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第1章:チュートリアルですよ?ちょっとハードな.......
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4.安全

 現在、私は木の上に潜伏していた。

 懲りないな私も。

 この陽の光の心地よさを知ってしまえば、誰だって抗えまい。

 それに、昨日無茶したせいで体の調子が少々悪いのだ。

 猫らしく背伸びをしてみたものの、溜まった疲労がいまいち拭いきれない。

 気だるさにどうしてもどんよりしてしまいそうだ。


 しかし、生きるためには、ただだらけていることも出来ない。

 走って隠れて驚いて、色々な出来事が過ぎれば当然お腹も減る。

 コンビニなんて便利な施設があれば良かったが、この環境と姿ではどうにも苦しい。

 食い扶持は自分で賄わなければならないのだ。


 ―――――――――――――――――

 名前:未設定

 種族:レッサーボア

 ―――――――――――――――――


 大きさはおおよそ猫三匹分。

 色は一般的な猪と同じだ。

 その体躯で私と同じレッサーを名乗るなど片腹痛い。虫唾が走るぜ。


 名前と種族しか見えないのは鑑定のレベルが1だから仕方がない。この辺も要検証しなければ。

 それと、スキルと言えばだが、現在私は隠密と気配遮断を使っているので、相手にはバレていない。

 この二つ、どうやらMPを消費しないで使えるらしい。

 時間が経って満タンではあるがただでさえ雀の涙ぽっちなのだ。温存しておきたい。


 今は、観察して隙の多いときを探っている段階。

 狩りの経験がないので、慎重にことにあたるべきなのだが。

 暫く観察した中で、警戒しているそぶりがまるで感じられない。

 ふごふご鼻を鳴らしながら木の根っこを口にくわえて転がったりしていたし。

 不意をつけば案外行けそうだ。


 私が空腹なこともあってその先の判断は早かった。

 殺るべし。

 今回使うのは隠密に優れていそうな風の魔法。

 例のごとく、イメージを固めてスキルの発動に身を任せる。

 心の中で気合の叫びを発すると、シュッと軽快な風切り音が前方へと飛んでいく。不可視の刃はそのまま吸い込まれるようにしてレッサーボアの首をはねた。

 想像したのは鎌鼬。

 古来より伝わる風の妖だ。

 しかし、思いのほか高威力なことに驚きだ。

 スキルのレベルは1なのに、あの太い首を一撃で飛ばすなんて。

 いくつか血管を切って隠れているつもりだったが手間が省けたな。

 自分のしでかした事に畏怖を抱きながら、頭の中ではファンファーレが鳴り響いていた。


『レベルがアップしました』


 そんな文字が脳内に浮かぶ。


 知らせてくれるのはありがたい。

 レッサーの首チョンパだけでレベルアップ。

 スキルの経験値増大が仕事をしてるのだろう。幸先は好調だ。

 早速確認を……


 ―――――――――――――――――

 名前:未設定

 年齢:0

 種族:レッサーノワール

 Lv.2

  HP:110

  MP:18

  筋力:16 瞬発力:113

  防力:14 魔攻力:50

 ―――

 スキル

 隠密Lv.1 気配遮断Lv.1 鑑定Lv.1

  魔法Lv.1(火、水、風) 毒付与Lv.1

  インベントリLv.Max

  希少スキル

 経験値増大 能力向上幅増大 限界突破

 称号

 弱者

 ―――――――――――――――――


 ステータスの伸びがいいな。

 生存率を上げるために力は必要だし、増える分には喜ばしい。

 暫くはこの調子でレベル上げにせいを出すことにしよう。

 食事を終えたら出発だ。


 ◇◆◇◆


 猫が教える三分クッキングぅー。

 まずは猪を丸ごと一頭用意しましょう。

 用意できない場合はまたのご来店をお待ちしております。

 頭はあらかじめ落としておき血抜きも済ませておいてください。私は何も教えません。

 血抜きはするとしないとでは、味が大きく変わってくるので、出し惜しみせず水の魔法を血管に流して血を押し出す。

 ちゃんと水抜きをして皮を剥いで内蔵を取り出せば下準備は完了。


 次に、肉を一口サイズに切って、火をおこす。

 なるべく平たい石を水で洗って火で熱消毒。

 後は焚き火の上に石を翳して肉を焼くだけ。

 ちなみに、風魔法で周りに漂った血の匂いも散らしたので、少しはゆっくり出来るのだ。

 ただし時間、体力、MP共に使いすぎたので襲われても何も出来ない。

 食はそれほどまでに私を支える大切なジャンルだ。手抜きは許さない。

 タレなど作っていないので、素材の味を楽しむ。

 焼き加減はミディアムレアが好きなのだが、安全かどうか分からないので火はしっかり通してある。

 では頂きます。


 フォークやナイフを使わない獣ならではの直食い。


 舌をしっとりと包む肉汁が口の中いっぱいに広がり、こんがりと香ばしく焼けた肉々しい風味が脳髄を痺れさせる。

 甘みのある肉汁に涙が出そうだ。


 こんなんですが、これまで女として十八年生きてきたんです。

 多少の料理くらいはこなせます。

 まぁ、家から出ませんが……。


 しかし、やたらと美味しいな。

 本当に何もつけていない肉なのに、空腹が味覚を敏感にしているのだろうか。

 身体に足りていない栄養は美味しく感じると聞くし、そのせいなのかもしれない。

 少し寒い気候だからか、厚い脂肪で覆われていたレッサーボアは栄養を蓄えていてもおかしくはない。


 新発見だ。

 どうやら私は幸せに慣れすぎていたようだ。

 せっかく転生したんだし、これからは心機一転して旅に出るのもいいかもしれない。

 異世界の食文化。

 考えただけでヨダレが出そうだ。


 この二度目の命で私は世界を見て回ろう。

 夢にまで見た異世界でのスローライフ。

 その為にも、今はレベル上げだ。

 先を見越して選択の幅は広げておきたいしね。

 勿論、安全第一でだが。

 前世で夢想し続けたレベリングを試せる日が来たのだ。


 ルンルン気分で立ち上がり、食べきれなかった残りの肉をインベントリの中に入れる。

 インベントリは、好きな時に亜空間から物を出し入れできるスキルだ。

 入るかな。

 レッサーボアの肉の収納を念じると、瞬時に視界から消えた。

 これ、使う人によってはチートなんだろうなぁ。

 商人が欲しがりそうである。

 この世界でのスキルの価値観しだいなので今は分からないが、持っていなかったら商人失格なんて場合もあるかもしれない。

 又は、希少価値が高すぎて貴族に狙われるとかね。

 人里に降りる機会があったら、むやみに使わないようにしよう。


 ま、それは兎も角として、レベル上げに行きますか。

 日が暮れたら行動不能になるのは昨日の出来事で痛感した。

 やらないといけないことは早めに済ませておかないと。

 意気揚々と出発の決意を固め、前方に目を向けた。

 既にレベリングをする場所に目星はつけてある。


『固有名詞:ダンジョン』


 土の壁にぽっかりと空いた小穴を、木の根が隠す形でおおっているそこは、異様な空気が中から流れ出し、まるで訪れる者を拒んでいるようだった。


 やはりあるのか、異世界物名物。ダンジョン。

 料理に使う薪なんかを拾っている時に偶然見つけたのだ。

 魔法が存在している時点で推測はしてたけど、まさかこんな早くにご対面とは。

 でも、こっちとしては好都合。

 ステータスが貧弱ではすぐにやられてしまう。

 最悪、気がついたら胃袋の中でした、なんてこともあるかもしれない。

 今は、程よい狩場であることを願うばかりだ。

 危ない雰囲気を感じたら敵を確認してなくても即撤退。

 深くは踏み入れない。どの道外も敵だらけなのだから早急なレベル上げをしないと夜もまともに眠れない。

 これは必要な危険だ。

 だがしかし、万全を期すためにもまずは先程使ったMPの回復を待とう。


 ダンジョンの探索は仮眠をとってからだ。

 私はレッサーボアが掘り返した木の根元でそっと目をふせて丸まった。

 おやすみなさい。

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