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第1章:チュートリアルですよ?ちょっとハードな.......
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20.寝耳に水

 剣の修道女。

 サヤ視点。


 古ぼけた看板には一輪の花が描かれている。

 隙間風の多そうな立て構えに発破をかけて不気味な印象を受けた。

 腹を括って中へと入る。

 扉の先からはむせ返るほどの薬品臭が溢れ、目に滲みた。

 建物ごと吹き飛ばしてしまいたい衝動に駆られるが、それだとお使いもまともに出来ない無能の烙印を押されてしまう。

 それに、格好以外でこれ以上目立っては面倒事を引き寄せる気しかしない。

 ここは我慢だ。

 聞いたところによると、ウルドラは自分で育てた薬草を使って薬品を調合するのが趣味らしい。

 この店での用は、畑で作れない素材の補充と新作の調合本がないかのチェックだ。


 店内の奥に腰かけるのは、物静かそうなお婆さん。

 今はお疲れなのか、本を持ったまま寝息を立てている。

 店はいいのか老婆よ。

 呆れらがら近づき、肩を揺する。

 可哀想だが、僕には渡されたメモの文字がわからないんだ。

 聞く他に選択肢はない。


「ん、あ?」


 寝ぼけ眼で僕を見る老婆。


「店をほったらかして寝るなよ」

「客かい。悪かったよ」


 まだ眠いのか目を擦っている。


「お疲れのところを起こしてごめん」

「いいよ。起こしてくれなかったら死ぬまであのままだったろうからね」

「それは困るな。死ぬんならこのメモの品を用意してからにしてくれ」


 僕はメモを取り出して開示した。

 老婆も不躾な物言いにとやかく言わず、メモを受け取ってくれる。


「子供のお使いに羊皮紙を使うなんてねぇ」

「貴重なの?」

「貴重ってほどでもないけど少し値は張るよ」


 そうなのか。

 渡された貨幣も相当多いしウルドラはお金持ちなのかもしれない。


「持ってると怪しまれるかな?」

「貧相ななりの子供が持ってればそうだろうが、あんたなら大丈夫だよ」

「あぁ」


 仕立てはいい修道服に目を落とし納得する。

 街並み的に文化や時代は中世西洋。

 聖職者が利権を握っていた時代だ。

 僕の格好からして組織の一員として見られているなら一般人よりも地位が高く見られていてもおかしくない。

 失敗したな。

 この格好だけで宗教団体に目をつけられていてもおかしくない。

 街で最初に寄るべきは服屋だったか。

 多信仰の町であることを願うばかりだ。

 僕は帰りにローブを買うことを決め、老婆に先を促す。


「それで、メモの物はそろえられそう?」

「在庫はあるけど、こんなに毒草買い集めて何に使うんだい?」


 あいつ子供になんてもん買わせてんだ。


「さぁ?僕も買い付けを頼まれただけだから何に使うかまでは知らないよ」

「ふーん。詮索はしないけど使い道には十分注意するよう頼んだ相手に伝えておきな」

「そうするよ」

「ん、いい子だ。それと、ここに書いてある調合の本だけど、うちでは少し前から取り扱ってないね」

「そうなの?」

「さっきも言ったが羊皮紙は値が張る。本ともなると買い手が限られてしまって、うちの客層に合わないんだよ」


 確かに。

 言っちゃ悪いがここの店構えじゃ、好んで入りたいとは思えない。

 金払いのいい客が近寄らないのは自明の理なのだろう。

 残念ながら新作はないようなので薬草だけ買って出ることにする。

 品を集めてくれた老婆に銀貨3枚と銅貨2枚を手渡し、店をあとにした。


 ◆◇◆◇


「そうだ、ローブ買わないと」


 既に遅いかもしれないが、おそらく今後も旅をするのだ。

 今のうちに装備を整えておいた方がいいだろう。

 どうせウルドラの金だ。いくら使おうと構いはしない。

 道行く人にローブを売っている場所を聞いて、地図を見ながら向かう。



 鍛冶屋。

 魔物がいるこの世界では武器の需要が高く、冒険者や傭兵を中心に繁盛している。名のある鍛冶師は貴族に抱えられてそれなりに裕福な生活を送れるらしい。

 そんな場所に修道服で向かう僕の場違い感と言ったら、酢豚の中のパイナップル並に違和感がある。


「嬢ちゃん、ここに果物は売ってないぜ?」


 筋骨隆々のスキンヘッドが馬鹿にするように言ってくる。


「そのくらい、あんたのクソの穴みたいな顔見れば嫌でも気づくよ」

「あ゛ぁ!?」

「沸点低いな。ジョークだよジョーク」

「ガキのくせにいけすかねぇ、次ムカつくこといいやがったら裸で路上に放り出してやるからな!」

「うーい」


 店主のお許しも貰えたところで商品を物色していく。

 大盾、片手剣、槍にモーニングスターっと。


「ねぇローブは何処にあるの?」

「鍛冶屋に来て最初に探すもんが服かよ」

「最初も何もこの店にはローブ買いに来たんだけど」

「餓鬼の考えは理解に苦しむなぁ」


 ツルツルの頭を撫でながら店員は奥に引っ込んで行く。

 暫く待つと何着か衣類を持って出てきた。


「この店にあるのはこの5着だけだ。どれにする?」

「どれにするも何も大きさが合ってないんだけど?」

「うちは服屋じゃねぇんだよ。文句つけるならよそに行け」


 正論すぎるんだが。

 僕に此処を教えた奴がおかしいんだよな。


「じゃあ━━━━━━━━━━━━━━━「約束の物を取りに来た!」」


 乱暴な音と共に開口一番要件を告げる無作法な2人組。

 鍛えられた肉体は白銀の鎧を纏っているが、登場から小物臭がする。

 嗚呼、扉が可哀想だ。


「衛兵の方ですね。片手剣御注文の数揃えさせて頂きました」

「確認する」


 ヘコヘコとご機嫌をとる店主に兵を止めることは出来ず、許可も待たずに入られる。

 あの、僕の対応は?

 ローブだけ置いて1人取り残される。

 話終わってないしこれは流石に待つしかないよね。

 文句言ってしょっぴかれでもしたら帰りが遅くなる。


「数に問題ないな。……では持っていくぞ」


 おやおや?僕の耳が良すぎるせいで聞きたくもない会話が丸聞こえだ。

 これは僕のせいではないな。

 こんな体を与えた女神様が悪い。


「あのぉ。こんなに武器を揃えてどうしたんですか?」


 おっかなびっくり尋ねる店主の声がする。


「この町に勇者様が来ているのは知っているな?」


 あれ?話しちゃうの?

 口が軽いね。

 それって軍事機密じゃないの?


「確か3日前にいらしたとか」

「うむ。今は領主の館で待機しておられる」

「はぁ。これまたどうして」

「勇者様は召喚されて日が浅い。レベルもまだ低くこれでは役に立たないと国王様が嘆かれてな。どうにかするべく調べてみれば、近場に破棄されたダンジョンがお誂え向きにあるではないか。魔物の素材は軍事力強化にも繋がる。そこの攻略がてらレベルも上げれば一石二鳥だろうと話に上がったのだ」

「なるほど。つまりダンジョンに攻め入るための準備だったのですね?」

「その通りだ。後ほど町にも報せが行くはずだが、我々の勝利は確実。酒場に知り合いをもつならば、そう伝えておくがよい」

「えぇ、お帰りをお待ちしております!つきましては、攻略後の素材は是非うちにお持ち寄りください!多少は勉強させていただきますので」

「うむ。ダンジョンマスターの核が手に入った暁には我輩専用の武器を打ってもらうとしよう。首を長くして待っておれ!」



 ………………。



 ダンジョンマスターの核は武器に組み込めば強力なエンチャントが付与される。

 僕はその事をウルドラ本人から聞いていた。

 きっとこの話もウルドラのダンジョンのことを言っている。

 だからこそこの事実を伝えなければならない。

 何か対策を練らなければ。

 じゃないと…………。

 僕の猫が怪我をしてしまう!

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