人のいない街
管理人さん、買い物、ご一緒します。少女型オートマタの一体が管理人さんの手をそっと握った。恥ずかしそうな顔をしています。「あなた、お名前は」管理人さんは、優しそうな声できく。「花子です、管理さんの手伝いをするように、ツキヨミ様に言われました」
管理人さんは生まれたてです、花子も生まれたてです。
ツキヨミが造った新しい街は、入植者500世帯のための街です。世帯あたりの耕作面積は当発計画の倍になりました。生活に困らないよう、様々な制度がつくられました。財源は2期目の収穫のお金です、ツキヨミには使い道が無いのです。お金は組合で管理し、もしもの場合に備えます。
街には食料品、金物屋、いろいろあります。ツキヨミも店を開きました。自分で造った綺麗なアクセサリーをならべました。楽しくって採算など考えていません。立派な店舗を構えながら、模擬店感覚です。あと半年で閉店の店なのです。
花子との買い物は管理人さんにとって初めての経験でした。はじめは内気な花子でしたが、なじんでくると、管理人さんに冗談を言うようになりました。寄り添うように、手をつないで歩くふたりでした。
村の将来は国王と、公爵に頼んで来ました。魔族の国にも最後の挨拶をしました。もう、会う事もありません。
去るときが来ました。気がついたら時空の狭間でした。ツキヨミ、管理人さん、十人衆、オートマタ、影丸、けん族の動物、みないます。ツキヨミは空間収納庫を逆転して亜空間を展開しました。大きな湖があります。瀟洒な家が湖の上に浮かんでいます。狼やウサギや栗鼠、小鳥たちが遊んでいます。
さあ、みんな入って、私たちの家よ。ツキヨミの言葉に亜空間のなかに、みんなはいりました。前の家よりかなり増築されています。別棟も立てられました。
時空間の狭間はなにも無い場所だった、ツキヨミや影丸は分かっている。この空間に長く拘束されていたから、しかし今は違う、メイドたちが、かいがいしく、働き清掃が終了した。
花子たちが入れてくれた紅茶は、おいしかった。黒猫は自分の居場所を早速きめる。虎も気に入った場所に横たわる。もう誰も動かせないと思う。早いもの勝ちだ。
テーブルを囲んで協議する。まず、各人の部屋をきめます。次に工場をこちらの空間に移動するかどうか協議します。影丸はどう思う、ツキヨミはテーブルに頬杖しながら、意見を求める。「ツキヨミ様、遺跡はどうしますか」「この庭にフィットすればOKです」「工場は庭に似合いますかね」「ばか、庭に似合う工場を設計するのが、あなたの仕事じゃない」結局、古代遺跡も、素材倉庫も、工作機械も、何もかも、こちらの空間に移動することに、しました。それはそうですよね、あっちの空間、向こうの空間といってたら、仕事になりません。
すべて入れてから、亜空間の半径をきめます。設計段階では、余裕を持ったつもりでも、物をいれると狭く感じるものです。しかしエキゾチックな景色になりました。観光名所になりそうです。工場も赤レンガで、小樽運河か横浜かといった雰囲気です。喫茶店が欲しいですね。
ロボット100体のおかげで、思ったより早く工事は終わりました。管理人さんのダンジョンはこちらに持ってこれません。ダンジョンは管理さんの体そのものです、だから常に、管理人さんとわずかに位相のずれた、亜空間に置きます。
ツキヨミはこの機会に十人衆に名前を与えることにしました。「いまからお前に名を与える、霧隠才蔵と名乗れ」「はい、ありがたき幸せです」「おまえ、知っているか、神が名を与えた場合、その名は体を現す、霧隠才蔵は戦国時代の有名な忍者だ、霧隠の術が使えるか」「出来ません」「なら、2年以内に霧隠の術を使えるように特訓する、出来ねば拷問の上、死刑だ」前に影丸に言った言葉をそのまま使って、影丸を教官にした地獄の特訓が始まりました。
才蔵は霧隠の術をツキヨミから転写して頂きました。後は影丸や虎やダンジョン狼や隼や黒猫、魔族衆の本気の攻撃のなかで霧隠の術を覚えます。死ぬ直前で、ツキヨミの治癒魔法を掛けられ、また放り込まれます。1日何度も臨死体験をします。2年間、続いたころ、才蔵に変化がありました。
才蔵は対峙する瞬間に、精神魔法でツキヨミから転写された霧隠の状態、ようするに濃霧の状態をイメージして相手に共有させます、戦の場におけるイメージの集団共有化を実現させることで、霧隠の術を完成させます。相手に濃霧だと思わせる一瞬の集団精神魔法です、戦の場は皆、特殊な精神構造になります、常に、相手の先を読みます、読もうとします、読まれた精神そこに集団睡眠術ともいえる霧隠の術の可能性があります。死をかけた対峙にしか、才蔵の技は発現しません。
才蔵は本当の意味で、霧隠才蔵と名乗れるように、なりました。
同じように魔族衆すべてに、ツキヨミは名をあげました。猿飛佐助・三好青海入道・三好伊佐入道・穴山子助・由利鎌之助・筧十蔵・海野六郎・根津甚八・望月六郎、ツキヨミが魔族十人衆につけた名前は、なにか聞いたことがありますね。
魔族十人衆がすべて2年の修行を終えて、名と体が一緒になったとき、伊賀の影丸を中心としたツキヨミ忍群は最強となりました。
更なるレベル上げです。影丸と魔族十人衆と管理人さんに電脳世界に挑戦してもらいます。最初はPCの理論、OSの作成、PCの設計、量子コンピューターの作成、更に完全なるバーチャルリアリティーの作成、この作業は拷問のごとく延々とつづきます。この次の世界でも生きて行けるよう、みんなで頑張ります。
管理人さんは、大規模な農業を計画しています。このあいだツキヨミと麻雀で勝って、余っている土地の開拓の権利を得ました。5人のメイドたちと楽しく計画を練ります。男の子たちも、計画に参加してもらいます。とにかくお茶を飲みましょう。ケーキもあります。
水路を作り、水田と麦畑、野菜畑そして豚、牛、馬を飼いました。牧場はのどかで、楽しいものです。
三年目でまた転移させられた、亜空間が忽ち逆転して空間収納庫にもどった。けん族は全員いる。「影丸、配下をつれて、ここがどのような世界か調べよ」ツキヨミは光学迷彩テントを設営、オートマタと管理人さん、動物たちと一緒にかくれた。なかは空間魔法で広々としている。まずはお茶の時間だ、メイドがケーキと紅茶をテーブルの上に出す。
虚構の世界、最初に影丸が感じた街のイメージである。人間がいない、動くものが無い。静まり返った世界は、死んでいるのかと言うと、そうでもない。才蔵のイメージを見る、影丸が感じているものと同じだ。佐助や、他の者達も皆同じだ、次々に意識を共有して、情報を統合する。街路、建物の中、どれも掃除が行届いている。誰もいない。
地下を探す、下水道、共同溝、地下鉄、駅、電源は来ている、ただ、生き物がいない。銀行、地下の大金庫までカメラの死角をついて近づく、セキュリティは作動している。
ツキヨミより一旦撤退を命じられてキャンプ地に戻る。
「御屋形様、いかがいたしましょうか」ツキヨミは影丸にとっては御屋形様だ、テレビで忍群の頭はたいがい御屋形様と言われる。
ツキヨミは、街の機能が正常に働いていることに、違和感を覚える。人間がいないことではない、ツキヨミも大陸国家では、人間のいないオートマタの国を夢見た。人間は異形の者を嫌う。オートマタ50万人の安全のため鎖国もやむえないとも、思いつめた。
しかし、いまの街の機能は人間の生活を守るために、あるように考えられる。守るべき人間がいなくなったら、街の機能は止まる。ツキヨミは一つの推論にいきあたった。
「ツキヨミ様、つまり俺が銀行の金庫を破り、セキュリティにひっかかたら、警察が大勢来るというのですか」ツキヨミの言葉に影丸は思わず、言葉がでった。「影丸、お前が犯罪を犯すことで、警察が仕事をする、次に裁判所の仕事も必要になる、刑務所も必要だ。出所したあとなら、職安がお前を世話するといった仕事も必要になる。人間に奉仕する街と推測できます」
「ツキヨミ様、街を乗っ取りますか。人間がいないなら、問題ないと思います」影丸の言葉にツキヨミは難しい顔をする。チリひとつない都市、街は軍隊を出動させるだろう。軍事力が不明だ。
「影丸、街のシステムを調べろ、制御しているシステムを乗っ取る」ツキヨミの命令です。量子コンピューターも作る影丸達です。頑張りましょう。
街のセキュリティを避けながら、システムを調べていく忍者達は、さすがです。しかし、やはり限度があります。どこかで監視システムを乗っ取らねば、らちがあきません。忍者隊と管理人さんとが協力して作った超リアルバーチャルシステムを監視カメラの前に置き、要所ようしょに空間転移陣を設けました。システム管理棟までわずかです。セキュリティシステムを乗っ取りました。




