第2話 空調無双
オレの左手には龍の紋章(のような痣)がある。
これはオレが厨……中二の時に交通事故に遭った時に出来た傷痕だ。あの時に異世界への転生を垣間見た(ような気がしている)オレは何時向うの世界へ行っても困らないようにと、この世界の技術や知識を学んでいる。
前回は生活の基本となる”電気”について調べたが、今度はそれを使用して異世界でも快適な生活を送る為に様々な応用分野での勉強をしたいと思う。
そうだな、21世紀生まれのオレが異世界生活で最初に必要だと思うのはエアコンかな。もし転生した場所が北方だったら寒くて耐えられないし炬燵を発明して家に籠ったままでは魔王城に行く事なんて出来ない。
それは何故か? パーティメンバーを女子のみで固めて皆で一緒に炬燵に籠る事を想像してみてくれ。彼女たちの下半身……太ももやニーソなど漢のドリームがギッチギチにクロッギングしたスクエアゾーンがとてもデンジャラスだと思わないか? 誰もそこから出たいと思わない。いや、オトコなら出てはいけない。
また反対に南方に転生した場合を考えると魔王と戦う前に熱中症で死んでしまう可能性すらありうる。
「やはりエアコンは必要だ!」
そう考えたオレはエアコンについて学ぶ事にした。
現在主流とされるエアコンはヒートポンプ方式と呼ばれていて、冷媒と呼ばれる気体を循環させて熱を運ぶというものだ。
冷房を行う場合は室内を循環させた冷媒を室外で加圧し圧縮すると冷媒の温度が周囲の気温よりも上昇する。温度が上昇した冷媒は周囲の空気と温度交換をして温度が下がる。ここでファンを回して空冷効果を上げる事により多くの熱を外に発散させれば冷房効率が上がる。だからエアコンの室内機にはファンがあったのだとここで知った。
そして圧縮された冷媒の温度が下がり室内へ戻されると今度は圧力を下げて膨張させると温度が下がる。(そう言えばスプレー缶を使い続けると缶内部の気圧が下がり冷たくなるよな?)こうして温度の下がった冷媒を熱交換器を通して室内の空気と温度交換させる事により気温が下がって行くという事だ。
ここで必要な知識は冷媒を圧縮させて温度を上げる事と、逆に膨張させて温度を下げる事だろう。こうして気温の低い空気を作り続けて循環させる事によって好みの温度を作り出すらしい。
だが異世界には魔法という便利なものがある。
科学的に中世時代の頃と予想される異世界にフロンなどの冷媒があるとは思えないが、魔法を使って空気を直接操作し圧縮・膨張してやれば気温を上げたり下げたりする事が出来ないだろうか? いや出来るよな。それどころか火魔法で暖房を、そして氷魔法を使えば冷房になるんじゃないか?
どうりで異世界の資料ではエアコンがクローズアップされていないはずだ。だってそうだよな、魔王と戦う勇者パーティがエアコンの設定温度をめぐってリモコンを奪い合うシーンはこれまで一度も読んだ事が無い。
オレは上品だから胃腸が弱い。魔王と戦う前の晩にパーティメンバーの誰かが氷魔法で部屋の温度を下げすぎていたら、確実に次の朝のトイレは長くなるだろう。それどころか魔王と戦っている最中にお腹の調子が戻っていなかったら最悪の事態となる。
『ようやくここまで辿り着いたか勇者どもめ!』
「あの、その前に魔王城のトイレをお借りしたいんですけど。出来ればシャワー付きで紙は柔らかく香り付だったらボク頑張れると思うんですけど……」
『ナニをガンバルのか今は聞かないでおいてやる。ほら、そこの角を曲がって突き当りだ早く逝くがいい……』
……オレの苦悩は続く。
これまでの戦績
0勝2敗(不戦敗2)