13.提案
ア゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァぁぁぁぁ!!
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名前:未設定
年齢0
種族:リッチ
Lv.1
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パラメーター
HP:2300
MP:900
筋力:600 瞬発力:300
防力:400 魔攻力:1100
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スキル
火炎魔法Lv.2 氷結魔法Lv.2
封絶魔法Lv.1 探知Lv.3
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称号
ダンジョンモンスター
アンデッドキング
魔導師の成れの果て
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接近してくるリッチは咆哮し、己の存在を誇示するように声を張る。空虚な眼孔には朱の光を漂わせ、侵入者を屠るために邁進してくる。
しかし、私は恐怖に気圧されて行動するのが遅れてしまった。
リッチの翳した手から炎弾が出現。
主をおいて熱量の塊が無遠慮に放たれた。
ちょっ!
紙一重のタイミングで躱すも、進化して下がってしまったステータスでは余波だけでも十分脅威となる。
現に、身体の至る所は焼け爛れ、声にならない悲鳴を産む。
転生初の激痛に喘ぎ、戦闘への恐怖を煽る。
もともとはただの学生。戦闘の経験もない。
大切に育てられてきたただの子供なのだ。日常の中で火に炙られた経験などあるわけもなく脳はパニック寸前。
しかし、敵は待ってはくれない。
浮遊している故に地面の毒水では足止めにもならず、接近を続けている。
あまりの痛みに意識が飛びそうになるが、なんとか持ちこたえて、隠蔽で自分を隠す。
だが、この体ではまともな移動は困難。
目の前で隠れても見過ごされるなんて考えられない。
HPもギリギリだ。
早く、この窮地を脱せる方法を考えなくてはいけないのに、頭では「どうしよう」と連呼して何も浮かばない。
急に消えた獲物に、リッチは動きを止めて朱の眼光を強めた。
反射的に息を潜めて、丸くなる。
何か、使えるスキルはないか。
呪眼、は格下にしか通用しない。毒付与は魔法との兼用でしか今は使えない。
相手は高名な魔術師の成れの果て。
魔法を形成するには自身の近くでないといけない事を知っている。まず間違いなく居場所がバレる。
でも、風魔法なら…………駄目だ!今のステータスでは一撃では倒せない!
数を撃てば居場所はバレてしまうし、移動を頻繁にしてしまうと足元の小石の動きで気取られる。そうなった場合この怪我では攻撃を避けられるとは限らない。
効果は未知数だがせめて限界突破を使えればよかったのにレベルが1の状態じゃ無理だ。
一体、どうすれば……。
パニックになりつつある中、無慈悲にもリッチは次の手を打ってきた。
先程の炎弾を行使した時と同じように手を掲げる。
私が“寸前までいた場所に向けて”。
ぁ……。
久方ぶりに覚える絶望感に胸を締め付けられる。
打つ手なし。
光明は見つからず、這いずる体が足を引っ張る。
見えない壁と毒水に退路は阻まれ、味方はおらず、敵は着々と攻撃の準備を整えていく。
タンパク質の焼ける臭いに不甲斐なさを覚え、同時に激高する。
まだ死ねないのに…………死ぬわけには行かないのに!
歯を食いしばり、何もしてくれない神を呪う。
いつも。
いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!!!!
あいつらは何もしてくれない!誰も救ってはくれない!
私の親友をいたぶった挙句殺しやがって!!!
ちくしょが!!ちくしょがぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
私は冷静さをかいていた。
痛みも、状況も、全てを忘れて、ただ怒りに身を焼かれ、怨嗟の捌け口を求めた。
この汚らしい感情が気持ち悪くて。
目に止まったのは、醜悪に口角を歪めた髑髏の化け物。
恨めしい。憎い。許せない。
私は………………
私が嫌いだ。
ブチブチと嫌な音を立てながら、脚に力を込める。
私は……親友の気持ちにすらきずけなかった私が嫌いだ!
沸騰する意識下で、私は敵の前へと飛び出した。
◆◇◆◇
ウルト・ドラル視点
「あーあ。まさか進化直後にリッチに襲われるなんて。猫ちゃんも運が悪いなぁ」
「……おい」
入口で奮戦する猫の傷つきように自虐的な笑みを浮かべていると、横から怒りを孕んだ声がかけられた。
「何さ。別に君の猫でもあるまいし、そう怖い顔しなくていいじゃん」
おどけた態度で軽口をきいてみるも、目の前の修道女は笑顔の睥睨をやめない。
「その猫僕のなんだけど?」
「へぇ、無機物なのに生者の所有権を主張するなんて君も面白いね」
ほんの一瞬、ぴくりと肩を震わせる修道女。
どうやら挑発が、お気に召したらしい。
「つまらないことを気にするね?小物らしさが板に付いてきたんじゃない?」
「栄えある最難関ダンジョンのマスターに向かって小物ぉ?怒ってるからって言い方があるでしょ」
「振ってきたのはそっちじゃないか」
肩を竦めて見せるその姿に苛立ちを覚えるも、同じ土俵に乗っては負けだ。
「我は当然のことを言っただけのこと」
「僕を無機物呼ばわりした時点で程度が知れてるって気づかないの?」
イラッ
「いい加減砕くぞ玩具が」
「低能魔法使いのくせに力で勝てるとまだ思ってるの?また四肢をバラされたいのかな?」
「あれはノーカンだって何度言えばわかるの!」
「おや!戦場にノーカンがあるなんて知らなかったよ!」
チッ
このままじゃ埒が明かない。
このタイミングで来たということは奴も時間は惜しいだろうに。
「…………もういい十分。用件を言って」
「言うまでもなく、猫への余計なちょっかいをやめさせろ」
「なにか誤解してるみたいだけど我に魔物の捜査権はないんだけど。……あの猫がそんなに気になるの?」
「気になるし、気にするね。あれは僕の数少ないおもちゃなんだから。魔物をどうにかできないなら2階層に迎え行ってよ」
「おもちゃ?余計に分からないなぁ。ならなんで今すぐの保護じゃなく一時放置を要求するの?」
「自分で言ってるじゃないか。僕は彼女の安全自体は望んでないからだよ」
「君は猫の味方じゃなかったの?」
「勘違いしないでよね。僕はあくまでも彼女の味方だよ」
「なら━━━━━━━━━━━━━━━
「だからだよ」」
今までよりも語気を強められ、少し驚いてしまう。
「大切だからこそ、この世界で生きていけるだけの力と精神力くらいは養ってもらいたいんだよ。僕は」
「その前にここで潰れるかもしれないよ?」
「それはどうかな」
そこまで言って修道女は初めて純粋な笑顔を浮かべた。
一体何を根拠にあの猫がここまでたどり着けると思ってるのか知らないけど、なんか気持ち悪いな。
「その選択が本当に猫ちゃんを思ってのことなら同意は得たの?」
「同意も何も相手は猫じゃないか。どこかの馬鹿と違って話しかけたりしないよ」
「また嘘ついて。聴いてたよ、さっきの会話」
「あれ、バレてたか」
「当たり前だから。我はこのダンジョンの管理者だよ?筒抜けだから」
「ふ~ん……まぁいいや。それで、迎えの話は受けてくれるのかな?」
「…………一つだけ答えて」
「何かな?」
「試練を課すのは、本当に猫ちゃんのためになると思ってのこと?」
修道女の顔に曇りが生じた。
図星かな。
「…………何が言いたいの?」
「言動からして、なんか我には、全てが猫ちゃんの為だとは思えないんだよねぇ」
「つまり?」
「自分のためなんじゃないの?」
「…………意図を測り兼ねる質問だね」
「君があの猫を大事にしてるのは十二分に理解した」
「なら━━━━━━━━━━━━━━━
「でも、それなら君が守ってやれば良いじゃないか。その力は持ってるでしょ?」」
「…………」
「怖いの?」
「何馬鹿なことを。さっき言ったとおり、僕は猫が負けるなんて思ってないから」
「…………そっか。いや、我が詮索することでもなかったね。いいよ、猫のお迎えは任されてあげる」
「そっか、良かった。魔法使いの刺身を作る手間が省ける」
「言うねぇ。ま、あくまで迎えに行くのは二階層だからね。無事に会えるといいけど」
鼻を鳴らして不敵に笑って見せるも、予想に反して芳しい反応はない。
「会えるさ」
ただ、修道女はそう言い残して姿を消した。
室内に静寂が帰還する。
椅子に腰掛けつつ、ダンジョンの管理者は天井を仰ぐ。
「嗚呼、なんでこう上手く話せないのかなぁ」
彼女は、6歳の頃にこのダンジョンに捨てられ、それから4年間人と会話せずに暮らしてきた。
もともと村でも望まぬ才能のせいで悪魔の子と呼ばれ両親からさえ迫害されてきたのだ。
まともに人と打ち解けるには、まだ、時間が欲しい。
「だいたい奴も奴でなんなのさあの態度!人に対する毛嫌いが酷すぎる!一体何をされて育てばあんな性格になるんだか!」
愚痴をこぼすようについ呟いてしまった。
しかし、聞かれたところで何にもならない。
せいぜいが挑発と取られて終わりだ。
だからか、言葉がついて出てくる。
「あの堅物があそこまで猫を大事と豪語するとは…………案外人外趣味なのか?」
衝撃の可能性に薄ら寒さすら感じていると、突如頭にアナウンスが流れ、その内容に嫌な汗をかく。
我のダンジョンにいる2名の来訪者。
その両方から悪寒を感じた。
「猫が大事?何を馬鹿な」
いったい何処の猫が、
人でも希優な者しか扱えない魔法を自在に操り、
100匹近くが犇めくモンスターハウスを壊滅させ、
あまつさえ、我が特別にアイテムを持たせていたリッチを翻弄するというのだ…………。
あいつは何を招いてくれやがったの!
(๑-﹏-๑)zzZ