだろう」蛇神が退屈しているだけかも知れない。


 船に乗るため人間の港に向かう。港街の賑わいは楽しい。蛇神は船に乗るのは初めてのようだ。奈菜の時代より船は退化している。デザインが野暮ったい。人によっては素朴でよいと感じるだろう。

 「王都に行ったらどうする」蛇神はわくわくしている。 「土地を買って治療院を開く」結局ロボットでも今までやってきた仕事で生計を立てるしかない。

 しかし蛇神は一人で大丈夫だろうか。食料は王都の外の森に牧場を開き、豚と牛を飼う予定だが、蛇神の性癖が問題になる。嗜虐の精神を持っている。豚を残酷にいたぶってから、丸呑みするような気がする。


 王都の港に着いた。近くの宿屋に10日間の代金を前払いした。5千年前に奈菜が使えていた先生の館に行ってみる。森に還っていた。「ここで私が働いていたの」懐かしそうに奈菜がつぶやく。先生の姿が思い浮かぶ。「楽しかった」

 「ここにも秘密の部屋があるのか」蛇神の言葉に我にかえった。「あるはずよ、探そう」大地そのものが、地殻変動で移動しているかもしれない。本来あった座標の辺りを中心に探して見る。電波をキャッチした。


 「ここに病院を作る。明日土地の購入に行く」ここなら適当に人家から離れている。少し離れた場所に牧場を造りたい。「明日忙しいよ」「大丈夫だ」なにが大丈夫よ、暇なくせに、心の中で悪態をつく。


 遺跡から見つかった金目の物を代金にして、病院の建築が始まった。工房も造った。役所の許可を受けて営業を始めた。客はなかなか来なかったが、別に構わなかった。性欲を持て余した蛇神が、頻繁にくる。


 工房でポーションを作ったり、月読命を真似て自動人形を作ってみた。数がまとまると工房で人形展を開催した。 美しいポスターを街の目立つ所に張り出したので、客が大勢来てくれた。上流階級の婦人方と知り合いに成れたのがよかった。

 奈菜は人間と同等の権利と義務を負うオートマタの後釜としてこの世界に派遣された。すべての人間とのコミュニケーション能力を持つ。僅かの時間でも知り合えば、親友になれる人だと相手に思わせる。この能力のお陰で、たちどころに上流階級に食い込む事が出来た。

 婦人の中には心に病を持っている者もいた。奈菜と会うことが楽しくて、工房に入り浸るようになる。不思議と奈菜に会っていると、心の病は軽くなり、いつしか、自分が精神の病気を持っていたことも忘れてしまう。心がはつらつとなり、女としての魅力も溢れ出す。


 いつしか工房は上流階級の婦人達の社交場になった。王族達も聞きつけ、遊びに来るようになった。奈菜には月読命や錬金術の先生のようなオリジナリティは持てないが、コピーする能力はある。二人の作った自動人形も奈菜が手伝って作った物だ。


 先生の作った自動人形は、魔国と呼ばれる土地の奥深くに産出される特殊な金属を使った基礎頭脳基盤を使っている。この建物の地下深くにある5000年前の秘密の部屋に、人形用基盤が残されている。奈菜もロボット仕様であるが、同じような基盤を頭脳に組み込まれている。


 先生と奈菜が一緒に最後に作った人形を再現して見る。これは医療用人形でもある。持ち主の心を精神魔法で読みとり、基礎頭脳基盤が最良と思われる選択をして、仕草や言葉で返すだけの物である。表情は豊かである。勿論自動人形としての機能はあるが、人形サイズなのでメイドとしては使えない。瞳が美しい。この世界の海底鉱山より5000年前に発見された魔力を有する宝石で造られている。話すとき、相手の目線の高さで、じっと見つめる瞳は表情豊かだ。瞳は言っている、「あなたの事だけを考えています」


 この人形を複数つくり、心に不安を持つ婦人に送った。人形を貰った人はこの事を絶対に口外しない。自分だけの友達、貰った人はみんなそう思う。自分の半身なのだ。勿論実費は取る。

 病院は相変わらず開店休業中だ。たまに突発の事故による患者が運ばれる。体の一部に欠損が生じた患者は、欠損部分が良好なら出来るだけ直す。手足の接続も神経や血管、骨を繋ぐよう、治癒魔法をかける。

 産婆の仕事も、たまに来る。助手が欲しくなる事がたまにあるが、蛇神を頼む別けにはいかない。


 錬金術の先生の館を訪ねようと思う、若しかしたら自分は目的があって残されたのではないかと、思いが強くなる。「主様、昔あった錬金術の先生の館を訪ねたい。一緒に来て欲しい」奈菜は、まだ全面的に蛇神を信用している訳ではない。拒否されたら神である蛇神に勝てない。毎日の男女の営みで蛇神の精神が真っ白になる瞬間、精神魔法を掛け直す。保険である。「馬車で片道10日です。一緒に来て頂けると心強いのです」地下にあったオートマタ馬と馬車を出し、ふたりは、錬金術の先生の館を尋ねる。街道は消滅しているが、位置は分かる。オートマタ馬を保管してあって良かったと手を合わせる奈菜だ。


 王都から錬金術の先生の館までの間にあった宿屋を中心とした街がない。5000年の時間が、全てを森にかえていた。昼夜に係わらず、馬車は休み無く、館を目指す、オートマタ馬も、奈菜も休みを必要としない。食事も必要ない。 蛇神は森に入って魔物や魔獣を丸呑みして、満足気に馬車に戻ってくる。魔獣の多さに奈菜は違和感を覚える。


 「魔物が多すぎる、どう思う、主様は」奈菜は驚愕している。「5000年前、魔物の暴走が終わってから、一匹足りとも魔物は出なかったのに」

 「また始まったんだよ」蛇神は嬉しそうに言う。「しばらく、ダンジョンの入り口を俺達の拠点にしよう」これから始まる戦いに蛇神は狂喜している。


 「なぜ?」奈菜は疑問を口にする。ダンジョンの神は死んだはず。大地はダンジョンごと、太陽の炎で焼き尽くし、蒸発させた。発生したガスはもう一度大地の組成に戻し、苦労して人間の住める大地に戻したのに。「環境を変えないようロボットの総力をあげて、作り上げた森は無駄だったのですか」

 「創世の神にも意地がある」蛇神は面白そうに笑う。「お前が俺の嫁でいてくれる限り、俺はお前の望むように動こう」蛇神は真剣な言葉で続ける、「天津国の神が守ろうとしていた地球の人間の子孫が、いまこの世界を動かしている。国津神として味方してやる」

 



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