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ツキヨミは影丸及び十人衆をいま一度鍛え上げることにした。自分の能力を生体である彼らに渡すには、能力不足である。過酷な修行が続いた。ツキヨミが求めているものが判る故、影丸以下も頑張った。渚と若菜とソラが一生懸命見学する。自分の伴侶をこの11人の中で選びたいと思っているから。
11人に無人都市の電子頭脳の能力を伝授した。後は少女隊と少年隊に自分の能力を伝えるだけだ。彼らは自分の眷属神なのだから。管理人さんは違う、あくまで、命ある限り守らねばならない人だから、それは眷属神の使命でもある。そしてツキヨミが認めた21人の眷属神はツキヨミの全てである。管理人さんを守るとの思いが、手段である力を求める。そして11人衆はツキヨミの思いに応えて呉れた。
人は人と係わって生きている。若し人間に生きる目的があるなら、命だとツキヨミは思う。不殺がツキヨミの自分に科した戒律である。しかし思いには力が必要だ、力は社会という名の組織を求める、社会は維持の為、課税という制度を設ける。税金を納めるため、生活を維持する収入が必要になる。全ての人間が生きて往く為には経済の活性化が必要だ。活性化とは貨幣の流通を意味する。貨幣は金という裏打ちがあって初めて人々が信用する。しかし金には限りがある。それを超えたとき為替と言う制度を考える。やがてそれでも不条理が出てくると、金の裏打ちでなく、国の信用の裏打ちになる。国が信用出来なくなると、どうなるのか?
オートマタの生活を守るには、安定した貨幣が必要である。ツキヨミ商会がやがて安定した貨幣の供給元になるとツキヨミは信じている。そして残念ながら裏打ちとして武力が必要になってくる。武力を行使したときツキヨミ商会は終わる。世界は混沌となり、ツキヨミは全てのオートマタに命令しゲートの中に避難させる。そしてゲートを閉じる。確定した未来。せめて不必要な欲を求めなければ、サイクルは伸びるのに。
自己矛盾を感じる。神は天地と共に生まれた、欲深きもの。男神なら人間の女がいれば犯すだろう。神威があるから人々はひれ伏す。ツキヨミも人間が嫌いだ。しかし錬金術師の先生は好きだ。人間の友達もいた。剣術の道場の娘、かおり。
ツキヨミは太古の地球で生まれた。地球の将来に不安を覚える人類の希望は宇宙移民の夢にむかった。宇宙船を造り、人間の受精卵を凍結保存し、ホモンクロスとオートマタ、ロボットの乗組員を乗せ出発した。
ただ闇雲に出発した訳ではない。先行して地球型の惑星の誕生を予測して、惑星環境を人間が生存できる環境に整えるため、工場衛星を送った。大気の組成を酸素と窒素ガスに置き換えるため、何億年もの間、ロボットは作業する。植物が生きて行ける環境になると、植物の種子を蒔き、やがて昆虫を放つ、下等な動物の受精卵を解凍して放つ。
工場衛星の電子頭脳の予測にあわせて、地球より移民船を出発させる。ホモンクロスは冷凍睡眠の中で、地球の持つ全ての技術を睡眠学習で覚える。船の中は必要最小限のオートマタとロボット達が、活動している。
目が覚めても、ツキヨミが知っているのは、オートマタとホモンクロスだけ。人間との付き合いは無いに等しい。なぜかツキヨミは神に昇華したが、オートマタにも神はいた。ツキヨミが主様と慕う天照は、たった一人解凍した人間の受精卵から神威を纏って神となった。
ツキヨミの眷属の影丸は虚空に住む神だ。十人衆は魔族、今はツキヨミの眷属神。管理人さんはダンジョンの管理人、創世の神の眷属だ、そして今はツキヨミの眷属。少女隊、少年隊はオートマタ、そして今はツキヨミの眷属。
眷属とは神の使い神、眷属神の略称である。
精霊妖精達は若菜と管理人さんとダンジョンの中を散歩している。時たま魔獣が襲ってくるが、虎と狼と隼、黒猫が一緒である。妖精達の話は面白く、若菜は飽きない。「お前達もダンジョンの街で住んでいたのか」妖精達は嬉しそうに「はい」と返事をする。若菜と精霊妖精達は気が合う。互いに大地に係わる者同士だからか。
先生はおやしろのツキヨミの工房で自動人形の製作にいそしむ。錬金術師の腕を生かして、女の子用の自動人形を最近創りはじめている。幼児期から死ぬまでの間、友達として大事にして貰えるように、様々な工夫がされている。相手が不安なとき安心を与え、悲しいとき慰めを与える。魔国の汎用基礎基盤を使い精神魔法の応用で人形に相手の精神状態を解析させ、最良と思われる反応を返す。姿形は芸術の域に達している。オートマタと違い、相手の投げる思いに、思いを返すだけだが、富裕層に受け、予約が殺到している。
先生も精霊妖精達も平行宇宙の世界から、王都に帰りたがらない。何度か王都や領地から連絡があったが、返事を先延ばしにしている。基本的に領地経営はオートマタの支配人に任せてあるし、病院はオートマタの院長で問題は無い。ツキヨミ商会も総支配人と12ヶ国の支店長がいる。
食料を初め、基本的なものは自給自足でおぎなっている。その気になれば作れないものは無い。オートマタもロボットも余剰なものを連れて来ただけで、新たな製作は控えている。12カ国の支配人達にも通達してある。人間の経済に過剰な介入をさけるようにと。同時にオートマタの生活を第一に考える様にと。争うような事があれば、こちら側の世界に撤収を考える事を。




