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 ツキヨミの常にない緊張に、先生は声を掛けます「ツキヨミ、あなたの未来予想に、何か見えるの」「見えます、街も、人間も、何も残りません。私の力では助けられない」先生はツキヨミが唯の10歳の子供とは、最初から思っていません。まして先生に魔法を授けてくれた奇跡は、なんと表現すればいいのか、分かりません。


 「精神魔法で、恐怖を与え、人々を安全な場所に導けないでしょうか。安全な場所は分かる?」「無理です、魔物は人間の体温、声、気配に敏感です。徹底的に人間を探し出し、殺すでしょう」「この間の幻影魔法で、魔物を迎え打つことは」「出来ますが、私や先生、妖精達が、化け物、異端の者として、殺されるまで追われます」ツキヨミは心の中で思います。私に出来る事は、仲間だけを助け、ここから逃げ出す事だけです。全員が死んでから、ここに戻って来ることしか出来ない。先生はきっと、許さない。


 先生はツキヨミの思いを読み取っていました。それはツキヨミが教えた精神魔法では、ありません。先生自身の能力です。赤ちゃんや、子供、年寄りなどのコミニケーション能力の不足する人の考えを、ちょとした仕草や、視線、口角の動きで分かるのです。それは過去の地球では、臨床心理士と呼ばれた人々をさします。千里眼の岬美由紀という伝説上の人物をツキヨミは尊敬しています。同じ能力を先生が持っているとは、思いませんでした。


 「残された時間、わかる?」「あと、15分」ツキヨミの言葉に、先生は目を閉じます。「ツキヨミ、幻影魔法で戦いましょう、そして逃げましょう。どちらにしても後悔するでしょうが、」ツキヨミは頷きました。


 最初の魔獣が出てきたとき、ツキヨミは同種同数の魔獣が共食いするイメージを、幻影魔法で相手に当てた。出口付近は、共食いの連鎖で、酷い有様になってきた。やがて、幻影魔法はすべての魔物を巻き込み、ダンジョンの奥深くまで及んだ。


 ツキヨミはダンジョンの管理人を捜し当てた。あろう事か、神。一瞬のうちに、互いの心を読み取った。ツキヨミは先生、妖精達を連れて、転移魔方陣で逃げた。遅延破壊の魔法を掛けたので、すぐさま魔方陣は破壊された。たぶん妖精達も、無事にはすまない。転移陣の出口を虚空にした。亜空間を作り、先生、妖精達が辛うじて生きられる、空間を作った。


 ツキヨミはみんなに説明しようとした。言葉がうまく出なかった。「ダンジョンの主は神だったのですね。目的は分かりますか」先生がツキヨミの仕草、表情から推察した。臨床心理士の能力は、そこまで分かるのか、ツキヨミは唖然とした。「人間の間引きです、世界の人口を、いまの一割程度にするみたいです。私たちは間引きを、じゃました」


ツキヨミは、名も知らぬ神に、喧嘩を売ったのです。ツキヨミはこの世界を知りません。ツキヨミの外見は、この世界に吹き飛ばされたとき、10歳の平凡な女の子になっていました。眷属も見失ってしまいました。いまこの世界の神に喧嘩を売ったとき、味方は共に逃げてきた、非力な先生や精霊妖精だけです。


 ツキヨミはみんなに話します。「私では、この世界の神に、勝てないかもしれない。しかし何時まで此処に居るわけには、いかない」先生が語ります。「私がツキヨミを巻き込んでしまったね、しかし世界の9割の人間の虐殺など、見逃すわけにはいかない」「先生、世界に帰って、私たちが戦うのは、神に従順を誓った人間たちです。同族を殺すのです。神は間引きに、魔獣の代わりに、私たちを使うのです」


 「ツキヨミ、あなたは魔物と神に、幻影魔法を掛けたの、それとも、魔物だけ?」ツキヨミはダンジョンの全てに幻影魔法を掛けました。一度魔物の暴走が起こると、魔物が全滅するか、人間が全滅するか、しか無いのです。「神も含まれます」ツキヨミは先生に答えた。


 「神同士の戦いですね」「はい」ツキヨミは幻影魔法の怖さを知っている。加術者の力も強く、被術者の力も強ければ、被術者が作った虚像の敵は、被術者以上に強い。自分自身に負ける可能性は大いにある。まして、神にとっては不意打ちになる。


 ダンジョンの魔獣と虚像の魔獣の戦いは、凄惨を極めた。戦いは何日も続き、人間たちは、恐れおののき、領主も騎士も冒険者も、真っ青になった。人間たち風情が、巻き込まれたら、鎧袖一触で、肉魂になってしまう。


 人間という人間が、すべて逃げ出した。街も捨てた。戦いを見た者は、わかる。外門を固く閉ざしても、何をしても、木っ端のようなものだろう。ツキヨミたちにとって、幸いだったのは、誰一人ツキヨミたちの行動を、見ていなかった事だ。しかし神が生き残ったら、人間は神の命令で、ツキヨミ達を攻撃するだろう。

 


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