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 いつもは楽しい薬草採取も、今日は何とも遣り切れません。しかしこれから多くの薬、ポーションが必要なのは、事実です。妖精達も一生懸命です。


 王都の空き地の開墾は、もと町長が引き受けてくれました。ツキヨミは成長の早い野菜の苗や種芋を、十分な量を渡しました。いずれも魔法で強化したので、どんな荒地でも育ちます。


 先生は何度も町長さんに、頼みました。「必ず食料は不足します。魔物の暴走が再び起これば、これしきの城壁は木っ端と同じです。この種芋と野菜は特別の魔法が掛けられています。二度と手に入りません。今のうちに増やして下さい。出来れば城壁の外まで開墾して、育てって下さい」


 「もう一度言います。城壁の外にいても、内にいても同じです。魔物の暴走が起これば皆、死にます。しかし起こらないかも知れない。長引けば避難民は邪魔になります、何も与えられず、裸で王都を追い出されます。命を掛けて苗と種芋を守って下さい」先生はダンジョンのスタンピードが、いまも効果を保っている幻影魔法によって、封じられたとしても、そこを中心に半径200キロの農林を放棄したツケは、王国の未来にかげりを落とす事を知っている。


 世界会議は王都で開かれる事になった。たぶん先生とツキヨミが最後の脱出者として、説明を求められる。世界が神の間引きという目的を、認識して共有してくれれば、一庶民としての責務は、果たされた事になる。先生は一介の庶民、ツキヨミもこの地の神ではない。妖精は人でもない、人類の責務など負う必要はない。果たしてそんな理屈が通るのか、ツキヨミは頭を抱えたくなった。人間が神に勝てる訳がない。神たるツキヨミが、この世界の神と対峙しなくって、誰が戦える。


 ツキヨミと先生は接待係りをかって出た。他国の王族、重臣、従者すべてを味方にしなければならない。そして一人のリーダの下、集結しなければ、魔獣によって無残な肉塊になるだけだ。


 幻影魔法がどれだけもつか分からない。今日破られるかも知れない。明日かも知れない。破られたとき、人類は魔獣以下の存在になる。


 神は四ヶ月間の戦いに、疲れてきた。士気は低下していて、戦いは膠着状態になっている。ここダンジョンに、神は世界中の魔獣を集めている。敵は同数の魔獣を使って、攻めて来る。あれから一睡もしていない。このままの状態が続くと、多くのダンジョンが死に絶える。魔獣も回復不可能な状況になる。 膠着状態を壊さねば、焦るばかりで、現実には敵の剣と渡り合うのが、精一杯だ。少しでも油断すると、皮膚を切られ、肉をえぐられる。常に攻めなければ、敵に圧倒される。


 人間族の世界会議が王都で開催されている。すでに全員精神魔法で、先生の味方になっている。取り合えず、避難民に対する食料援助、世界防衛隊の設置、拠点は王都とします。


 先生とツキヨミは馬車でダンジョンに向かいます。妖精たちは、王都で留守番です。防衛隊の騎馬隊も途中まで着いて来ましたが、80キロ圏で恐怖に負けて、帰りました。馬車が50キロ圏に来たとき、大地は真っ赤になっていました。ダンジョンから流れてきた、魔獣の血が大地に染み込んだのです。ためしに井戸の水を汲むと、真っ赤な血の色と、生臭い魔獣の血の色です。


 馬はバリアを張ります。30キロ圏内は死臭の臭いだけです。さすがに馬もへきへきしてバリアを張ったのです。普通の人間なら瞬時に気が狂います。しかし先生は普通の人間です。でも生きています。


 20キロ圏内は腐肉のぬかるみです。反重力魔法で進みますから、動けるのです。魔法を切れば、10mも積もった腐肉の沼に、すっぽりと沈没してしまいます。一面同じ景色です。魔物と虚像の戦いは、膠着状態になっていることは、気配で分かります。しかし半年も幻影魔法の効果が続くと、思いませんでした。ツキヨミは幻影魔法について、検証し直さないといけません。


 ダンジョンの洞窟は、腐肉でふさがっています。中では激しい戦いが行われています。ときどき行き場のない腐肉が、圧力に負けて、噴出してきます。世界中の魔獣の大半は、絶滅したと思われます。


スタンピードが起これば、魔獣の皆殺しか、人間の皆殺し以外ありません。


 天津国の最上位神の一人、ツキヨミが渾身の力で掛けた幻影魔法、ダンジョンの神が無防備の状態で受けてしまった幻影魔法、それはダンジョンの神と魔獣を皆殺しにするまで、止まる事のない禁忌の魔法。そのおぞましさに、ツキヨミは慄然とした。世界中のダンジョンの魔獣が、ここに集められ、死んでいく。


 ツキヨミはダンジョンの神の死を確認した。


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