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市長はレストランでツキヨミとふたりきりで、会食しています。「ツキヨミさんは、この世界をどのぐらい、知っていますか」市長さんは、ツキヨミに恋をしていいます、もちろん市長はそれをツキヨミに告白するつもりはありません。ツキヨミの置かれた特殊な環境、そして自分の惨めな立場。守るべき人間もいないのに、もう無人の都市を何千年も維持している。許されるなら、ツキヨミを拉致して都市と無関係の亜空間の世界で、バーチャルリアリティーの世界を構築してくらしたい。しかし、そしてそれを実行しても、ツキヨミは時空の嵐に逆らえまい、ツキヨミとけん族達は、時空の狭間に流される事を止められる者はいない。なら、自分もツキヨミのけん族になれば、問題は解決する。管理人さんは、亜空間にダンジョンを持っている。管理人さんと亜空間のダンジョンは、ツキヨミ神によって関連づけられている。市長さんも亜空間の電子頭脳と依代を、ツキヨミ神によって関連づけてもらい、同時にツキヨミ神のけん族にしてもらえれば、すべて解決する。仲間も出来る。
「市長さん、私たちは、ほとんどこの世界を知りません、あと2年半しかありません、ここで市長さんと食事をして、美術館巡りや、音楽鑑賞する時間を大事にしたいのです」ツキヨミも恋をしてます。じっと市長さんの眼を見つめています。
忍者隊は訓練所にいます。都市との戦闘に、赤子の手をひねるように、やられたことが悔しくて、研究に研究を重ねています。勝てなっくてもよい。完璧な防御を目標にする。いま忍者隊の誇りは、ツキヨミのけん族であることだ。けん族の古語はけん族神である、意味は神のおつかい神である。せめて神を守ることが出来なっくて、忍者隊の存在意義がない。すこし忍者隊は焦りすぎです。
忍者隊の次なる目標は、戦車を幻影魔法で出し、戦闘に参加させることである。影丸も加わって、方法論を協議する。単に魔法量だけの問題なら、影丸にも考えがある。ツキヨミの収納庫に大量にある、魔法エネルギーマナ結晶鉱石を亜空間に収納し、忍者隊一人々々に神威により関連付けることである。しかし、魔法量の増大と、魔法の顕現化とは意味が違う、魔法量0に近い幻影魔法で、顕現化のきっかけも掴めなければ、膨大な魔法量を与えても、魔法は発動しないかも知れない。しかし同時に魔法量の不足が魔法の顕現の発動に至らない場合もある。
少し目標のレベルを下げた。まずスポーツカーを幻影魔法でつくり、管理人さんをデートに誘う。目標がはっきりすると忍者隊は、張り切ります。戦車の顕現化まで、あと少しです。
やはり鼻づらに人参をぶら下げると、効果はてき面です。各々自分の好きなスポーツカーを、運転して管理さんをドライブにさそいます。管理人さんも、みんなの苦労が分かるので、ひとつも断りません。でも忍者隊のみなさんは、誰も告白しません、暗黙の了解があるのです。
古代遺跡の近くの小高い丘で、管理人さんは地面を指します、「ツキヨミさん、地面の下で巨大なダンジョンが生まれました、やがて、都市も古代遺跡の私達の街も飲み込まれます」「何年ぐらい」ツキヨミの質問に、管理人さんは「5年」と短く答えました。「いまからダンジョンの中に入れる」ツキヨミの言葉に管理人さんは肯定とも否定ともとれる言葉を返す「生まれたてのダンジョンは宇宙創造の初めと同じです、天と地の区別もない、巨大なエネルギーの塊です」管理人さんは、しばらく沈黙したのち、「私とツキヨミさんなら、入れるかもしれません」と答えた。
ツキヨミと管理人さんは、結界を張り、生まれたてのダンジョンを強くイメージして集中していた。空間転移陣を造り、イメージが現実と重なる瞬間をまった。一時間、二時間、三時間、重なったイメージを途切れさすことのないように、集中して空間を移動する、いや、まだ空間も時間も移ろい、変化を繰り返し安定を求めている、ツキヨミが見ているものはダイナミックなエネルギーの波動、音、色彩、焼けつくような匂い、やがてそれらは、人型へと変化していく、人型の心臓が力強く脈動する。「私の妹が生まれた」管理人さんは、両手を胸に合わせて、人型を見続ける。
まだダンジョンの誕生を知らない都市は、なんの変化も無かった。無人の都市、一歩でも都市に足を踏み入れると、途端に都市は生き返る、人々の動く波、商店の売り出しの声、車のエンジンの音、怖いまでの静寂と今の喧騒の対比
が夢を見ているようにおもえる。ツキヨミと管理人さんは市長と面会しています。「緊急を要する事が発生しました」ツキヨミの言葉に、市長はいつもと変わらぬにこやかな姿で、二人を迎えてくれました。「どのような事でしょうか」 管理人さんが説明します「古代遺跡のそばの小高い丘をご存じですか」市長は「知っています」と答えると、管理人さんは「巨大ダンジョンが生まれました、今は小さいけど、5年後には、遺跡都市も市長さんの都市も、ダンジョンに飲み込まれます」
市長は考え込みました、同時に肩の荷が下りたような気持ちになりました。市長は管理人さんの言葉を、露程も疑っていません。始めて会った時から、ツキヨミの事も、管理人さんの事も、分かっていました。都市の移動は考えていません。出来ないのです。




