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第1章:チュートリアルですよ?ちょっとハードな.......
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2.始まり

 耳をすませば、微かに耳朶を打つ鳥達のさえずり。

 心地の良いそよ風と、カタカタと笑う木ノ葉群が程よい眠気を誘っている。

 できることならばこのままお昼寝へと洒落こみたいところ。

 だがしかし、どうやらそんな呑気なことを言ってられる状況じゃないらしい。

 私、美祢星みねほし 梨奈りな18歳。


 現在、森の只中で遭難中である。


 ……。


 ひとまず、は?である。

 はっきりなんの脈絡もなさすぎてわけがわからん。

 目が覚めたら、知らない森の中で倒れていたのだ。

 もしもこの状況を即座に受け入れて順応できる人物が居るのであれば是非連れてきてくれ。

 手始めに、腕利きの居る病院を進めてやる。


 って言うか、なぜ誰もいないのだ。誘拐にしろ何にしろ、本来ならこの現状を作り出した人物がいて然るべきだろう。

 目覚めてしばらく経ったが犯人は疎か未だに人っ子一人確認できていないこの状況は不気味だ。

 そもそも私は根っからのインドア派で根っからの自宅警備員だぞ。

 間違ってもこんな森のど真ん中に居るような人間ではない。

 ゲーム三昧の日々にうつつを抜かせる普通のJKだったんだよ。


 昨日も例のごとく、ネトゲしてネットサーフィンして、いつも通り寝落ちしたはず。

 何が悲しくて手ぶらで遭難などしているのか……。

 しかも、まだ不幸発表会は終わっていない。

 荒唐無稽がすぎるのでなるべく簡潔に伝えると……私は今日から猫らしい。


 ご安心ください。貴方の頭はおそらく正常です。

 誰だってこんな状態になれば、フリーズくらいするだろう。

 電子機器に依存していた女が、一文無しで森の中に置き去り。更には猫?

 まったくもって笑えない。

 もしかしたら医者に診てもらうべきは私なのかもしれない。

 女が森の中、全裸で四足歩行でも冷めた目で見るのは違うよな。違うのか?


 一旦落ち着け。


 真面目な話、猫になるなんてイレギュラーが発生している時点で何が起こってもおかしくない。

 ひとまず、医者に見てもらうにしろ現状の確認にしろ死んでしまっては元も子もないのだ。

 助けなんて望めないし、暗くなる前に安全な場所を見つけなくては命に関わる。

 体感的に、私の体は成体の猫よりも明らかに小さい。ほぼ確実に幼体。

 野生下においての捕食される側。

 現状はかなり厳しいとみえる。

 元人間の私に夜目が効くかも定かではない以上、とどまる選択肢はないだろう。


 安全を確保するなら、高所にすべき……いやダメか。

 鳥類に見つかりやすいし、そもそも登れない。

 私に運動能力を求められても自力はお察しだ。

 木の洞があればいいのだが、最悪茂みで一夜明かすことになりそうだ。

 嗅覚を誤魔化せる強い匂いの植物を探して歩いてみよう。

 疑念は絶えないが今は兎も角安全の確保を優先しよう。話はそれからだ。

 目標は今日の寝床探し、そして可能な限りの食料調達としよう。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 現在地、木の上。


 言い訳させてくれ。

 あれから少しは歩いたんだ。

 でもインドア猫が闇雲に歩いたってそう簡単にことが運ぶわけもない。

 辺りが暗くなり始めた時点で諦めた。

 たとえ、猫の特性で人の6分の1の光で視界の確保ができても、怖いものは怖いのだ。


 (ガリッガリッ)


 だから、やむなく木の上に退避した。

 猫になったからか、人の頃よりも動きがいいことも幸いした。低木地帯なのか、私の体に比べて木々は小さく今ならひとっ飛びで枝に乗ることもできる。

 夜道は何かと物騒だし鳥類に気を配っていればそれほど悪いとも言えなかった。

 流石、立体を生きる猫。平面で暮らすイッヌとは違うね。


(ガリッガリッ)

 ……

(ガリッガリッ)

 ……現実見ます。すみません。


 今現在、私が居る木の周りには総数四匹の狼らしき生き物が群がっていた。

 狙いは言うまでもなく私。


 しかも、その大きさが異様にでかい。

 おおよそ軽自動車位の大きさはある、それが四桁……。

 控えめに言って、死んだでしょこれ……。


 ガリガリッ


 あーはいはい、がりがりね。ところで木の幹引っ掻くのやめてもらっていいですか?そろそろ倒れちゃいそうなんですけど?


 パキッ


 っ!?

 パキって!今パキって言ったよね!?

 恐らく木が普段出さないくらい大きな音したよね!


 パキッパキッ………、バキッ


 バキッ!?

 今完全に折れたでしょ!


 心なしか傾いていく視界。

 その光景にオオカミたちは嬉々としている。

 そんな嬉しそうな顔しないでよ!怖いから!


 これはあれだ、撤退だ。

 そもそも勝てる見込みがない。

 動物の集団VS自宅警備員なんていったい誰得だよ。


 半ばパニックを起こすも、乱戦では一匹の私の方が不利になることは理解していた。

 っていうか疑う余地もなく死ぬ。

 そりゃもう凄惨な死に方をするだろうよ。


 コンチクショウ!


 何はともあれ、急ぎ撤退をしなければならない。


 私は力一杯木を踏み締め、狼共の間隔があいている方向へ全力でジャンプした。

 火事場のバカ力なのか、地団駄を踏む狼の集団を軽々と飛び越え、開けた地点に着地できた。

 一瞬、衝撃に体が硬直しそうになるが、あえて転がって勢いを殺し、立ち上がる。

 不格好だが猫としての初陣は、狼からの敵前逃亡というなんとも情けないものだった。

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