5.鑑定
おはようございます。
いい昼ですね。
こんな日はお日様の光を全身に浴びて元気に遊ぶのがいいだろう。
が、生憎と元ひき……自宅警備員の私には昼寝はともかく動いて回るのは自宅警備道に反する行いなので全力でスルーさせて頂く。
旅には出るけど、のちのちは移動手段を手に入れてのんびりとするつもりだ。
自分が動かずに楽しむやり方は、他とはまた違う醍醐味が味わえる。
それにしてもだるいなぁ〜。
逃げて忍んで狩りをしてと、休憩らしい休憩を挟んでいない。
瞬発力はなにも、体力増強のステータスじゃないのだ。
限界はある。
私は動き詰めでもうヘトヘト。
どうも洞窟に入ってヒャッハー!って気分にはなれない。
猫だから夜行性寄りなのは分かる。
でも、ここまで睡魔の影響を受けるのはもう猫関係なしに私の生活リズムの問題なのではないだろうか?
まあ、別に急ぎでもないしモチベーションは大切だ。
探索は明日でもいいか。
無理して怪我なんてしたら、レベル上げをやる期間が余計に伸びてしまう。
なにより、私が痛い思いをしたくない。
それに情報が一切ない異世界なのだ、何にとって食われるかわかったもんじゃない。
迂闊な選択は死亡フラグだと線引きしておくのが妥当だろう。
でも、何もしないのも、なんだか時間の浪費に感じて罪悪感を感じてしまう。
ネトゲイベントを毎日欠かさずこなしてた名残か。
そうだ。
確か鑑定スキルのレベル上がっていたはずだ。
今なら前より出来ることは増えているんじゃないか?
ふっふっふ、リベンジと洒落こもうじゃないか。
スキル諸君、今の私を前の私と思わないことだ!
いでよ!鑑定!
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隠密:隠れる際に相手の意識が向きにくくなる。
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気配遮断:発動状態中の臭い、音、気配を悟られにくくする。
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風魔法:風を出し、操れる魔法。
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水魔法:水を出し、操れる魔法。
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炎魔法:火を出し、操れる魔法。
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鑑定:あらゆるものの名前、詳細を知ることが出来る。(レベルにより効果の上下あり)
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経験値増大:経験値を通常より多く取得する。
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ステータス上昇幅アップ:レベルアップ時のステータスの伸びが良くなる。
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限界突破:レベルを消費し続ける代わりに、本ら&¥@かみ@:¥&行@¥る。
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インベントリ:物の収納ができ、収納したものはリストによって記載される。
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毒付与:スキル、道具に毒の効果を付与する。
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隠密系も言うことなし。
限界突破の文字化けが気になるが、想像してた効果とは違うっぽい。レベルが減るみたいだしとうめん使うことは無いだろう。
後は概ね予想通りのやんちゃスキルっと。
こんなもんだろ。
やることやったしそろそろ寝ますか。
さっき寝てたろうがって?さっきはさっき今は今という魔法の言葉を知らないのかい?
それに、猫だからね。
基本寝るのが仕事みたいな種族だ。
こればっかりはしょうがない。
許してくれ、限界突破を所持しててもこれが私の限界だ。
私は早々に夢の中に逃げたいと思います。
ほんにゃら、おやすみなさい。
◆◇◆◇
ダンジョン内。〇〇視点
目覚めると、そこにはいつも通りの天井があった。
毎日起きては目にする、何の変哲もない天井。
昔はシミが顔にみえて夜な夜な泣いていたものだが今となっては気にも止めない。
寝返りを打って、横を向けく。
そこには、いつも使っている立てかけ式の姿鏡があった。
映っているのは、ちっとも女らしくない、寝癖だらけの頭をした自分。
別に諭す相手もいないので、整える必要は無いのだが生憎と時間は余っているので軽く整える。
しかし、生活のリズムは決して悪いものではなく、何年もの間死と隣合わせの生活をしてきたこともあり、眠りは浅く、起きるのはいつも早朝。
目が冴えるのも早く、二度寝をする心境にはどうしてもなれなかった。
手持ち無沙汰で困っている両手で軽く髪を梳かし、手製の櫛で仕上げて、漸く我の一日は始まる。
◆◇◆◇
その後の行動は大体決まっている。
いつもと同じようにベッドから出て、顔を洗い、朝食をとる。
今日の朝食はルスタフの肉を葉野菜と岩塩で和えた簡単なサラダだ。
ルスタフとは、このダンジョンに発生する触手型の魔物である。
見た目はグロテスクだが食材としては優秀で、少し酸味が効いていてサラダなどのさっぱりした料理にぴったりなのだ。
食事を終えて、身なりを整えると、管理している畑に向かう。
管理と偉そうに言ってはいるものの、主な仕事は雑草むしりと水やりだ。
あとは病気になった時の対処程度。
それが案外手間なのだがやることもない我にはもってこいだ。
どちらかと言えば仕事ではなく趣味に近いかもしれない。
◆◇◆◇
殺風景な街を歩いていく。
人は誰も住んでおらず、建物以外は何も無いゴーストタウン。
唯一の娯楽施設は図書館ぐらいなもので、畑でもやっていないと本当にやることがない。
果たして、書物の解読を娯楽と呼んでいいのかも怪しい。
そんな場所だが、我は少なからず気に入っている。
物静かで穏やかに生活を送れる。
五月蝿い人間族が居ないだけで心が安らぐ。
我は普通の人間族の様な生活を送りたいが人間族は嫌いだ。
あんな他者を嬲って監禁するような異常者達と一緒には居られない。もっと人として外れない生き方を我は望んでいる。
そう、普通……
我が思い描く普通……
子供の頃から迫害され、遠ざけられ、ここに捨てられた者が思い描く理想像。
何が正しくて何が間違っているのか、教えてくれたのは本達だった。
四年。
私はこのダンジョンをさまよった。
生きるために技を磨き、殺すために力をつけ、無人の廃棄で知識を蓄えた。
長いようで短いなんて、軽い言葉で過去にあったことを片ずけるのは簡単かもしれない。
でもそれでは、我のこの人生が何でもないことのようじゃないか。
我はあの頃何を求めていたのだろう。
なにに怯え、何故泣いていたのだろう。
咽び泣いていた昔の自分を思い出しながらゆっくりと目的地へと歩いていく。
我の過去は悲劇ではない。
どうでも言い訳なく、私を構成する一部だ。
今の些細な幸せを築いている過去を蔑ろになどさせやしない。
この先の人生、例えかわりばえのしない生き方でも、それはそれでそこそこ楽しいのだ。
最近は同居人も増えてやれることも増えた。
何も悲観などしなくていい。
そんなことを考えていた矢先のことだった。
彼女の頭に突如、侵入者を感知する警報が鳴り響いた。
侵入者?ここに?
いや、そんな馬鹿な。
このダンジョンには強い魔物が湧くことで有名だ。人は愚か、獣ですらここへは入らないというのに。
一体何処の命知らずだ。
とりあえず今は侵入者の詳しい情報を調べる。
我は管理者の力で読み録ったデータを見てみた。
これは、もしや猫か?
何故このような場所に猫が。
分からない。
相当間抜けな猫らしい。まさか迷い込んできたのか?
入口にも魔素は満ちていただろうに。
「これ、どうしよう」
我は独りごちて映像を眺める。
このダンジョンは一度入ったら最下層に行かない限り、けして出られない。
もうこの猫に選択肢は残されていないのだ。