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世界には12カ国以外に、魔界と言われる国が存在します。見た人はいません。
先生はツキヨミと妖精達と食事をします。最近は忙しくなって、あちらこちらに顔を出します。結婚式ブームも続いています。オートマタは美男美人揃いですから、人間からの求婚も相次ぎます。やがて全ての分野でオートマタの子供達がリ-ダシップを握るでしょう。オートマタが生む子供は遥か昔の地球の人間の遺伝子を持った子孫です。時代の経過とともにオートマタは姿を消すのが自然です。
世界会議でツキヨミ商会の貢献が認められツキヨミに領地を賦与された。領地は魔国である。会議に先立ち、世界の権力者の了解を取っている。ツキヨミが独立国家を樹立するのである。この地域はどの国家も関与していない人の住めない地域である。世界会議からの領地の賦与なので、どの国家にも属さない領土、そして独立国家の樹立のほうが問題は少ない。そしてツキヨミはその地域を欲しがっていた。両者の思惑は一致した。
ツキヨミがその地域を欲しがっていたのは、過去魔獣の暴走を起こしたダンジョンに勝るとも劣らぬ特異点だからだ。徹底的に調べ、将来の危機を回避しなければならない。その場合世界会議の判断を仰いでいる時間は無い。危ないと思ったら魔国の全域を人間の立ち入り制限区域にする。そして明言しないが、世界会議関係者には伝えてある。将来の危機管理、各国首脳はツキヨミによって人類は保護されているとの思いが強くある。
ツキヨミは思索する。亜空間・時空の狭間・平行宇宙とにかく調査を開始する。狼型調査ロボット1000体・小型ドローン1000機を魔国に無人飛行艇で送る。海洋調査ロボット100体を海洋に展開する。情報はツキヨミが独自に考えた量子電子頭脳によってリアルタイムで処理される。
空間の特異点は絞られてくる。魔国の奥深く空間の歪みを発見。この歪みによって人間の生存を不可能にしている。ツキヨミは拠点用ドローンに乗って歪みのすぐ上に来ている。空飛ぶ拠点型ドローンは無制限に空間に留まれる。その甲板は10km四方もある。太陽をさえぎるので、地上の影響を考慮して、光学迷彩で太陽の光を作り本体を消している。
この大陸には生物がいない。歪みの近くは生存すら許さない環境だが、細かく見れば生活圏を作ることも可能である。ツキヨミは海岸に拠点を幾つか持つことにした。作業用ロボットを1000体配置して拠点作りに従事させた。湾岸設備、歪みまでの道路工事、難攻不落の砦、しかし基本的に人間の生活圏を考えていない。こんな所を開発するのなら、砂漠を開発した方がよっぽど良い。
空間の歪みの周辺には、調査用ロボットや狼、小型ドローンが飛び回っている。電子頭脳の解析はリアルタイムで行われている。平行宇宙への転移門、それがツキヨミが下した結論であった。人工の物でなく自然の物。
調査ロボットを送り込んだ。弾かれた。ロボットはそれでも充分な情報をもたらした。貴重な情報を電子頭脳は処理する。僅かにロボットは向こうの世界に行った。大気の組成がこちらの世界と変わらないが、魔法素子が濃すぎる。そして神力が溢れている。神の世界か。弾かれた理由は異物と見なされた故。
「人間は住めない」ツキヨミは考えた。荘厳なる神威の中で緊張した生活を人は維持できない。「しかし私なら」ツキヨミは向こうの世界を、むしろ自然と考えている自分を知る。
ツキヨミはロボットに神力を付与する。ロボットは命じられたまま、ゲートに入る。向こうの世界に到達する。パスは繋がった。ツキヨミが入る。青い空を見た。青い海を見た。浜辺でツキヨミがテントと椅子を収納庫からだす。心地よげにくつろぐ。
拠点ドローンをゲートの中に入れて空中に待機させる。拠点ドローンから偵察ドローンを出し、慎重に調査を開始する。やがて大地の大きさが分かった、ほぼ地球型惑星だ。ゲートの位置は固定している。生物は見当たらない。
アナザースカイ ツキヨミはこの言葉が好きだ、自分が好きに出来る世界がここにある。画家ブーダンのフランスの海浜風景の絵を再現してみよう。早速ゲートの外よりロボットを呼び寄せ、海岸の町を造る。瀟洒な喫茶店を兼ねた食堂、海にぴったりの宿屋、ヨットハーバー、馬車。ツキヨミの箱庭の街だ。
ゲートを抜けると、魔界と呼ばれる国。今は独立国。国王はツキヨミである。




