第4話 下水無双
オレの左手には龍の紋章(のような痣)がある。
これはオレが厨……中二の時に交通事故に遭った時に出来た傷痕だ。あの時に異世界への転生を垣間見た(ような気がしている)オレはいつ向うの世界へ行っても困らないようにと、この世界の知識を学んでいる。
前回の調査によって上水道の敷設にはいろいろと考えさせられる事が多いという事が判った。だがそれらの苦難を乗り越えてこそ異世界でもこちらと同じような文化的な生活が可能となるだろう。
そこで異世界にあるオレの家に水道が設置された様子を思い浮かべて見る。
他の家々が朝から水汲み作業に追われる中、オレの自宅では蛇口から水が出て来る。この水がこのまま飲めれば最高なのだが、最悪は煮沸すれば飲める水質が確保出来る施設の設置も視野に入れなければならない。
そして風呂についてこれまでに読み漁った資料から考察してみると、異世界で風呂に入れるのは貴族や王族などの支配階級に限られており一般的な宿屋などでは湯を桶に入れて一杯いくらという場合が多く、高級な宿屋でもシャワーがあれば良い方だった。
そして次に考えたのはトイレなのだが、ここで新たな問題がオレの行く手を阻む。
実際のところ水道があるだけではこちらの世界にある自宅のトイレを再現する事は不可能だろう。何故かって? それは下水配管が無いからだ。いくらキレイな水があったとしてもトイレの汚水をそのまま自宅の周りの川などに放流すれば、付近住民たちとの諍いに発展するのは火を見るより明らかだろう。
その他にも便座が冷たかったり、お尻を洗うシャワー設備が必要だったりと様々な問題も多い。
しかし、それでも異世界で文化的な生活を送ろうと思えばトイレの問題にフタをする訳にはいかないのだ。それはぶっちゃけてしまえば異世界を魔王の手から救うよりも切実な問題だと気が付いて欲しい。
例えば同じパーティに女子が居たらこの様なトイレの問題は必ず出てくるハズだ。たとえその女子がボットン式でOKだとしてもオレの方はそうはいかない。
トイレに行ってお尻も洗わないようなヒロインと恋に落ちるだろうか? いや落ちないだろう。多くの転生者たちが高確率でハーレムパーティを好んで組んでいるがそこに居る彼女たちのお尻が臭わないという保証はどこにも無い。
この段階で優秀なオレは更なる問題に気付いた。
紙はどうするんだ?
そう、用を足した後でお尻をシャワーで洗うまで出来たとしよう。だがその後で重大な問題が発覚するではないか! それは……どうやって拭かだ。葉っぱなんてナンセンスな回答は当局では受け付けていない。あくまで文化的にソレをどうするかと言う前提で話を進めたい。
これは異世界を魔王の手から救うよりも切実な下水配管敷設工事よりも更に重大な問題で、まだこちらの世界に居るうちにこの問題の重要性に気が付いてしまうとはオレは自分の優秀さに恐怖する。
『ようやくここまで辿り着いたか勇者どもめ!……ん、何か臭うな?』
「あ!魔王のバカ!デリカシーが無さすぎだぞ!どうしてくれんだこのパーティ女子たちの空気を!?」
『いや、だからそっちの空気じゃなくて……予の負けか……』
……オレの苦悩は続く。
これまでの戦績
1勝3敗(不戦敗3)