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 医術学校のデザインも決まり、建築に入りる。支店長はツキヨミ商会のロボット200体をマリーに渡した。さらに監督としてオートマタ3体をつけた。マリーは監督の能力、ロボットの能力を短時間に把握した。


 マリーと監督は、人類に現実可能な工法を何時間も考えた。一般の人間にとって土魔法とか、錬金術のような、建築魔法など使えない。マリーの考えた建築デザインは、オートマタの知識なくして、完成する物でなかった。マリーはオートマタの知識の深さに驚愕するばかりだった。


 監督は200体のロボットを効率よく動かし、マリーの作った工程表の通り、作業を進める事が出来た。監督達は逆にただの人間の少女に天才を見た。一切の魔法を抜きにして、此処まで出来るのかと感動した。


 「支店長、お話があります」マリーは支店長が様子見にきたとき、思い切っていた。「今度の週末に、ツキヨミ様を訪ねたいのですが、一緒に行って戴けないでしょうか」マリーの思いつめた様な眼差しに、支店長は断ることが出来なかった。建築の方は問題なく進んでいる。今ツキヨミはオリエン国ツキヨミ商会に来ている。


 「わかった、一緒に行こう」支店長は現場事務所で図面を折りたたんでから告げた。「実はツキヨミ様も、マリーに会いたがっていた」

 「海の見える山の公園は花が綺麗でしょうね」マリーは何気なく語るように喋る。「すこし公園を散歩してから、ツキヨミ様の所に行きませんか‥‥」

 支店長にはマリーの誘いが、少女の勇気を振り絞った言葉であることがわかる。オートマタ全体が人の感情を正確に読み取る事に出来る。勿論精神魔法を使えば、相手が何を考えているか、より正確に分かるが、魔法ではない。古の地球で開発された臨床心理士が使う技術である。仕草で人の考えている事が、ほぼ100%わかる。

 「マリーがよければ、少し散歩しよう、あの辺りには洒落た喫茶店もある」支店長はマリーの人生の選択を聞くことになると思った。「もう何ヶ月もいっていない。マリーガが誘ってくれるなら、きっと楽しい散歩になる」

 マリーは父母との語らいの中で、支店長が人間でなく、オートマタという機械仕掛けの人形であることを聞いている。いや、偶然に聞こえてしまったのだ。娘のマリーが居るとは思わなかったようだ。父母も支店長に好意を持っている。娘の結婚相手として望ましいと思っている。そして今も思っている。不思議なことだ。

 「今回、機会を与えて呉れたツキヨミ様に、お礼をしたい。ブローチを作ったのだけど、私のじゃツキヨミ様に敵わない」顔を赤らめながらも言葉を噤む。「でも持ってゆくんだ‥‥」


 朝からそわそわしていた。念入りに化粧した娘を見て、両親は何かあると思っていたが、何も言わなかった。人には時に岐路がある。選択がある。いまが、その時だ。娘の選択に幸多かれと祈るだけだった。


 乗合馬車で公園まで行き、下車する積りだ。乗合馬車の中では支店長とマリーと二人だけだった。マリーは時々支店長の顔を盗み見る。そしてすぐに下を見て赤くなる。支店長は気が付かない振りをして、最近の若い人の行く店の話題をする。「ジャズの演奏を聴きながら、素敵な食事を食べるらしい。今度二人でいってみたいね。」軽く言う。彼女の海の見える公園の散歩は、恐らく恋人として、付き合いということだろう。自分はオートマタだ。その事実を話さなければならない。「マリーはオートマタと言う言葉を知っている」

 「知っています。ツキヨミ様が作られた機械人形の事ですよね」マリーは何かを振り切るように、支店長の目を直視する。「人間を凌駕した人工知能を持ち、人間と同じく結婚もできます。子孫を残すことも出来ます‥‥」マリーは泣いていた。私はそのオートマタを好きになった。その思いを海の見える公園で、相手に告白しようとしている。


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