第5話 製紙無双・其ノ壱
オレの左手には龍の紋章(のような痣)がある。
これはオレが厨……中二の時に交通事故に遭った時に出来た傷痕だ。あの時に異世界への転生を垣間見た(ような気がしている)オレは何時向うの世界へ行っても困らないようにと、この世界の知識を学んでいる。
文化的な生活を送る為に下水配管が必要だと考えたオレだったが、こちらの世界と同じレベルのトイレが必要だと気づいた時にイロイロと足りない物がある事を知った。
異世界に紙はあるのだろうか?
様々な文献から検討すると、異世界の文明レベルはこちらの世界の中世くらいしか発達していない場合が多く、紙はまだ一般的に出回っていない事もあって不安を誘う内容が多かった。
中には羊皮紙や原初のパピルスのようなものも在るにはあったが、量産化されていないこれら紙の代用品でお尻を拭く訳にはいかないようだった。それなら製紙技術を向こうの世界へ持って行って製紙工場を作り、こちらの世界のものと比べても決して負けない品質のトイレットペーパーを作る必要性があると考えた。
早速だがオレはネットで調べる事にした。
紙(paper)の語源となったのはパピルスでその起源は古代エジプトだった。ナイル川流域にあるカヤツリグサ科の水草であるパピルスの茎から皮を剥いで芯を薄く切った物を乾かして長さを整え、水に浸して縦横に繊維方向を重ねてプレスし、脱水して製作する。
これくらいなら異世界の遅れた文明レベルでも再現は可能だろう。だがこのパピルスを安価で大量生産したとしてもオレの野望は叶わない。
何故なら……パピルスは硬いのだ。
それは最低品質のトイレットペーパーなんぞ比較にならないくらいに硬い。
敢えて言おう、あそこの粘膜が保たないと!
そんなパピルスを使って大切なお尻を拭いてみろ! たちまち肛門付近の粘膜部分が傷ついて出血するではないか! 考えてみろ――魔王と最後の戦いを迎えたオレとハーレムパーティの女子たちがお尻を気にして戦っている様子を……。
オレの後ろからは魔王との最後の戦いの前にトイレを済ませておいたパーティーメンバーの女子たちが左手でお尻の辺りを押えていたり、中には痒くて我慢が出来ない子が居るかも知れない。そんな状況で物語の最後を飾る魔王との一大決戦を戦いたいだろうか? その答えは”否”である。誰しも自分が勇者となればお尻を気にせず戦いたいと考えるだろう。
『ようやくここまで来たか勇者どもよ!……ん?何故モジモジしておるのだ』
「いや、何、ちと痒いと言うか、微妙に痛いと言うか……でもまだ大丈夫だと思うから今日はこのまま頑張ってみようかなって……」
『それなら良い薬がある。しばしの間そこで待っているがよい……』
……オレの苦悩は続く。
これまでの戦績
1勝4敗(不戦敗4)