26.人外達の会合です2
「面と向かっては初めてだし、自己紹介しとくか」
そう切り出したのは意外にも修道女だった。
てっきり歩み寄りが下手くそな子かと思ってたのに。
「へぇ〜率先して話振るなんてぇ〜どういった風の吹き回しなのぉ?」
やはり珍しいのか、姿の見えないウルドラも疑問を呈している。
「なんてことはない。僕は君について行くつもりだからね」
え、なに怖い。
「怖くはないでしょ。ただ僕にはこの格好宜しく女神様からの使命があるんだ」
そう言って修道服を着た白髪で金色の瞳をした幼女は胸の前で演技がかった身振りで手を組んだ。
「話が見えないよ。回りくどい喋り方はやめて率直に、貴女はなんなんですか?」
焦れてしまったのか機嫌悪そうに先を促すウルドラ。
それに、修道女は眉を寄せる。
「顔も出さずに偉そうだね?発言権が欲しけりゃ姿くらい見せたらどう?」
「発言権なかったの!?」
なんだろう。2人の関係性が漫才コンビとしか思えなくなってきた。
「いいから出てきてよ。話が進まない」
暫しの沈黙の後、部屋に3人目の姿が現れた。
「話しが進まないのを我のせいにしないでよ」
茶髪を腰まで伸ばした小柄な少女。赤を基調としたドレスには所々に黒のレースがあしらわれ、上質な品なことを主張している。
なのに、整った顔で拗ねられると、とても愛らしく映ってしまい、子供丸出しだ。
もっとフリフリのドレスの方が似合うのでは?
「あれ?いつもの寝間着じゃないだ?」
「そんな格好で人前に出れないよ!」
「僕の前では普通なのに、おめかししちゃって」
「君は突然現れて私生活を見てるじゃん!」
つまり、私がいるから着てるだけで、本当はもっとラフな格好なんだ。
何だか疎外感あるな。
「いやいやそんな事ない。こんな単細胞よりかは護る対象である猫の方が大事ではある」
う、うん?ありが、と?
「それだと我がハブられてるみたいじゃん」
また頬を膨らませて拗ねてしまったダンジョンマスター。多少の面倒くささを感じながらも、話が進まないので先を促す。
あと、これ以上拗ねると帰ってしまいそうなので、私はウルドラの豊満な胸に飛び込んだ。
仕方ないからウルドラにはこのムフフボディを触らせてあげる。
決して、私がウルドラのムフフボディを堪能したかったんじゃないから。ないからね!
私の濡鴉色の毛並みにご満悦なウルドラを見て、修道女は自己紹介に戻った。
「コホン。単刀直入に言えば、僕は君の側仕えになる」
「へぇ〜まさか無機物が野良猫の下にねぇ〜」
「ただの猫じゃないのは知ってるだろ?」
「確かに」
待って待って私知らないんだけど。
いつから私に傍づきが出来たの?
「そりゃもう、君が生まれ落ちる前から女神様に決められていたから、いつからって言われてもね」
「その格好で神の存在を説くと胡散臭さもひとしおだね」
にやけ面で水を差すウルドラに、呆れてしまう。
君がウルドラにする態度にも納得だよ。
「だろ?それと僕の名前はサヤだよ」
サヤちゃんね、了解。
「よろしく」
「あのぉー盛り上がってるところ悪いけど、我を無視しないでくれる?あと、我への態度の改善を要求を……」
「さぁ?なんの事だろ」
真っ当な態度だと思うけど?
「真っ当であってたまるか!」
「五月蝿い。切られたくなかったら今すぐ黙って」
そう言ってサヤは虚空から一刀の刀を取り出した。
一瞬にして黙るウルドラ。
何かされたのかな……。
「…………まぁ、ね。それより続けようか」
誤魔化した。
「お願いしまう我の尊厳の為にも触れないで……」
う、うん。何かあったんだね、聞かないけど。
「それより、丁度いいから紹介しておくね。これが僕の本体だ」
…………。
「あれ?どうしたのさ、そんな仏頂面して」
いや、だって。自分の側仕えを名乗る相手が刀が本体なんて言い出したら……ねぇ?
「そう言わず信じてやればぁ。自分の核を晒す行為は信頼の証。無下するは良心が……」
そ、そうなんだ、ごめん。
心なしか顔を赤くしているサヤに謝罪する。
じゃぁ、この刀が本体ってことにしておくか。
なんだかピンと来てないけど。
「僕のこと変人扱いしてさ。ダンジョンで暴れ回っておいてよく言うよ」
暴れたなんて失礼な。降りかかる火の粉を払っただけだよ。
「ここの魔物を火の粉と言える時点でおかしいんだけどね」
?
どゆこと?
「それは我の自己紹介の時に話すよ」
「僕は終わったし続けていいよ」
「そう?じゃぁ選手交代で」