神の苦しみ
宇宙船がまもなく着陸体制にはいろうとしている。無人の惑星は,はるか昔、大量の水と炭酸ガスと窒素と僅かの酸素の存在が確認されると熱狂的な関心を呼んだが、いまは忘れられている。
当時の人類は自動惑星環境構築システムを設計・立ち上げ、将来人類の移住先として、その計画を実行した。最初の工程は人が生存できる大気の作成、そのために永続的酸素の作成のための工場とロボットの製作、大気に生命体が生きていける環境がととのったとき、原始生命体の散布、植物の種、昆虫、小型哺乳類と数百万年の単位をかけて環境をととのえる。
すべてコンピュターとロボットの作業である。隣接する宇宙空間に作られた工場衛星が無人作業で工程に従い、材料として星の欠片や衛星より必要な鉱物や素材を採取し、あらゆる物を作す、ロケットと重力によってそれらを惑星に供給する。
地球との接点はシステムが稼動した時点で、すでに無く、移民予定の人類すら遺伝子操作と人工子宮によって、そのつど作成される。
哺乳類がいた。宇宙船より外を確認すると、様々な動植物が生存していることがわかる。
移民惑星着陸船に男女のホモンクロスが100人のっている。人と同じ感情を有し身体能力は人の3倍程度引き上げている、生殖能力もある。まず擬似的にこの惑星に彼らを生存させる事が目標である。彼らが文化を構築できるか、彼らはホモンクロスとはいえ、人と外見上の差異はほとんどない。容姿、スタイル、体形は不自然にならない程度に人の理想形を体現している。寿命は長く、数百年は生存し、死を迎えるときは、美しい容姿のまま淡い光に包まれて分解する。
着陸船とはいえ、様々な工作機械、建築機械があり、それ自体が工場、基地、あらゆる目的に対応できる。ホモンクロス達は自らを開拓者と名づけた。
計画に間違いがあるのは当たり前である。彼らは宇宙船に保管されていた1体の人の受精卵を解凍し特殊なポリ袋のなかで育成した。女の子である。彼女を成長させ、人の文明をこの惑星に作り、定着させる事が彼らの生きる目標である。と計画は変更された。
GPS衛星を打ち上げ、カレンダーの作成と地図の作成、自然環境の確認、資源の調査、やることは多くあった。彼らの姫君が人工子宮から出るまえに、人が生きていける環境を限定的であっても作らねばならない。周囲の探検からはじまった。
見たことも無い様な山岳と谷の起伏、滝と渓流が水の豊富さを物語っている
「拠点キャンプを中心に100kmを調査しよう」開拓長のノートが提案する。
イオンとレイクが志願した「人間に有害なもの、生物、細菌、土壌も排除、無害化しよう」
開拓者のあいだに1回目のミーテングが開かれた。
「半径10kmに防御壁を作ろう、外側に空堀をつくり、ほりあげた土を壁の土台にして材木を伐採して10m程度の壁をつくろう。セメントと鉄筋が必要です」
無人の万能土木作業機によって掘削幅20m、掘削深30mの空堀が瞬く間に完成した。ほりあげた土は壁の土台として幅50m、高さ12mに敷き均し、近くの山で見つかったセメント材と混合して突き固めた。鉄も近くに鉱山を発見し精錬、加工と問題なくできた。
材木は大量にあった、なにせ原始林なので農耕予定地の材木を優先的に伐採した。
農耕予定地の土質検査をした。「有害物質は見つけられませんでした。土壌も豊かです」「早速万能農業機械で耕そう」
「着陸船にある土木機械や工作機械の耐久性も永遠ではない。早急に工作機械を現地の部品で自作で出来るようにしよう」
二回目の開拓会議が開かれました。「太陽光発電、水力発電、絶対安全原子力発電の建設は、工場を作る上で必要です」議長のノートが提案しました。
食料担当のミサト女子が「食べられる現地の植物、動物、魚の調査が必要です、また宇宙船のなかにある米、麦、野菜の種子を農耕地で育てていくことも同時進行で進めます、あと豚、牛の受精卵も早急にポリ袋の中で育てましょう、家畜の放牧地も必要になります」
ホモンクロス達は優秀です。地球型の農作物を単に育てるのではなく、この惑星に自生する植物のDNAを取り込んで、無理のない農業品種を研究しようとしています。それは家畜も同じです。そして最も重要なことですが、この星に生きていくために、人間も自分たちホモンクロス達も、多少の歩み寄りが必要不可欠だと、かんがえています。自らの遺伝子を操作しても・・・
ツキヨミ女子は目を疑った、眼前に人工建築物がある。
この惑星は誕生して時間を置かずして人間の管理下に置かれた。
自立型ロボットによって間近の空間に工場宇宙衛星が作られ、無限と想われる時間を生物生存可能惑星になるための様々な操作がなされた。
他の知的生命体がいるわけが無い、いまここに存在するのはまだ人間とも言えない1人とホモンクロス100体、自立人間型オートマタ多数。半自動型
工業ロボット多数のみ。
私は忍者オートマタ100体に24時間体制で建物より10kmまで監視を行わせた、また調査オートマタ100体に人工物の存在、生活反応の有無を調査を行わせた。
ホモンクロスは1人の体験を全員の体験として共有できる、それは映像として送るとか、時間の1点を切り取って情報を送るとかでなくツキヨミ女子の、拠点キャンプから謎の人工物の発見、驚愕、有るはずが無いとの疑問、そしてこの惑星は始めから我われが管理してきたはずだとの思い、無限とも想われる管理とツキヨミ女子とのかかわり、それら全てが一瞬に他のホモンクロスに送られる、時間的に過ぎ去った事象が追体験という言葉で客観的に送られるのでなく、いま自分が体験しているむき出しの感情、むき出しの時間、数時間の流れ、理解できないかもしれないが数百年の時の流れでなく、いまあるもの、過去にあったものが今ここに展開されているものとしてリアルに同時展開されているのだ。時の流れとしてではなく、時々の全てが、事象の全てが圧縮されて展開される。要するにツキヨミ女子が自転車に乗れたら、ホモンクロスの全員が自転車に乗れるようになる。
この報告に全てのホモンクロスがツキヨミ女子の見ているものを知る。
「構造物の周りに道が存在します。森と全体を庭園とみなし、遊歩道としての目的があると想われます。建物は湖に浮いています。湖は広く深い、水深500m程度、色はコバルトブルー、透明度は不自然なくらいあります。建物はガラスを多くつかい、まるで妖精の国の離宮のようです。周囲20km範囲に我々の知らない結界がはってあるようです。その結界内に美しい大型の狼に似た動物が警備するように徘徊しております。数は不明です。
「結界の存在はなぜ、わかりますか」
「植物の種類が円状に中と外とは違っています。単に生息域が違うと言うのとは違うようです。可愛らしい小動物や小鳥の生息数も多数おります、おとなしく美しい草食動物もおります、鹿やカモシカが見受けられます。動物たちは狼を恐れません」
「いま、そちらに私たちも行きます。待機していてください」
基地キャンプは興奮していた。様々な問題が懸念される。特に惑星の所有権について・・・




