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久しぶりの王都は、活気に溢れていた。ツキヨミ達の住んでいる所が異常なのだが、住めば都、それなりに住みやすい。今日は植林用の苗木を買いに来た。町長さんの所を訪ねると、人の出入りが激しい。
「先生お久しぶりです、向こうの暮らしは、どうですか?」やはり気にはなっているようです。適当な挨拶をしたあと「ずいぶんと、人の出入りが激しいですけど、何か有るのですか」と尋ねると、町長さんは「実は領主様の口利きで、町の皆と派遣業をしているのです」との返事。「皆さん、自分の街に帰らないのですか?」先生の問いに「皆怖がっているのですよ、領主様も帰りたく無いようです」
領主様を表敬訪問すると、丁度国王の所に行く予定でした。「先生、一緒に行きましょう」領主様の進めのままに、2台の馬車で王宮に向かいます。王宮はやっと平常運転に戻ったようです。一時の慌ただしさは、ありません。「国王陛下、お元気でなりよりです」先生は儀礼的な挨拶をしました。「先生とツキヨミさん、久しぶりですね」
先生は領主の顔を見ながら「先ほど町長さんの所に往ってみたのですが、元の土地に帰ることに、抵抗が有るようですね」領主は「怖がって帰りたがらない。気持ちは分かるから、私も強制出来ない。それに人材派遣業を営み出して、利益を上げている。税金は納めている」ちょっとバツが悪そうに、下を向いた。先生は「私は皆さんがちゃんと生活が出来れば、それで良いのです。そういう事情なら私達も都市に引越しを考えましょうか」先生はツキヨミを見て語りました。
領主と国王は少し慌てました「この国都に先生のお屋敷を用意いたします。また先生とお弟子さんのツキヨミには、爵位を提供いたします。同時にダンジョンから200キロ圏内を先生の領地とします」先生はちょっと不審気に、国王の方を見ます。国王陛下は「いまの段階で、国民に移住を申し渡しても、無理がある。誰もが引いている。このまま無人の土地にしておくより、国民の信頼厚い、先生の領地として、経営してもらいたい」
居住まいを正して先生は、国王に向かいます「私達は魔法使いです。錬金術で機械で動く人形を作ることが、出来ます。もしその機械に人間の感情を顕現化できたら、人間として遇してもらえますか。多くの機械人形は、人間の意志を持ちません、しかしそれでは、作業になりません。機械人形を指揮する機械人形を必要とします。そしてその人形には国民と同じ人間としての権利と義務を与えてもらいたいのです。数はさほど多くはありません。人間が恐怖する領地の開拓には、是非認めてもらいたい制度です」
国王は目を丸くして驚いたが、了解してくれた。人格を有する機械人形が、国軍と並ぶ程の兵隊となったら脅威だと思ったのです。先生が言葉を足します「王宮に打ち合わせに来たら、国王様が謁見して貰いたいのです、そうでなければ、200キロ圏内は諸侯より低く見られます。たとえ機械人形であれ、私の代理です」国王も先生の言葉は、正論だと思います。人間が恐れて出向かない土地の、領地経営を先生にまかせる以上、機械人形が表舞台に出るしかありません。
ツキヨミはあたらしく拝領した屋敷に転移陣を設置しました。敷地はかなり広く、大規模な工房を作ることが出来ました。取りあえず執事一人、メイド3人、料理人、雑務3人を雇いました。勿論、精神魔法が掛かっています。
先生、妖精10人とツキヨミは、半自動ロボットの作成に、取り掛かりました。工作機械も何もない状態なので、難しい問題もあります。しかし何時の間にか、ツキヨミの能力は、無から有を作り出す程に、高まっております。苦労しながら、10体の半自動ロボットを作成しました。あとは楽です。早速ロボットの量産を開始しました。オ-トマタ18歳女性型の製作も楽でした。土木・建築監督にするつもりです。監督ロボット2人と作業ロボット10体を残し、全員を転移陣で移動させました。
大々的な開発工事です。監督は大規模な工場の建設にはいります。機械工作工場、部品工場、鉱山開発部門、精錬所、多くの物が、同時に動き始めます。妙齢の女性監督が、動き回っています。
半径200キロの円面積が先生の領地です。何とか魔物の暴走前の生産量に戻したいのです。そして、人々に少しずつ、返却したいと思います。後は広大な自然公園を夢見ています。自然と人間の共存が先生とツキヨミが考えたテーマです。
大型耕運機が無人で荒野を動き回っています。肥料工場で作った肥料も、満遍なく撒きます。大型の食料保管庫も何十棟も建設されました。これで何とか魔物のスタンピード以前に、収穫量と納税も、同水準に戻すことが出来ます。3年間は税金は免除されたので、不作でも余裕があります。
先生が国王に報告にあがりました。ツキヨミも一緒です。200キロ圏が先生の領地になってから、最初の報告です。あれから半年、設計通りの物が出来上がっています。
「国王さま、開発は順調に進んでいます。来年あたり、避難民から移住者を募集しようと考えています。協力をお願いします」国王は難しい顔をしています。「出来る限り、協力はするが、取りあえず、避難民の面倒をみている、元領主に相談してくれ」なんとなく、にべもありません。
元領主の所に行きます。元領主も難しい顔をしています。多くの避難民が、すでに定職に就いています。もともとダンジョンのあった所で、魔物も多く、ダンジョン関係の職業についていた者が多かったのです。農業に意欲を燃やす者は居ません。派遣業のほうが性に合っているのです。




