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市長宅に食事の招待を受けました。支店長は約束の時間に訪問しました。この住宅もツキヨミ商会が造った建物です。王国第二の都市の最高責任者の住宅です。支店長の庶民の家とはだいぶ違います。市長は支店長に好意を持っています。王宮の大臣と異なり、本当に国の将来の事を考えてくれます。
市長夫妻は娘の気持ちに、気が付いています。王宮でも、市役所の秘書課でも、望めばどの様な職場も用意したのに、娘は美術館を選びました。セントラ国の出張の話を聞いていると分かります。支店長の話ばかりです。市長も細君も支店長が好きです。しかし支店長がオートマタである事も知っています。
市長はツキヨミと会談をします。セントラ国の湾岸都市を一度見て置きたいのは、本心です。しかし愛娘の恋心に応えて上げられるのか、駄目なのか、確認しなければなりません。
ツキヨミとの会談は、個人としての市長にとっては、一番重要な会談です。挨拶もそこそこに、市長は本題に入ります。「娘が支店長に恋愛感情を持っています。人間とオートマタが結婚した場合の問題点を教えてください」
「オートマタには人間の遺伝子が組み込まれています。お嬢さんと支店長が結婚した場合、生まれるのは人間です。生まれた子は勿論子孫を残せます。オートマタが女の場合でも、人間を宿します。出産に際し母乳も出ます。寿命は本来人間と違いますが、相手に合わせて年齢をとります。寿命は相手の種族より不自然にならない程度長生きします。本来メンテナンスをすれば、半永久的に生きますが、結婚した場合は相手の種族と同じになります。お嬢さんが支店長と結婚しても、人間として違和感を覚える事は無いでしょう。死んだら、火葬にすれば、人間と同じく骨が残ります。土葬なら人間と同じく、やがて土と同化するでしょう」市長は娘が望むなら、結婚を許そうと思いました。
マリーはあらゆる機会をとらえ、支店長との時間を持とうとします。自分がいまの出会いを逃せば、支店長と添うことは一生無い。ともに生きたいと思う。自分が若く、美しい内に、まだ誇れるうちに、あの人に思いを打ち明けたい。怖がっては駄目、マリーは覚悟を決めるように、静かに目を閉じる。
病院の建設を支店長は考えています。炭鉱の国営化、コークス工場・製鉄工場の国営化、セメント工場の国営化で、これから労働災害が懸念される。この世界には治癒魔法や錬金術で造る医療ポーションがある。しかし貴族や裕福な商人しか頼めない。医師も薬も庶民には必要である。その為には医師と看護婦の育成が必要である。
オートマタ全員が治癒魔法や錬金術を使える。医療特級ポーションも造れる。薬の製造、使用方法も熟知している。外科手術も極めている。しかしツキヨミ商会の仕事だけで、人手不足である。現在オートマタは全員で1000人、男女比は半々、セントラ国に120人その他11カ国に80人づついます。
医術学校と看護学校、薬学学校が支店長の申請で、国王に認可されました。ツキヨミ商会が出資者です。この3つの学校の卒業生は、それぞれ資格が与えられます。この資格は世界統一資格になります。単位制なので、何年掛かっても自由です。取った単位だけでも、民間なら充分採用になります。
支店長はオートマタのトムを校長にしました。副校長にトムの細君のヨシエです。当面三つの学校は、ひとつの学校の形態で、運営されます。
医術学校は動物の解剖からはじめます。家畜の体内組織を熟知します。血管の接合、神経の接合、様々な病例を説明され、対処法を覚えます。現場第一主義です。獣医の単位をとれます。全国から集められた、医術師希望の者、100人に家畜のお産の手伝いをさせます。彼らは最初逃げ腰でしたが、慣れて来ると、積極的に手を出します。機会あるごとに、人間、豚、牛、羊、馬と種別に関係なくお産を手伝います。3ヶ月もすると、助産師の単位がとれました。
病気で死んだ動物の解剖をします。健康の動物の臓器と比べます。解剖すると寄生虫が出てくる時もあります。病気の動物を見ると、原因が特定できるようになります。
癌の動物の治療です。患部を除去して、完治させます。治癒魔法師はいないので、昔地球で行われた、外科手術を重点に教えます。講義や見学よりも、体験の数で覚えさせます。
第二期は人間の解剖です。校長の立体映像魔法により、人間の3DVRが表示されます。触れば感触もあります。3DVRが女性なら男子学生は興奮します。でも医術学校なので、やむをえません。
3DVRで解剖を徹底して覚えます。相手は死体という想定で、体温もなく、血液も出ません。どの様な殺され方をしたのか、徹底的に討論します。或いは病死の可能性を探ります。裁判や警察の関連資格が取れるようです。
第3期は生きた人間の設定3DVRです。病例を前提として、外科手術で直します。的確な手術なら直ります。直らなければ何度でもやらされます。外科術補助の単位を取れます。
第4期は内科です。病例と対処法を徹底して学びます。
第5期は治癒魔法です。魔法スキルがある人が前提です。
第6期はポーションの造り方と、効用、使い方です。錬金術師スキルの無い人でも、学べます。初級ポーションは、スキルと関係しません。
支店長はオートマタのトムを校長にしました。副校長にトムの細君のヨシエです。当面三つの学校は、ひとつの学校の形態で、運営されます。
仮校舎での学習は、それなりに楽しい物ですが、支店長はマリーに手伝って貰って、オリエン国の名に恥じない学校を作るつもりです。見切り発車で造った校舎は、古い既設の倉庫を改良したものです。美術館研究員のマリーに医療学校のデザイン設計を任せます。
マリーにとってハードな日々です。パース図を何度も何度も提出して、まだ駄目です。しかしデザインの才能はツキヨミも認めています。医術学校のデザインはマリーの才能の開花のためです。支店長の一存で適当に決めることは、今回は出来ません。ツキヨミの厳命です。
マリーは美術館で支店長が描いた月読の尊の、肖像画を眺めています。マリーはこの肖像画に既視観を覚えます。つい最近会ったような感じがします。
最近は、世界の有名な建物の平面図だけで、立体図を想像して描きます。マリーの描いた立体図と現実が合ってなくとも良いのです。逆に建物の外見から、多くの平面図を起こします。
「いつか私の肖像画を描いて下さい」マリーは少し甘える様に、支店長に頼みます」「君はもう私より上手に描けるよ」支店長はマリーの才能に、驚いています。この才能を伸ばす事が、自分の役割かも知れない。そう思う支店長でした。




