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大陸国家

「ごくろうさま、何か変化はあったかい?」リーダーのノート男子は発見者のツキヨミ女子に声をかけた。ツキヨミ女子は結界について見解を報告した。「結界は、わずかにずれた次元の位相に拠るものと思われます、生き物は結界から外には出てきません」と報告した。


 「それにしても美しい景色だね、湖は見ていると吸い込まれそうだ、陽が当たっているね、陽だまりが気持ち良さそうだ、こちらの太陽の影響下にあるのかな、視認できるのだから。」


 リーダーの意見はツキヨミも同じ意見だった。

「私は結界の近くまで行ってきます」

彼女はリーダーに声を掛ってから結界に向かった。光学迷彩で透明化を発動させ、体温も保護服で周りの大気の温度に合わせた。

 ツキヨミは何故か無性に結界の中に入ってみたかった。アンロドイロ2体、忍者オートマタ20体を連れて境界の傍まで行った。


 「ツキヨミ様、ここは結界の中ですか」アンロドイロの1人が突然の環境の変化に驚きツキヨミに声をかける。結界に近づいた途端に全てが変わった。大気も景色も激変した、後ろを振り返って見ると遥か遠くに街がある。今までの世界が何処かにいってしまった。あの美しい池はどこにいった、あの瀟洒な小さな家はどこにいった?


 ツキヨミは何とか仲間と連絡を取ろうと試みたが無駄であった。やむを得ず、全員が光学迷彩の透明化のまま、街をめざした。とにかく情報を集めるのが先だ、この大気も何かおかしい、エネルギーが満ち溢れているようだ。街で生活している生物の確認もしなければならない。


 ツキヨミは曲がりなりにも生物だ、水や食べ物がないと生存できない。それは体の大部分を有機物で構成されているアンロロイドもおなじである。オートマタは小型原子炉が搭載されているため、有機物の摂取は必要ない。


 人間と同じ容姿の生物が文化的な生活していた。地球のヨーロッパ中世の文明程度だ、どう見ても馬としか見えない生物が馬車を引いている。

 「ツキヨミ様、地球の昔の文明ににていますね」アンロロイドのアンが感想をのべる、もう1人のスージが「まず彼らの言語を調べましょう」と意見を述べる。


 アンとスージ、そしてオートマタ達は彼らが悠久の時間、接触できた全ての言語を覚えている、もちろんツキヨミもそうだ、それだけでなく新しい体系の言語を作ることも、未知の言語を解析することも短時間にできる。住民たちの容姿がツキヨミ達と変わりがないなら、彼らの中に入り込んで生活を共にするのが一番良い選択だ、ツキヨミは色々疑問点はあるが、深く考えるのは止めた。


 短時間ではあるが、全員でサンプルを集めたおかげで、日常生活に困らない程度に言語を習得した、また街の人口3000人の顔、サイズ、服装、個人情報の全てを2時間程度で把握した。いまツキヨミ達以上にこの街の事を分っている人間はいない。


 「どうしますか、ツキヨミ様、役所の情報は全て把握しています、お金はコピーもできます、旅人として泊まることも、商人として店舗を構えるも問題なくできます」ツキヨミは命令を出した、「お金と書類を作って土地と建物と食料を今日中に確保しろ、同時に鉱山資源の確保、素材の加工、機械類の作成のための工場を作ろう、拠点キャンプに戻る為にも、できる限りのことをやろう」


 目的が出来ると、後は早かった。容姿を出来るだけ住民に似せ、アンとスージは街の責任者、不動産業者、関連する全ての場所に行って、なすべき事をなした。「嬉しいですね、この街に住んでくれるのですか、小さい街なので変化があったほうが楽しいですよ」赤ら顔の町長さんはアンとスージの美しい顔にみとれながら心から喜んでいた。


 忍者オートマタも自立型で半数は女性型である、おそらく生涯の伴侶としても、一般の人間には彼らがホモンクロスやアンロロイド、オートマタであることは見抜けまい、人とともに年をとることも、若返ることも、死を演じることも、同じ寿命であることも、不死を演じることも自由にできる、しかし不死ではない、とくにホモンクロスであるツキヨミは。


 鉱物資源探査に数日費やした、幸い多くの資源が簡単に見つかった。精錬のため溶鉱炉の建設、加工のための工作機械の作成が当面の目標である。ボール盤、旋盤、フライス盤、溶接機、シャーリング、プレス機、樹脂素材の開発、さあ、やることは沢山あるぞ。


 ツキヨミたちは街でかなり目立った、わずかの期間で商店、鉱山、工場を開業し、街の経済を潤したのも理由である、それ以外にも彼らの容姿が標準よりも美しすぎた。街の若い者はツキヨミ達に憧れを抱いた。


 「この大気には異常なぐらい、エネルギーがある、これを動力に出来ないか」ツキヨミの言葉から、アンが発言した「ツキヨミ様、それに関連することですが王都では、このエネルギーをマナと称して魔法士が具現化して使っているようです」「機械的な何かで発現しているのか」

 アンと従者のオートマタは旅人との会話の中で、マナと言う言葉と魔法使いという職業を聞いた、職業では無く或いは個人の能力を指すかも知れない。


 一同に緊張が走った、この世界で自分たちの優位性が崩れるかも知れない。「ツキヨミ様調べましょう、マナを自由に使えるなら事実上の永久機関のような装置まで出来ます」「スージ、忍者隊半数を率いて王都に行ってくれ、必要なら王都に拠点を作らねばならない」


 スージの一番恐れる事は、自分らがこの世界に異質の存在として敵対されることであった。今の街では必要とされる商品を作り販売している。街とは良好な関係を短時間に築けたと思っている。ただ引きもきらない恋愛の告白や求婚が煩わしかったが、嬉しかった事もまた事実だ、それは忍者隊にも言える事かも知れない、オートマタも自立型の感情を有している。いかに自動人形といえど使い捨てなどの考えは設計当初から無い、悠久の時間、人間の友として同じ時間を共に生きてもらえたら、という思いが込められている、みな仲間だ。


 「スージ隊長、この村で他の商人と競合しない商品が幾つか考えられます、作ったら売れます」「隊長、王都に店舗を出すのでしたらこの辺に宿泊所兼商店を作って見たらどうですか、中間拠点として役に立ちます、いっそのこと街を作りますか」旅の途中、忍者隊から多くの意見や思い付きがスージに語られる、そうなったらいいなと思うスージだった。


 王都は賑わっていた、30万都市と聞いている。拠点となる宿泊所を決め、魔法使いの探査を開始した。宿屋のカウンターで、飲み屋で、路上で、あらゆる方法で、たちまち魔法使いの一覧表が出来上がった。実際に魔法を発現する現場をみて違和感を覚えた。確かに周りのマナをエネルギーとして発現する術者もいたが、初級の術者の大半は自分自身の体内にあるマナを発現している。これではすぐにマナが尽き大きな魔法は使えないだろう、マナをエネルギーに変換するのに術式を述べてきっかけとしている、あるいは小さな魔法杖に発現化する術式を書き込み、発現のきっかけとして使っている。魔法杖はマナが溜まり易い木で出来ている、材質を調べる。あと術者によって魔法の属性があるようだ。


 数人の部下を残してスージは帰ることにした、王都の全ての魔術師の名簿と特性を調べ、また地方に散った魔術師の名簿も系譜をたどって調べあげた。いまや彼ら程、魔術に詳しい者はいない。ただ実技は出来ない。使えるように成ることが可能か、まだ検証もしてない。


 「近日中に帰ろうと思う、残る者はできるだけ魔法使いと接触するな、彼らの中に精神魔法が使える者がいる、危険だ、我等が何者であるか分る者がいるかもしれない」スージは少し憂鬱な気持ちになった、安全の為、精神魔法を使う者を拉致する事も考えたが、スージにもツキヨミにも彼らを殺す事は出来ない。


 今や、ツキヨミ達は、町の有力者だ、市庁舎の会議室で23名が会議をしていた。防音室になっており魔法による結界も幾重に張られている。


 スージたちが王都から帰ってから魔法に対する研究が一挙に進んだ、きっかけは鉱物採取のとき偶然マナの巨大なエネルギー体を見つけたことだった、結晶化された鉱物はマナが凝固した塊であった、それを使って動力の頭脳基盤に応用したところ、体内マナの単純なON/OFFのスイッチで魔法使いの起動式の発動のように魔法が発動した。魔法杖の材質探しのなかで、マナを吸収しやすい材料の特質を知り、それをマナ吸収器として利用し作成、魔法の発動と同時に外部マナを吸収しながらあたかも永久機関のように作動し始めた。動力の完成である。


 紡績機械を作成した。糸を吐く幼虫から糸を紡ぎ、染色し製品化した。また機織器を作成し布を織った、これも模様を染めて製品化した。さらに縫製機械を作りアパルト業界を立ち上げた。ツキヨミたちの作る衣服の色、布、デザイン、縫製技術は若い人々を魅了した。


 ツキヨミたちが住む街の中に大きな市場がある、人口の増加と経済規模の拡大にともなって周辺にも聞こえるようになった名物市場である。街の名はエルザ、いまエルザ製の製品は世界で有名である。


 様々な工作機械を自作できるツキヨミたちは人口2万人になった街の要職に就いていた。男性型自立オートマタ10名は街の市長、警察署長、消防所長、会社経営者、商工会会長等、実質街を支配していた。


 工作機械そのものを販売しているのではなく、それによって作られた製品を販売、あるいは貴族の求める精密な工作物を求められるまま製作、それは手作りでは絶対出来ないレベルの物だった。エルザの名はそれ自体がブランドになり王都においても知らぬものが無い状態になった。


 スージは精神魔法の研究を始めた、精神魔法とは人間の精神に直接作用を及ぼす魔法の総称である。記憶の消却、改ざん、欲望の増幅、人を本人も気が就く事無く操る事が出来る。恐ろしい、その対策を考えなければならない。王都に残してきた忍者隊によって、精神魔法の使い手の情報はリアルタイムで入ってくる。


 使う術式の解析も即時に出来る、まずスージ自身が精神魔法を使えるようにならなければ対策も分らないかもしれない。精神魔法術者のなかに獣を操る者がいる、スージも最初の実験では動物の方が気軽なので、さっそく実験を開始した。


 鉱山の近くの森で栗鼠を捕まえて、籠にいれて術式をはなった、「どうか栗鼠ちゃん、私の友達になって下さいね」心の中で栗鼠に思いをぶつけた、しばらくして会話とも言えない思いのようなものが、スージのこころに届いた、栗鼠は了解してくれたのだ。スージは籠の扉を開いて栗鼠に向かって両手の手のひらを差し出した、栗鼠はスージの両手の上に乗った。栗鼠はスージの方に瞳を向けながら愛らしく首をかしげた。私に友達が出来たのだ、スージは嬉しくって思わず栗鼠を頬ずりした。


 「で、その栗鼠は?」アンの問いかけにスージは少し自慢げに「私の親友の栗鼠ちゃん、精神魔法で語りかけたら、友達になってくれた」「スージ、あなた精神魔法使えるの」驚きと期待に満ちた皆の顔を見ながらスージは語った「この子に協力してもらいながら、精神魔法に何が出来るのか確かめたい、忍者隊のみんな、そしてツキヨミ様も習得出来るものなら、対処の方法も確立できるような気がする」


 スージは栗鼠ちゃんに語りかける「あなたの見ているものを私も同時に見たい、あなたの聞いているものを私も同時に聞きたい、協力してね」スージの願いは栗鼠の願いになる、栗鼠は操られているとは思わず、自分の願いのため動く、スージが精神魔法に恐怖を持つのは当たり前だ。


 この世界で使える全ての魔法術式は調べつくしている、魔法には属性がある、その属性に近い隣り合った属性までは、どの魔法使いでも訓練しだいで使える可能性がある、それでも才能と努力が必要だ。魔法の属性はラジオのチューナのようなものである、マナ結晶と全属性のあらゆる術式、そしてマナ結晶体より作られた頭脳基盤、ツキヨミ達の技術があれば属性チューナを作る事は容易い。悠久の時間人類の種を守りぬいたその技術は魔法使い以上に魔法を短時間のうちに知り尽くしている、ゆえに精神魔法に脅威を覚えたのだ。


 栗鼠はツキヨミの前に行儀よく座り、じーとツキヨミを見つめている。「あなたはこの栗鼠を使役しているのですね、スージ」同じ時間にスージは鉱山にいた、栗鼠は僅かに頷く「私が見えるのですか、スージ」また栗鼠が頷く、「私の言葉が聞こえるのですね」三度栗鼠が頷く。


 忍者部隊20名全員はすでに頭脳基盤をマナ結晶基盤に置き換えている、さらに外部マナ吸収器とマナ貯蔵庫を設置した、これは頭脳基盤より外部マナの術式を常時発動させマナを集め続ける、同時に巨大なマナ結晶体を体内にエネルギー源として取り込んだ、これは将来本体と合流出来た時、マナの無い大気のなかでマナ切れでのマナ結晶基盤の破損による動作停止を防ぐためである。マナは魔法のためだけであり、魔法以外の動力は小型原子炉であった。この世界にいる限り小型原子炉を外しても問題ないが元の世界に戻れなくなる。


 オートマタである忍者隊はスージやアンとの差が余りない、むしろツキヨミは魔法との相性が疑われる、有機質のみで構成されたツキヨミは頭脳をマナ結晶基盤に置き換えられない、しかしアンロロイドもオートマタもツキヨミに魔法など期待していない。自分たちがツキヨミを守ればいいのだ、誰もが疑う事無くそれが自分たちの役割だと確信している。


 ツキヨミ以外の全員が最上位の魔法使いになることが最初の目標である、次の目標は精神魔法を防ぐ方法である、防げないかもしれない。そのときの対策はツキヨミと他の者とは当然異なってくると想像できる。ツキヨミの命令で各魔法属性を詳しく調べ一万二千に分類した。通常の魔法使いは属性を三つから十二に分けている。


 チームの術者が魔法の発動を感じたときマナ結晶基盤は必要な魔法を即座に判断し属性チューナを合わせ、同時に魔法術式と必要マナ量を算出供給した。一部魔法使いに外部マナを使う者がいる、内部マナを発動した瞬間、外部マナを誘発していると思はれる、外部マナを使えるならその規模はとんでもない爆発的攻撃力を持つことも可能と思はれる、もちろん継続時間はマナ切れが無いのだから体力の持つ限りとなる、しかしチームの術者は外部マナ吸収器があるのでマナの量としては充分足りる、たとえ魔法が爆発的規模であったとしても、それ程恐れる事はない、いざとなったらミサイルや核爆弾も製造できる、だいたい生身の人間にそんなものが必要とも思えない。やはり恐れるのは精神魔法である。


忍者部隊はチームによって一万二千に分類された魔法属性の全てに精通した。同時に属性の異なる二つの魔法どうしの掛け合わせによる魔法の発動、さらに三つの属性の異なる魔法の発動にも成功した。これにより通常の魔法使いでは考えられもしない多くの魔法が発明された。さらに複数の魔法の掛け合わせのなかの一つに精神魔法を加えたとき、チームの精神魔法の恐怖は決定的な物になった。


 「私たちには他を圧する財力があります、世界の精神魔法師を終身で雇います、同時にその技術を私たちの独占とします。あらゆる国家に働きかけ精神魔法の研究を禁忌とします、同時に私たちは精神魔法の全てを極めます」


 ツキヨミは独自に魔法の研究をしていた、頭脳に集まる検査用試薬がある、それに着目し吸収器で集めたマナを溶かし脳組織に集めることに成功した。魔法を僅かに発動させ、脳の発動器官部位を特定した、また体内に独自に袋状の器官を作りマナ結晶体を入れた、マナ結晶体は神経に似た器官によって特定された脳部位に接続させた。また新たに発見改良された外部マナ吸収剤を皮膚から吸収させ、皮膚全体を外部マナ吸収のための器官として作動させる、集められた外部マナはマナ結晶体を核とする雪だるまのように袋状器官に集められる、

 ツキヨミの頭脳はマナの周波数、色相、波の形を瞬時に認識し、使うべき魔法に合わせて変化させる事が可能であった。魔法発動の必要の認識、属性と組合せ、規模、頭脳の体内マナの点火発動、次に袋状器官の体内マナの起爆、最後に外部マナの爆発の動作がルーチングとして作動する。もともとツキヨミの頭脳は有機物で構成されている、マナのない世界でも普通に生存できる。


23名の定例会議が行われている。「精神魔法の使い手の大半は雇い入れました、また魔法の道具、術書、魔具等すべて集めました。精神魔法の水準は独占したため、過去最低レベルまで落ち込んだと考えられます」

 「雇い入れた者たちの仕事ですが、彼らが納得できる仕事を優先して与えて下さい、なければ作り出しましょう、飼い殺しなどあってはなりません」忍者部隊からの報告、要望があった。


「GPS衛星を打ち上げませんか、カレンダーの作成、地図の作成、他の大陸の調査、開発、場合によっては国の立上げ」


 他の者が発言する「この世界は本隊のいる世界と、隣あっているのかも知れない、まだ見ぬわれ等が主がこの世界に来るかも知れない。そのときのため主様の居場所を作らねばならない」


 忍者隊の続く意見にたいし、アンが発言する「あの時、あの世界とこの世界は僅かに次元をずらした、隣というよりも重複した世界と思われた。あの時われ等は、何者かに突き動かされるように、結界を調査したい、この世界を調査したいと突き動かされた。いま思えば精神魔法に操られるように行動した」


 スージが発言を求めた「主様のいる世界に帰る努力は継続しなければならない、同時に主様がこの世界に来ることも考えねばならない、たとえ何者かの策略に乗せられたとしても」


 ツキヨミが発言する「GPS衛星を打ち上げのためには、人の存在しない場所の方が好ましい、まだ見ぬ主様のためにも国を立ち上げたい。工業用ロボットを表立って使えるのは助かる。自動車と運搬道路も航空機も運輸船も鉄道も作りたい。今のままでは無理だ、いま持てる技術を住民に見せれば不要の争いを呼ぶ。いまの拠点は維持したい、魔法使い達には経営に参加してもらうか、諜報部員として活躍してもらう方が、未開の大陸に行くより良いかもしれない」


 スージが手を上げて発言を求める「若し精神魔法師達に協力を求めるならば、我々は彼らに精神魔法をかけねばなりません、人は弱い、残念ながら」彼女は最後の言葉はつぶやくようにいった。

 ツキヨミは「全てを話し了解した者のみ、われ等の目的を彼の者の目的、使命とする精神魔法を掛けましょう、反対する者には、消却の魔法をかけて充分な補償をして雇用の解雇をしましょう、まず説得してください、誠意をもって何度も何度も、お願いします」

 「属性の変更を精神魔法で行っては」スージの言葉にツキヨミは悲しげに俯いた。


 「これはエルザの方たちですか、今日はどのようなご用件で」アンはひなびた村の村長に「土地を買いたい、大きな造船所を作ります、それに付属する建物を数多く作ります、やがては大きな港町となるでしょう」


 造船所が短期間に作られた、この世界にあっては超大型船にはいる、素材も特殊なものが使われた。しかし帆船として見た目は一般的なものに仕上げられている、トラブルをさけるために。実際にはマナ推進機が設置された、水面下のスクリュウ、舟のかじ、帆の操作もマナ推進機のマナ結晶体基盤によって動かされている。運転室で行き先を設定すれば自動運行で到着出来るように開発されているが、海図の不備、GPS衛星の未設置で能力が発揮できない、深海探査機械、レーダー、ジャイロコンパス等によって運行するしかない。


 帆船は美しかった。エルザから港まで道が整備され、マナ結晶体基盤エンジンを取り付けられた自動車がエルザ鉱山地区にあるロボット組み立て工場から新設の港に何度も往復する、ロボットは原子炉を有しない、マナを動力とする半自立型工業ロボットで、簡単なマナ結晶基盤と外部マナ吸収器、外部マナ発動体から成り立ち、一度だけ術者が基盤に魔法を掛けなければならない。転べば立ち上がり、行き止まりなら回転する。21世紀の工業ロボットをイメージすればいい。


精神魔法使い達は全員、ツキヨミの真摯な説得に同意してくれた、精神魔法の怖さは魔法使いたちが一番強く知っている。ツキヨミがかれらに明かせる範囲の情報を明かし、彼らに制限の精神魔法をかける変りに、共に生きてくれるなら彼らの生活を生涯守ると誓った。


 かれらの内、商業に向く者たちには徹底した教育を施し、株式会社エルザの仕事をまかせた、王都の支店は魔法使い達によって問題なく運営された。他にも株式会社エルザの対人間の交渉事に彼らは進んで協力してくれた。彼らも任された仕事の大きさに誇りを持った。彼らに使った精神魔法はツキヨミ達の信頼を裏切らないこと、人間の精神や命を弄ばない事、であった。

 エルザの街における商業部門も、いつのまにか大部分は魔法使い達にお願いするようになっていた。


 大陸に人間が住んでいない事を確認するとツキヨミ達は港の建設をした、世界でも一番大きく美しい港町にするつもりだ。巨大な荷揚げ場、巨大な倉庫群、巨大な造船所、あらゆる工作機械のある工場群、立ち並ぶ宿泊所、巨大な飲食街、巨大な温泉。ある程度外側が出来てから人間を受け入れるつもりだが、最初は国の人口の大部分はオートマターになるのもやむをえないと思っている、同時にそのときオートマターの完成度は人間と遜色があってはならない、味覚、食欲、排泄、性の欲望、加齢による容姿の変化等、人と違ってはならない。ここはまだ見ぬ主様のための都なのだから。


 港の防御のための城を作りはじめた。重厚な城だ、海に向かっては難攻不落の砦が築き上げられた。海上から見ると城も砦も湾岸設備も美しい絵のように見える。


 「鉱山の発見、各種素材の開発、出来れば石油の発見」大陸での会議にツキヨミたちは優先順位をつける、ほとんどは素材関係である。食料の問題はまだない。燃料の問題は皆無だ、石油も素材目的である。会議にでるものが半分になってしまったのが寂しい。「やがてエルザ都市から手を引けるのだろうか」忍者隊のひとりの言葉に皆難しそうな顔になる。

 ツキヨミが言葉をつぐむ「まだこの大陸の形すら知らない、航空機の開発は急務です」


 航空機の開発は簡単であった、エンジンがすでにあるのだから。航空力学に基づき軽量の素材を組み立て、プロペラとエンジンを組み込んだ、ヘリコプター型10基、飛行機10基を完成させた。高感度カメラを積み込み、結晶基盤に命令を与える、無人機である、結晶基盤が全てを判断する。


 航空機は昼夜空を飛び続け一度も戻る事無く、地上のあらゆる物を写した、大陸と周辺の国々の正確な地図を瞬く間に完成させた。航空機は地下資源の探査も同時におこなった。ここにきて航海図の作成も可能になった。 


 「航海図の完成を急ぎます」ツキヨミの命令にマーメイド部隊100体が急きょ作られ、昼夜を問わず海図の作成にあたった。これによりエルザ港との航海が安全なものとなった。


 石油探査のため、大規模な探査隊が派遣された、隊長は忍者隊の1人、あかつきが任命された。石油が是非必要かと言われたら、疑問もある、ツキヨミ達はすでに植物からエチルアルコールを採取している、エチルから樹脂を作り電線の被覆材料として使っている。


 大型航空機に掘削機、汲み上げポンプ、ケーシングパイプ等積み込んで航空機が当りをつけた現場に向かう。あかつきは先行部隊と一緒にすでに現場にいる、内臓された無線で連絡を取りあい、広場にワイヤーで吊られた機械を降ろした。 苦労することなく機械は据え付けられた。直ちに掘削を開始してすぐに原油の採取に成功した。これで樹脂繊維、FRPなどの素材の大量確保の道が確立した。


 鉱山の探査もあらゆる素材の目途がたった、湾岸建設のとき提案があった人間そっくりなオトーマターの製作に取り掛かろうとしていた。

 ツキヨミもアンもスージもアカツキも人間そっくりな姿をしている、現地の異性と結婚し、生涯添え遂げても見破られる事は無い。しかし人間を移住させるなら多数の人間と見分けが就かないオトーマタの存在は必要になる、それも何十万も。ただアンやアカツキほどの性能を必要としない。


 GPS衛星36基の打ち上げ、天頂GPS衛星3基の打ち上げが成功した。世界地図の作成、海図の作成、陸海空の自動運行が可能となった。大陸地図を見ながら、インフラ整備の会議がおこなわれた。全員久しぶりの集合である。株式会社エルザは魔法使いに運営を引き継がせた。しかし経営権はがっちりとチームのものである。魔法使い達も分を超えようと思っていない。

 地形図を見ながら議論が白熱する「港を30箇所作りましょう、飛行場も同数、主要都市も同数、大陸に幹線道路を作り、鉄道もここを拠点に敷きましょう、そしてこの大陸が独立国家であるとの体裁を整えましょう」「陸軍、海軍、空軍をつくり、要所要所に砦を構え国旗をデザインして掲げましょう」「無人島の管理も必要です、かってに上陸してここは自分の国の領土と言われましたら困ります」「施設の維持管理のために膨大な数のオトーマタが必要になります」

 「すべてやりましょう、その上で憲法、法律を作りましょう、ここはまだ見ぬ主様の国です、主様がいつ見えてもいいように大陸全土がひとつの独立国家であることを世界に明らかにしましょう」


「オトーマターの数は軍隊を除いても各施設の運営保守管理、都市の運営保守管理、船舶は稼動する乗務員、湾岸設備の保守管理員、航空機の乗組員、空港全般の保守管理、自動車の運転手、整備工場、自動車製作工場、電車の運転手、鉄道の各種保守管理、最低でも15万人は必要と思われます」「オトーマターは一人ひとり、個性をもたせるべきです、魔法の発動は制限しますか、原子炉は必要ですか、人の加齢に容姿を合わせますか、一緒に生活する上で軽い精神魔法の発動を容認しますか、オトーマターの死を認めますか」重たい疑問が次々に出される。


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