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 「ツキヨミ、私に幻影魔法を、教えて」先生の言葉に、ツキヨミは驚きます。魔族十人衆すら苦労して覚えた幻影魔法、先生に習得出来るとは、思えない。


 「命の大切さを、心に刻み込んで、やりたい」先生は悲しそうに、呟きます。


命の大切さを、心に刻み込む、唯それだけの幻影魔法、教えよう、時間は無限にある。先生と精霊妖精に、それが彼らの使命感に昇華されるなら、この地獄のような世界でも、生きていけるかも知れない。


 ツキヨミは幻影魔法で、全員に、ツキヨミ自身が術を発動する様子を共有させ、追体験させた。妖精達にとって初めての体験なので、驚愕していた。何度も、何度もそれがあたりまえに、思えるように追体験させた。修行は過酷を極めた、そうでなければ、この虚空の空間で生きていくことなど、できない。夢中になれるものがあれば、生きていける。達成感、使命感があれば生きていける。


 世界の時間と虚空の時間は異なる。やがて現実世界に戻らなければならない。戻る以上、戦わなければならない。戦う以上、勝たなければならない。


 命という言葉は宇宙と同意語である。悠久と流れる命の生と死は繰り返される変化相にすぎない。個の命が集まって宇宙になるのではなく、宇宙そのものが個の命なのだ、ここで負ければ、将来の命がその結果を受けなければならない。今の人生が因であり、死によって潜在化した生命は因にたいして、何の働きかけも出来ない。次に顕在化する命が因に対する果である。今のステージで失敗すれば、次のステージでは、もっと厳しくなる。それが分かっているから、ツキヨミは必死なのだ。


先生やツキヨミの住んでいた住居は、無人になっている。いや、街すべてが無人になっている。破壊はされていないが、恐怖が支配している。人間なら、この雰囲気に5分と耐えられない。犬や猫もいない。鼠すらいない。


 ダンジョンから200キロ圏内は、無人の地になっている。王国は騎士団を派遣したが、中心から150キロ以内に踏み込んだところ、馬が棒立ちになり、恐怖が伝染した。最強の騎士団は、ダンジョンの姿もみないで、退散した。王国はダンジョンから180キロの位置に、円形に防護壁を設けようとしたが、設計段階で放棄した。今のところ死者は一人も出てないが、国土の大半を失ったに等しい。


 先生は精神魔法で命の尊さを、人の心に刻み付けることに成功した。次の目標は、人々に先生は現世を救うリーダであり、先生に忠誠を誓い、先生に従い、先生を守ることが、国と世界を救う事だと固く信じさせることだ。


 ツキヨミは国民全てに精神魔法を、掛けるつもりだ。神と対峙するなら、生半可の団結では、忽ち崩壊する。神は人間を9割間引きするつもりだ。この国の問題だけではない。世界の人間を9割間引きするつもりだ。


 王国の時間で一ヶ月、虚空の時間だと3年、ツキヨミはひたすら、先生と精霊妖精を鍛えた。精神魔法では、すでにこの世界で最強の術者である。虚空から現実世界に戻ることにした。


 元の住まいに戻って、人間が誰も居ない事に、すぐ気がついた。予想していたことだ。ツキヨミは気を読もうとした。ダンジョンの中では、幻影魔法で作られた虚像と、神がまだ戦っている。恐らく魔獣は神によって、世界中のダンジョンから集められたのだろう。血なまぐさい臭いが、無人の街を染めていく。魔獣がいなくとも、もうこの地には住めないだろう。焼くしかない。地脈も途切れている。


 ツキヨミたちは馬車で、王都に向かう。動物たちも逃げ出した森の中は、絶対の静寂、虫の音もしない。無人の森を時速40キロで走った。往けども往けども、街も村も無人だった。妖精たちは顔を見あわせる。不安なのだ。


 作りかけの防御壁があった。途中で放棄したのだ。やはり無人だった。もう100キロは、走っている。おぞましい気配に満ちている。気配だけで、防衛軍は怖がって逃げたのか。人のことは言えない、ツキヨミ達も逃げたのだ。先生と妖精たちと、ともに。


 あれから、また2時間走った。150キロは来ている。相変わらず無人だ。175キロ付近で人の気配を感じた。


 光学迷彩で透明化を発動させ、音を消して進む。急ごしらえの、砦がある。兵隊が10人ほど詰めている。先生とツキヨミが歩きで先行する。兵隊たちが、妙齢の女性と10歳ぐらいの子供を見て、集まってくる。


 「あなた達は何処から来たのですか。ここから中は、全員避難していると、思ったのですが?」兵隊さんたちは、ちょっといぶかしげに、見ています。先生が「避難が遅れたのです、子供たちがいますから、出るに出られなくって」先生は精神魔法で、兵隊さんたちに、「味方になあれ。味方になあれ」と呪文を唱えました。砦の全員が先生の部下になりました。「子供たちが乗っている馬車が、近くに止めてあるので、持ってきてください」兵隊がふたり、すぐに馬車を取りに行きます。


 兵隊と情報交換をします。街の人間は、領主を含めて、全員、王都に避難したようです。砦で暖かい食事を、振舞われました。子供連れなので、みんな暖かいです。


 馬車で王都に向かいます。途中の村で、暖かい歓迎を受けました。当然全員で精神魔法です。精神魔法は、味方になれと強制するものでは、ありません。相手側の方から、あなたの味方に成りますと、心の底から思うのです。


 王都に着くまでに、多くの味方を、得ることが出来ました。一番良かったのは、防衛軍の幹部に会えた事でした。


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