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第1章:チュートリアルですよ?ちょっとハードな.......
17/29

16.友

 気がつくとそこは知らないベッドの上。などではなく、殺風景な洞窟のワンフロアだった。

 怪我の功名か、正気も取り戻している。

 睡眠を取れたことでむしろ思考は今まで以上にクリアだ。

 嬉しいことに、この身はまだ動くらしい。

 ひとまず安堵していいだろう。

 しかし、記憶にある限りでも、相当な出血だったはず。

 なのに感覚は研ぎ澄まされ、神経は驚くほど冴えている。

 ふと、体を視界端にいれると、そこには、優美な濡鴉色の毛艶を纏った健康的な猫の身体があった。

 痛々しい傷どころか、血に濡れてすらいない。

 代わりにあるのは体毛にびっしょりとかけられた謎の液体。

 刺激臭は発してないが、昔嗅いだ野草や花を煎じた薬の香りと似ている。

 どうしてこんな物が?

 推測しようにも情報がなさすぎる。

 ひとまず辺りを見渡してみると、見慣れない道具がひとつ転がっていた。

 近寄ってみると、それはよく物語等で登場する水袋だった。

 確か動物の胃袋を加工してるんだっけ?

 転がしてみると、経口部に微かだが、水滴が付着している。

 匂いからして、体についている液体と同じものだろう。

 誰かがこれをかけてくれたのだろうか?

 しかし、こんな場所に何者かが立ち寄るなんて思えないし。

 結局、救ってくれた人物の手がかりはこの水袋だけ。

 せっかくなので蓋を閉じて持っていくことにする。

 大きさはぶかぶかだったが、首を通すとひとりでにぴったりのサイズへと調節された。

 わーお、これぞファンタジー。

 しかし、準備はしたが、流石にあんなことがあったばかりなのだ。

 腰が引けてしまって出て行けない。

 正直な所、とても怖い。

 視界の先、見えない闇の中へ飛び込めばまたあんな目に遭うんじゃないかと、嫌な妄想ばかりが膨らんでいく。

 痛いのは嫌だ。怖いのも嫌だ。

 私は、屈強な騎士でもなければ狂える蛮人でもない。

 至って普通の学生だ。トラウマだって抱える。

 うだうだと、出ていかない理由を考えながら、丸い部屋をグルグルと回るも、道はひとつだと受け入れて出口にむかう。

 しかし、気持ちは浮かない。

 全快したのに足が鉛のようだ。

 そんな自分を騙しながら来た道を戻る。

 暫し歩き続け、漸く分岐にたどり着いた。

 ここまでの道のりでは、敵に遭遇せずに済んでいる。

 最早意図的にまで感じてしまう。

 不思議に思いながらも私は通路から踏み出た。

 すると、何かが弾ける音がこだまし、同時に思い出したかのように、洞窟内の嫌な空気が、軽い風を起こしながらしなだれ込んで来る。

 そして、何者かが一言だけ耳元で囁いた。


「ばーか」


 その声はあの修道服を着た子供の声。

 どこか、面白くないことに直面した子供のような、不貞腐れた声だった。

 そのあまりの場違いさに、緊張していた体の力が抜けた。

 しかし、同時に懐かしい感覚に見舞われ、改めて気を引き締める。

 私は生きるんだ。

 生きてここを出て、見た事ない世界を旅するんだ。

 これまで以上に警戒して、奥へ進む。

 1度は通ったことのある道。

 万全であるが故に、敵も姿を現さない。

 まったく、調子のいいことだ。

 順当に目的地との距離を縮め、私は2度目のボス部屋到達を成し遂げた。


 ◆◇◆◇


 ボス部屋攻略に際して問題がある。

 まず、下の階層へ行くために泉へ毒を流すことは出来ない。

 毒のダメージを受けながら未知の領域を探索するのはリスクが大きい。

 また、ずたボロにはなりたくないし。

 ノーダメージで突破できるなんて浅はかな希望は持たないが、ダメージはできるだけ受けずに下には挑みたい。

 次にあげられるのが、攻撃手段だ。


 ――――――――――――

 種族:フィッシュボア♂

 Lv1(上限)

  ―――

 パラメーター

 HP:1000

 MP:100

 筋力:2000 瞬発力:3000

 防力:600 魔攻力:0

  ―――

 スキル

 暗転

 ――――――――――――


 フィッシュボアは水中にいるから火は使えない。

 風魔法も効果は薄いだろう。あとは爪を活かした白兵戦と、水魔法による水流操作。呪眼によるステータス低下かな。

 私の方が現状ステータス上だからきっと効くよね?


 ―――――――――――――――――

 名前:未設定

 年齢:0♀

 種族:暗猫

 Lv.26

 ―――

  パラメーター

 HP:1800

  MP:2180

  筋力:830 瞬発力:3066

  防力:228 魔攻力:1500

 ―――

 スキル

  隠蔽Lv1 呪眼Lv1

  魔法Lv.4(火、水、風、闇) 毒付与Lv.3

  インベントリLv.Max

 希少スキル

 経験値増大 能力向上幅増大 限界突破 バーサーク

  ―――

  称号

 立ち向かう者 血染めの疾走者

 ―――――――――――――――――


 うん。改めて照らすと私の瞬発力半端ないな。

 1階層とは言えダンジョンボスが猫に劣ってるのはおかしくないだろうか。

 きっと地上なら圧勝してたんでしょうね。

 油断大敵だけど。

 んで、まとめると呪眼でステータス低下させてから水魔法で攻撃と。

 作戦と呼ぶにはお粗末だけど、私のスキルも万能じゃないからね。

 念の為に隠蔽も使用して泉に近寄る。

 水中では、フィッシュボアが遊泳し、巡回を行っていた。

 覚悟を決め、呪眼を発動。

 それに呼応してフィッシュボアが方向を変えてこちらにむかってくる。

 成功したっぽいけど、やっぱ怖いな!

 すかさず私も泉に前足を入れて水魔法で干渉を試みる。

 しかし、泉は反応を示さない。

 予想が外れ動揺していると、水はひとりでに動き出し、私を一息に呑み込んだ。同時に視界が、塞がれ何も見えなくなり、体に衝撃が加えられる。

 トラックに跳ねられたような重い一撃を受け、逆に冷静さを取り戻せた。

 きっと、フィッシュボアが突進してきたのだ。

 だとしたらこの暗闇はフィッシュボアが唯一持っていた暗転の効果だろう。

 私には状態異常への手立てはない。

 こうなったら周りに魔法を乱射して無理やり解除させないと。

 体をひねりながら、種類に関係なく魔法を乱射する。

 その行動にフィッシュボアは一時的に距離をとり、水に擬態していたものは拘束を解いた。

 また、タイミングのいいことに暗転の効果時間が切れ視界は開放される。


 ―――――――――――――――

 種族:スライム

 Lv1(上限)

 ―――

 パラメーター

 HP:15000

 MP:0

 筋力:6000 瞬発力:100

 防力:700 魔攻力:0

 ―――

 スキル

 消化液

 ―――――――――――――――


 気づけば私は水だと思っていたものに囲まれていた。

 鑑定によれば包囲網を組んでいる全てがスライムであるらしい。

 しかし、悠長に相手の観察もしていられず、フィッシュボアが迫ってくるのを視界の片隅で知覚した。

 とりあえず風魔法をスライムに放って突破口を開き、包囲から脱出。

 地に足をつけ、漸くまともな戦闘が出来ると思い接敵する。

 しかし、そこでまたもや想定外の事態が起きた。

 フィッシュボアがスライムから飛び出し、宙を泳ぎ始めたのである。

 スライムはスライムで、全ての地面を埋めつくす勢いで面積を伸ばして来ている。

 一旦撤退をと出口に足を向けたが一足遅く、入ってきた穴は既にスライムによって覆われていた。

 そんな姿を見下しながら、悠々と頭上を泳ぐフィッシュボア。

 魔法を放つも距離が開いていてどうしても避けられてしまう。

 対して私は上と下から攻められている。

 スライムに意識を向ければ、上から暗転のスキルが飛び、上を向けばスライムが勢力圏を伸ばしてくる。


 万事休す。





 と、ダンジョンに潜る前の私なら思っただろう。

 しかし、私はスライムにかまわず疾走し、壁へと跳んだ。

 伊達にダンジョンで生き延びていない。

 自身のスキルと地形を結びつけ、発想に転換する。

 微かな凹凸を利用して水魔法で張り付き。

 私の戦闘は漸く始まった。


 ◆◇◆◇


 ダンジョンマスター。

 ウルト・ドラル視点


「手を出さないんじゃなかったの?」


 我は発言と行動の一致しない子供に問いかけた。


「別に手を貸さないなんて言ってないよ。僕はあくまで彼女の味方だからね」

「猫はここまでこれると言ってたじゃない」


 ニヨニヨと挑発的な笑みを作って無機物に問いかける。


「誰も1人で到達できるとは言ってないし。僕のおもちゃなんだから手助けしようが自由じゃないか」


 そうは言いながら、無機物も分が悪いことはわかっているようでそっぽを向いて膨れている。

 子供らしくよくもまぁ、ぽんぽんと屁理屈ばかり並べられるね。

 肩を竦めてみせる無機物に呆れてしまう。

 猫が倒れた瞬間あたふたしてた癖に。

 我の秘薬まで持って行って。


「約束は守るんじゃろうな」

「薬は使ってしまったんだし、しょうがないから今回だけは使われてやる」

「何がしょうがないさ。嫌がる我から無理やり奪ったんじゃないか」

「人聞きの悪い言い方だなぁ〜。脅したら妥協してくれたんじゃないか」

「変わらんわボケ!」

「んもぉ、五月蝿いな。約束は果たすからそうむくれないでよ。僕が悪いみたいじゃないか」

「みたいじゃなくて事実そうなのだが?」

「おや?そうだったかな?」

「君なぁ…………」

 頭の後ろで手を組んで下手な口笛を吹いている無機物。

 こんなのに戦闘で負けたと思うとどうしてもやるせなくなってしまう。

 でもまぁ、約束は守ってくれるそうだから良いか。


「それで?約束の内容はお使いだったね。何を届ければいいのかな?それとも持ってくればいいの?」

「ん?我はちゃんと話したぞ?あぁ君は慌てふためいていて聞いていなかったね!こりゃ失敬した」

「そ、その話は終わったじゃないか!いちいち蒸し返すなよ!」


 無機物が顔を真っ赤にして怒っている。

 なんだ、そんな顔もできるんじゃないか。

 普段からもっと愛想良くしていれば可愛げもあるのに。


「失礼な事考えてない?」

「いいや別に。それよりお使いの件だけど。ちょっと最寄りの町まで買い出しに行って欲しいんだ」

「買い出しって、食事は必要ないんだろ?それとも素材で何か欲しい物でも?」

「素材もそうだけど、少し気になることがあってね」

「気になること?」

「君は最近産まれたばかりで知らないだろうけど、人の町では我々ダンジョンマスターの核を高値で取引しているんだ」


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