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第1章:チュートリアルですよ?ちょっとハードな.......
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18.醜い過去

 ???視点


 僕は自分が何者なのか分からない。

 何なのかは一目本体を見れば説明はできる。

 でも、どうして知識を持ち、思考できるのかが分からない。

 この姿一つとってもそうだ。

 僕にとっては全く知らない容姿。白髪に金色の瞳。幼くも、愛らしい顔。今着ている白い修道服も手伝って、神秘的なまでの美しさを宿している。

 こんなの僕じゃない。


「前世ではもっと醜かったじゃないか……」


 ◆◇◆◇


 僕、戸ノ浦 柚希(とのうら ゆずき)は孤独を願った。

 願い続けていた。



 両親の他界を知らされたのは、僕が五歳の誕生日を迎えた前日のこと。風の強い雨の日だった。


 ガタガタと風に煽られて鳴る窓の音も忘れ、受話器を取り落として呆然とした。

 あの時、僕の頭の中は真っ白で、

 悲しいだとか、辛いだとか、

 そういった感情は一切抱かず、

 ただひたむきに両親の帰りを待ち続けた。

 帰りもしない家族の帰りを。


 あれは夢だったんじゃないか。そう思いたいがゆえか、ふとした時に何処からか家族の声が聞こえてくる。

 いくら探しても、どれだけ泣き叫ぼうとも、二度と戻ってこない両親の温もりを、けれど諦めきれずに家を彷徨う。そんな幼少期。


 その後、僕は叔父のところに引き取られる。

 優しげに微笑む叔父はそっと頭を撫でて、心に空いた穴を塞いでくれた。

 飢えていたのだ。

 両親を失った喪失感を埋める、より所に……。

 それが、悲しみを増長するとも気づかずに。僕は叔父に縋った。


 それから数年の出来事は覚えていない。

 聞いた話によると、僕は精神的疾患を患った叔父によって女としの辱めを受け続けたそうだ。

 さらに、酒癖の強かった叔父はことある事に僕に暴行を加えたらしい。

 そのことが明るみになったのは引き取られて、実に三年の月日が流れた頃。

 発見当時、僕の顔は腫れ上がり、四肢の骨は数カ所は折れていたという。顔に関しては治ったとしても、元の整った状態には戻らないとも聞いた。


 それからの七年間、僕は施設で育った。

 親戚は、僕のことを腫れ物に触るように遠ざけ、引受人になろうとするものなどいなかったのだ。

 理由としては……顔がわかりやすいだろうか。

 叔父に三年殴られ続けた顔は、医師の言うとおり整ったものには戻らなかった。

 人によっては僕を人間として扱おうともしてくれない。




 だからだろうか。

 僕は自殺を図った。

 屋上からの飛び降り自殺。

 シンプルだが、高さによっては確実に逝ける。

 そう思い、僕は重たい足取りで学校の屋上へと上り詰め、外への扉を開いた。

 しかし、そこには先客がいたのだ。

 腰に届きそうな長さのストレートヘアが、風に煽られて乱れている。

 女だった。

 息を呑むほど美しい容姿。

 その人物を、僕は偶然にも知っていた。

 “美祢星 梨奈”(みねほし りな)、学校で、度々問題を起こしては学校を抜け出す問題児。

 教師達には僕と同じくらい嫌われていたが、どうしてか毎回被害者が彼女をかばうから、退学にしようにもできないと、教師陣が嘆いているのを聞いたことがある。


 神のいたずらか、悪魔の手引きなのか、どちらにせよ僕はその出会いに感謝することになる。

 儚げに屋上にたたずむ彼女は、何よりも可憐で、誰よりも憔悴していた。

 誰もが理解を示さない考えを不屈の精神で貫こうとした人物。

 そんな少女は、気まぐれなのか、何もかもを捨てた気になっていた僕に幸せの見つけ方を教えてくれた。

 生きる理由になってくれた。

 その彼女のためになら僕はこの身を投げてもいいとさえ思えたんだ。


 だから前世ではそうした。

 彼女の為になる命の使い方をしたと誇りに思う。


 そして僕は女神に出会った。


 ◆◇◆◇


 この世の美を収束させたような女性。

 その存在は慈母のような微笑みを称えながら開口一番こういった。

「貴女に使命を与えます」と。

 不思議だった。

 なんの脈絡もなく、告げられたその台詞に、僕は内容も聞かずに「はい」と答えていたのだから。


「では、まず自己紹介をしますね。私はテフヌト。天界の守護神であり、転生の取りまとめ訳でもあります」

「はじ……め、まして」


 上手くしたが回らない。

 どうやら人間恐怖症は死んでも健在らしい。


「ゆっくりで大丈夫ですよ。無理をしては体に毒です」


 それからどもりながらだが、自己紹介を終え、僕は本題に乗り出す。


「それ、で。使命、とは……」

「はい。貴女にはこれから転生をしていただき、ある存在を護ってもらいたいのです」

「それ、って」

「猫です」

「猫、です、か?」

「はい、猫です」


 それが、

 剣として生き、サヤという名の下で果たすべき使命だ。

 そうすれば、死んでしまったらしい彼女を……。


 ◆◇◆◇


 既に陽が落ちた森の中。

 粛々と歩き抜ける修道女がいた。


 明かりはなくとも僕は夜目が効く。

 微かに光を放つ金色の眼光は、森の番人たる獣を睨めつけては萎縮させた。


「お使いなんて性分じゃないのに」


 口をついて出た独り言に、不快感が増す。


「洞窟の主だけを置いて、見守り手の僕が離れてどうする」


 吐いた言葉は飲み込めない。

 意地を捨てて薬を譲ってもらい、その対価として働くのは理解している。

 でも、不満がない訳もなく。鬱憤は溜まっていくばかり。

 猫もやっと二階層へ行って奴が迎えに行くのに、その場に僕は居ない。守り手としてどうなんだそれは。

 僕は少しでも長く彼女を手助けしないと行けない立場。なのに、どうして小間使いなんてやっているのか。

 甚だ遺憾だ。

 むしゃくしゃする気持ちを木に当たり発散する。

 中程から綺麗に両断された木材に鼻を鳴らす。


「まあまあだな」


 まあまあ。そう彼女が評した八つ当たりで、多くの森の生物が犠牲になったとも知らず、修道女は夜の森を悠々と歩いていく。

「畜生が」


ありがとうございました。

コレカラモガンバリマス( ˙-˙)

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