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管理人さんは常にダンジョンから呼び掛けられます。生まれたてのダンジョンは不安でたまらないのだろう。「大丈夫ですよ、最初はみんな、不安なのですから」「お願い、お姉さま、此方に来て、怖いの」生まれたてのダンジョンは赤ちゃんです。管理人さんに抱いて欲しいのです。あまり泣くので仕方なく管理人さんは空間転移陣を通って生まれたての妹のところに行くのでした。
「あなたはこのダンジョンの管理人ですよ、あなたには使命があります」言い聞かせますが幼い妹は納得しません。仕方無いから朝まで添い寝をします。この子のダンジョンは都市をやがて飲み込みます。どうしたら良いのでしょうか。管理人さんも悩みます。市長さんの都市を飲み込むとき、激しい戦争になるかもしれません。5年後、ツキヨミ様や私は、もうこの星にはいません。古代遺跡の街が飲み込まれるのは、仕方ありません。
管理人さんは思い余って、ツキヨミ様に相談に行きます。「ふたりで市長のところに行きましょう、都市は守りきれないと思いますよ、市長さんの選択は私と一緒に時空の狭間に行くことだと思います」管理人さんも、それしかないと納得します。本当の管理人さんの気持ちは、市長さんと一緒に私の幼い妹も連れていってくださいと、お願いしたかったのですが、言えませんでした。管理人さんのダンジョンと違って幼い妹のダンジョンは、あまりに巨大すぎました。
妹と添い寝をしながら管理人さんはかんがえます。此処には人間はいない、誰一人訪ねて来ない。自分にはツキヨミ様やメイド隊のみんながいる、妹は誰一人いない。涙が止まりません。もしも市長さんが、都市を捨てて此処に来てくれたなら、妹は幸せになれる。それなら私も一緒に残っても良い、きっとツキヨミ様は私の眷属を解いてくださる。寂しい、たまらなく寂しい。ツキヨミ様と別れるのが。とうとう管理人さんは泣き出してしまいました。
朝になってからツキヨミは管理人さんを連れて、市長さんに会いに行きました。市長さんはやはり、にこやかに面会に応じてくれました。「市長さんに管理人さんの話を、聞いてもらいたいのです」 「どのような話でしょうか」管理人さんの緊張した顔に、重要な話しであることは市長さんでも分かります。
「5年後にこの辺りは巨大なダンジョンに取り込まれます。私の妹が生まれました。」市長さんは興味深く管理人さんの話を聞きます。「毎日、妹は寂しいと泣きます、私は毎日妹のため、ダンジョンに添い寝をしに行きます、このようなこと市長さんに頼めないのは分かっているのですが、妹と一緒に生活をしていただくことができないでしょうか」市長さんは考えます、この都市が崩壊するのでなく、そのまま飲み込まれるなら、都市機能を維持しながらダンジョンと共生出来るのではないか、妹さんが管理人さんと同じ人型なら、そして人としての感情を持っているなら、都市は人間と共に生活するのと変わらないのではないか。市長さんは希望を見たのです。
「妹さんに会わせてくれませんか、私が妹さんと生活を共にするためには、3つの条件があります、ひとつは妹さんが管理人さんと同じ人間であること、ふたつめは都市がダンジョンに飲み込まれる場合、都市機能を維持しながら融合されること、みっつめは妹さんの寿命です、妹さんの寿命が20年程度なら、また私は置いてきぼりにされる」
ツキヨミは市長さんに、ここにダンジョンと都市を結ぶ空間転移陣を設けてよろしいか、尋ねました。市長さんは了解しました。「管理人さん、妹さんと連絡をとって下さい。妹さんが此処に来てくれるのですか、私から行くのですか」
管理人さんは、妹さんとテレパシーで連絡を取ります、幼い妹は人見知りです、なかなか管理人さんに頷きません。「おまえ、そんなんじゃ一人になちゃうよ、空間転移陣でこちらに来て、市長さんに挨拶してよ。ツキヨミお姉ちゃんもいるから、お願い」とうとう管理人さんは、妹と話しながら泣き出しました。
市長さんはあわてて、「私がそちらに行くよ、妹さんは会ってくれるかな」と言いました。妹さんはぐずっていましたが、折れてくれました。
市長さんは、妹さんとダンジョンで話し合いました。「貴女のダンジョンはその内、私の都市を飲み込みますが、壊さないで融合出来ますか」妹さんは「大丈夫」と答えてくれました。「わたしは貴女と生活を共にしたいのですが、わたしは永遠に近い命を生きます、もし貴女が短い間しか生きることが出来ないなら、また私は一人きりになってしまいます」市長さんは祈るような気持ちで、妹さんの返事を聞きます。妹さんは答えてくれました、市長さんの一番聞きたい答えを。「わたしの命は星の壊れるまでです」と。




