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第1章:チュートリアルですよ?ちょっとハードな.......
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3.少しの前進

 逃走を余儀なくされてから少し後。

 私は腐葉土に汚れつつ、逃走への限界を感じ始めていた。

 確かに、一般の仔猫よりも運動能力が長けていることは認める。

 軽自動車並の体躯を持った動物から追いかけられても距離を保てる敏捷性と持久力に疑いなど勿論持っていない。

 ただ不運なことにも他に問題が発生してしまった。

 いや、発生したと言うと語弊があるので訂正しておこう。

 私はもっと早くにその可能性に気づいて然るべきであったのだ。


 それはひとえに異世界転生の可能性。

 一部の娯楽の中で一風を風靡したジャンルの一つ。


 かくいう私もそのカテゴリーに魅せられた者の一人である。

 何故もっと早くに関連付けなかったのか今となっては不思議でならないが、逃走中に魔法を撃たれるまで選択肢にすらなかった。

 そう、魔法。魔法だ。

 ファンタジーものの創作物に登場する浪漫要素の一つ。

 一度は使ってみたいと誰もが夢想するあれのことだ。

 それをあの狼達はあろうことか仔猫一匹を仕留めるために行使してきた。

 獅子は兎を狩るのにも全力をつくすと聞くが、あんまりだ。

 体格差を考えれば割に合わないのは明白だろうに、奴らは執拗に追ってくる。


 私が何したってんだよ!


 今も必死に逃げる私の背に、火の玉的な何かが一定間隔で飛来して来ているが、一向に当てる気配はない。

 ほんの威嚇射撃と言わんばかりに狙いはブレブレだ。

 もしかしたら食事としてでは無く、遊び道具として見られているのではないだろうか。

 そう考えると、最早その執着に恐怖しか浮かばない。

 おっかない顔した火を噴くイヌッコロはその気になったら私など消し炭にできるのではと嫌な想像が捗る。

 その醜悪さに、私はあれがケルベロスだと言われても信じられるだろう。


 ここが日本ではないことは疑う余地もない。

 控えめに見ても人類の未到達領域で相違ないだろう。

 いきなり猫になっていたことを踏まえても私の知る常識は無力だ。

 しかし、考えを改めることによって新たな可能性が浮上した。


 もしやいけるのでは無いか?


 ここが異世界だと仮定すると、ド定番の安心設定ステータスウィンドウ的なものがあってもおかしくない。というかあってくれ。

 この危機的状況の打破は出来なくとも、何かしらの糸口くらいにはなるだろう。

 私は一縷の望みを込めて、絶叫混じりの声を上げた。


「ぅにゃぁぁぁぁん(ステータスさぁぁぁん!!)!!」


 ―――――――――――――――――

 名前:未設定

 年齢:0

 種族:レッサーノワール

 Lv.1

  HP:100

  MP:10

  筋力:10 瞬発力:100

  防力:10 魔攻力:40

 ―――

 スキル

 隠密Lv.1 気配遮断Lv.1 鑑定Lv.1

  魔法Lv.1(火、水、風) 毒付与Lv.1

  インベントリLv.Max

 希少スキル

 経験値増大 能力向上幅増大 限界突破

 称号

 弱者

 ―――――――――――――――――


 まさか、本当に出てくるとは思ってもいなかったので少々びくついてしまったのは秘密だ。


 名前は野良だからか未設定になっている。

 スキルはレベル1が大半。

 基準値を知らないのでなんとも言えない。


 若干、称号は気に食わないが、今はスルー。

 それに、今求めているのは打開の手段だ。

 チート臭い、希少スキルのことも今は置いておく。

 待望だった魔法も有るし、まずは逆境から抜け出そう。

 基準値を知らないので判断できないが、10MPが少ないのはわかる。

 発動できたとしても一、二発が限度だろうか。

 失敗は許されない。そんなプレッシャーの中私は行動に転じた。


 疾走しながらイメージする。


 思い浮かべるのは炎。煌々と瞬いて敵の意識をさらっていく、そんな光景を思い浮かべると、あたかも当然のようにスキルは発動した。

 颯爽と後方へと翔る火の玉。

 イメージしたよりもふた周り程小さいが、光量は十分。暗闇の中で、ひときは際立つ火の玉に狼達の視線が一瞬ではあるが、火の玉に集中した。


 今!


 それを好機とばかりに道を外れ、茂みの中で水魔法を使い泥を作りそれを被った。

 匂い消しだ。


 どうやらあの程度の魔法であればMPの消費は5でいいらしい。それを二発使ったのでカラッケツになってしまったが、特に行動に支障はない。

 よく小説などである意識混濁などなくて良かった。

 幸いスキルの隠密と気配遮断は発動したので兼用し、脇道から来た方向に戻る。

 狼達は、突如として喪失した目標に狼狽を顕にしつも、近辺の捜索を開始していた。

 その様子を目端に捉え、夜闇に紛れつつも私はほくそ笑むのだった。


 ◇◆◇◆


 翌朝、私は改めてステータスの確認を行っていた。

 ふと思ったのだが、逃走中に一番お世話になっていたのは恐らくだが、ステータス内の瞬発力じゃなかろうか。

 明らかに一つだけ数値がおかしい。

 ほかが二桁なのに瞬発力だけ百だし。

 それに、今までの出来事とステータスを見比べた時、直接的に関係ありそうだし。

 ギリギリではあったがあの狼達から逃げ延びれたのは、言わば考える時間を稼いだ疾走のおかげだ。

 木に登った時も体が軽かったからこそできた芸当。

 瞬発力様々だ。

 これは拝み倒すくらいはしないといけないかもしれない。


 しかし、瞬発力とは瞬間的な筋肉の働きの事だったはず。筋力との兼ね合わせ的に、釣り合わなくて筋肉がボロボロになってもおかしくなかったのでは?

 そう考えると、肝が冷えるな。


『瞬発力の詳細な情報を鑑定しますか?』


 唐突に脳内で響いた声に無意識下で毛が逆立った。

 ……

 とりあえずyesで。


 ―――――――――――――――――

 瞬発力:瞬間的な動きに補正をかける能力。

 ―――――――――――――――――


 ん?


 つまりは筋肉の働きそのものではなく、ファンタジー的何かの補正だから筋力は関係ないよってこと?

 それって瞬発力って言っていいの?詐欺なのでは……?


 そもそもなにこれ。

 鑑定って、もしかして知りたいことをなんでも教えてくれる某ネットの先生だったりするのか?


 早急に色々調べれるなんて、ひょっとして私運がいいのではないか。

 これも日頃の行い、ってそんなことないか。

 こんな危険地帯に放り込まれているのだから不運を呪うべきだろう。言ってしまえばスキルなんかの能力があるのは不幸中の幸に過ぎないわけだ。


 何はともあれ情報の把握は急務。

 早速スキルの詳細を────


『鑑定のレベルが不足しています』


 ………何事もそう上手くは行かないよね。行かなすぎて涙が出そうだ。


 …………。

 それにしても、ステータスの詳細は見れるのにスキルは見えないなんておかしな制約だ。

 自分の能力ぐらいは把握できて良いのでは無いか?

 ブーメランか。

 猫になって自分の事何にもわかんないや。

 ここは誰?私は何処?

 てな具合に何も知らない。

 ひとまずは安全地帯を探しに移動しますか。

 こんな所で長居をしていては、魔法があるのに出し惜しみして獲物を取逃す阿呆なわんちゃん達に見つかってしまう。

 もっとも、もう遅れをとるつもりもないがね。


 猫になったからなのか、ステータスの概念があるからか、私の集中力は人だった頃とは比べ物にならないほど、研ぎ澄まされている。

 もう、捕食者に四方を塞がれるなんてヘマはしない。

 そう、私は学んだのだ。

 今度ことは頑丈なところに隠れよう。そうしよう。


 こうして、もう既に夜が明けてしまった森の深層に、私は身を投じるのであった、まる。


 ◇鑑定結果◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

   ――――――――――――――――

 瞬発力:瞬間的な動きに補正をかける能力。

 ―――――――――――――――――

  ―――――――――――――――――

 筋力:筋肉の働きの補正をかける能力。

 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――――――――

 防力:防御の働きに補正をかける能力。

 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――――――――

 魔攻力:魔法の威力に補正をかける能力。

 ―――――――――――――――――


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