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山頂のたいらには、すでに敷地に細紐と杭で、建物の外見に沿って形作られていた。祭壇が造られている。すべての薪に火を点けて、祭壇をかざった。男子オートマタによる雅楽奉納、祭壇前に敷かれた、赤い毛氈の上でツキヨミが巫女姿で祝詞をとなえる。「たかあまのはらに かむづまります かむろぎ かむろみのみこともちて すめみおやかむいざなぎの おおかみ・・・」祝詞は続きますが、儀式の完了と同時に、天空より光り輝く球体が降りてきます。亜空間が開放されました。神官姿の影丸と十人衆によって反重力魔法を制御しています。あらかじめ決めたいたピンにぴったりと建物を置きます。付属する建物も、同時に収まります。出雲のおおやしろ(大国主命)、ダンジョンのおおやしろ(月読命)、エベレスト山頂のおおやしろ(天照大御神)の三大おおやしろが完成しました。瑞雲が沸き起こります、天上の音楽が聞こえます、巨大な神威が辺りを包みます。ツキヨミの力ではありません。市長さんの力ではありません、影丸の力でもありません。「主様」ツキヨミはひざまずき、かしこまりました。泣いています。「あるじさま、見捨てられたのではなかった、やはり見ていてくれたのだ」ツキヨミは涙が止まりません、流れる涙が、やがて嬉し泣きに変ります。周りの人間たちは、みんな平伏しています。神は語りかけます「我が弟、スサノオの子孫大国主命よ、この地にいて、ツキヨミの分身を守ってください。たのみます」市長さんも、泣いています。
いにしえの皇后陛下も歌われています。「国譲り まつられましし おおがみの くしきみわざを しのびてやまず」
だれもタケミカズチの説得に、出雲族が素直にしたがったとは思っていません。市長さんが英断を下したのでしょう、多くの血が流れたのでしょう。
エベレスト山頂のおおやしろは、天照大御神様のありがたい神社として、この世界では、おおいに賑わいました。しかし21世紀の地球では、だれもお参りに行かないでしょう。ひとえに信仰心の無さですね!
エベレストから下山して、竜の谷に向います。今度は影丸忍群10人が、張り切っています。オートマタ忍群5人とメイド隊5人、マーメイド隊3人、市長さんと愛、ラゲートさん、管理人さん17人で向います。市長さんの都市の機能は、使えるので、いざとなったら、都市防衛軍1万を出してもらいます。
エベレストの麓の深い渓谷に住む3匹の竜を見たくて、ツキヨミ一行は現場に向います。人間は17人ですが、荷物もあるので、馬の数は50匹です。オートマタ馬なので、管理は必要ありません。なにせ人間よりも頭がいい。
竜がいました、赤い玉を持っています。西洋のドラゴンでなく、日本の竜です。才蔵が向います、ツキヨミにかっこいい所を見せたいのです。才蔵は竜に幻影魔法を展開しました。二人が対峙する瞬間、才蔵は自分のイメージを竜に開放しました。戦いの場では誰でも相手のイメージを読み取り、その先の手を打とうとします。竜も、戦いの瞬間、相手のイメージを読み取り、かってに自分より大きな敵の竜がいると信じたのです。すべてを飲み込む霧のなか、相手の竜を上回る竜を顕現化させました。
竜は誇り高く、相手が自分よりも強くとも、命を懸けて戦います。才蔵の竜は強いのでしょうか。強いです。才蔵はこの戦いに、命を懸けています。才蔵の幻影魔法は、竜が幻影魔法に掛かった瞬間から、竜自信が心に描いた虚像です。恐れです。己の心に芽吹いた恐怖に勝てる生物はいない。いたら精神科もなくなります。男性は勇者だらけです。
竜は自分の不甲斐なさに、歯軋りします。自分の恐怖をいつわらず、敵わずとも、刺し違えるつもりで動く一瞬(竜の心の話です)才蔵の幻影魔法の第2弾が発動しました。「神はお前の気高き誇りと、力を欲している、神に抗ってはならない、神はおまえを眷属神としたいのだ」竜は己の矮小さを知り、尊き者に頭をたれました。
才蔵の幻影魔法はルーテングプログラムになっています。”おまえは戦ってはならない相手と、戦っているのですよ。あっちに行くならこっち。こっちに行くならあっち。だからこうしなさい”
精神魔法の怖さは、自分の弱さと戦っているのです。弱さを正当化する道を、あらかじめ幾つか用意してます。選択肢によって、ささやきかける言葉が違います。言葉は竜自信が作った言葉です。エクセルのIF関数の入れ子と思ってくれても間違いありません。場合によっては循環参照に陥り、自己崩壊します。
ツキヨミを見て、才蔵はガッツポーズしています。ツキヨミも嬉しそうです。
次は佐助です、佐助も張り切っています。竜は水色の玉をもっています。竜も先ほどの戦いを見ていたので、佐助を侮りません。対峙の瞬間、無数の猿が竜の死角をついてきます。的確な攻撃です。竜は空に逃げます。猿はきんとん雲に乗って、追いかけます。竜は青白い炎を吐きます。岩が真赤になり、崩れていきます。一匹も当たりません。竜は天上に一直線に登ります。大猿が突然、上から竜を羽交い絞めにします。このままでは、背骨が折られてしまいます。竜は虚空に転移します。転移した瞬間、さらに大きな猿が大口をあけて、竜を飲み込もうとします。火炎を吐こうとした瞬間、尻尾を握られ、さらに大きな猿に、地上にたたき落とされます。
竜は負けを認めました。幻影魔法の第2弾が発動しました。「神はお前の気高き誇りと、力を欲している、神に抗ってはならない、神はおまえを眷属神としたいのだ」竜は己の矮小さを知り、尊き者に頭をたれました。
次は影丸です。ツキヨミをみて、いってきます、と挨拶をします。ツキヨミは不満です。影丸じゃ、戦いになりません。私が行きます。
次の竜は太陽の様な球をもっています。ツキヨミは竜に一礼して、巫女姿で巫女舞を舞います。ほれぼれとした舞姿です。天上から音楽が鳴り響きます。竜はツキヨミに、戦いを挑む事無く、頭をたれ、眷属神に成る事を、請い願いました。
ツキヨミの前に3匹の竜が、頭をたれて、畏まっています。 「太陽の玉を持つ竜、汝はわれ、ツキヨミの眷属神となりて、エベレスト山頂のおおやしろを守護すべし」竜はエベレスト山頂に向って行きました。
「水の玉を持つ竜、汝はわれ、ツキヨミの眷属神となりて、出雲のおおやしろを守護すべし」竜は出雲に向って行きました。
「赤い月の玉を持つ竜、汝はわれ、ツキヨミの眷属神となりて、ダンジョンのおおやしろを守護すべし」竜はダンジョンに向って行きました。こうして世界が終わるまで、三匹の竜はおおやしろを守護しました。




