第1話 電気無双
異世界へ転生するために必要な様々な知識無双についてオムニバス形式でお届けします!
あれは中学二年になったばかりの頃だった。
オレは通学途中に交通事故に遭い三日三晩生死の境を彷徨った。(と思う)病院のベッドの上で意識を取り戻したオレの左手には龍の形の痣がくっきりと残っていた。
そう言えば朦朧とする意識の中で神様みたいな人物に出会いオレが住んでいる世界とは別の世界へ転生するように言われていた(ような気がする)。だが今のオレが居るのは元の世界だ、それは天井にある照明器具がいつもの見慣れた形だった事から判る。
オレがこの世界へと戻されて来たのは、きっと向うの世界へ行くタイミングが悪かったせいだろう。それに中学二年のオレの知識では異世界へ行ったとしても大した活躍は望めないと思われたのかも知れない。
この時からオレの新たなる高校生活は始まりを迎えたのだった。
オレは再び異世界へと転移(又は転生)に備える為にとりあえず学校の勉強とクラブ活動を頑張る事にした。
だってそうだろう、オレたちの世界の学問で高校まで修めておけば異世界の貴族達と比べても負けないどころか知識チート無双が出来ると思わないか? と。まぁこんな感じで学業に力を入れる為に親に泣きついて、中途半端な時期からではあるが進学系の学習塾にも通わせて貰った。
学校の勉強には教科書ガイドを始め様々な参考書で学び、理解が浅いと感じる教科については学校の先生と学習塾の講師に徹底的に教えて貰った。こんな感じで学業についてはある程度の成績を維持する事が出来ていたのだが、問題となったのはクラブ活動の方だった。
異世界へ行った時に体力面で不安のあったオレは高校へと入り迷わず武術系のクラブを希望するのだが、昨今の草食男子化の影響によって剣道部は数年前に廃部となっていた。他には柔道部が存続していたが異世界で鎧を着た騎士や戦士を相手にすると考えた場合、やはり剣道部へ入部したいと思った。
同級生たちに声を掛けて何とか5名の部員を集めて顧問の先生も校長へ直接掛け合い選任して貰う事が出来たが、顧問とは名ばかりで剣道の経験の無い先生だったので専門的な指導は望むべくも無かった。
両親には進学塾の費用で負担を強いていたので街中の剣道場へ通う事はしなかった。それでも基礎体力向上の為の走り込みや素振りを繰り返して部内で模擬戦程度なら出来るようになり、その後は近隣校と練習試合が組めるレベルまでは漕ぎつける事が出来た。だが学校の勉強と塾がありその予習・復習の為に多くの時間を取られるせいもあって剣道についてはそこそこのレベルで納得するしか無かったと言う事もある。
そんなある日のこと、オレは学校の勉強と剣道だけでは異世界へ行った時に困る事に気が付く。だってそうだろう。向うの世界に行ったら電気が無いじゃないか、それに飲み水はどうするんだ。そこらへんの川から汲んで来たのをそのまま飲むなんて冗談じゃない、自慢じゃないがオレの胃腸の弱さは折り紙つきだ。旅行先で生水なんて飲めば30分も保たないだろう。
水どころか枕が変わってもダメなくらい上品なオレだからな。
まてよ? 異世界にエアコンはあるんだろうな……無かったような気がす……いや、無いだろう。21世紀生まれのこのオレがエアコンの無い世界で暮らせるのだろうか? 絶対にムリ。そもそもエアコンの前に電気はどうするんだ。
そう考えたオレは行動を開始する。
先ずは電気だ。これさえあれば家電製品も動かせるしそれ以外にも応用が利く。
でも”電気”って何だろう。
調べてみると”電気”とは電荷の移動や相互作用による物理現象の総称‥…益々判らなくなってきた。この電荷とは電子(-)や陽子(+)の保存量でこれらが物体から物体へと移送される事によって生み出される物理的エネルギーという事らしい。
まぁ難しい事は少し置いておいてオレが欲しいのは”電力”を生み出す事。いわゆる”発電”に関する知識だ。
これは高校の科学の授業で習った内容が役に立つが、有名なのがフレミングの左手の法則だろう。これは電線に電流が流れた時に発生する磁力とその力の方向についての発現法則だが、これはあくまで電力を消費する場合の法則で発電する場合だと右手の法則というのもあると習ったと思う。
電力を消費して回転運動を生み出す機器を電力では無い別の物理エネルギーによって回転させる事が出来れば電力を発生させる発電機となる。
要は伝導体で作られたコイルの中に永久磁石を回転させれば電力が発生するのだが、現在の発電機は固定した永久磁石の内側をコイルが回転する構造になっているらしい。ただこの方法で発電させるとコイルの回転により磁石との距離が変動するため交流電力となる。
要するに電力の大きさを表す電圧は一定では無く波形となる。
これだと電圧の高い部分と低い部分で力に差が出るので周波数を細かくして一定に近い力を取り出すか、相をずらして複数の周波を重ねても安定するだろう。また別の回路を組み込んで直流電力に変換するコンバーターなどの応用技術があれば更に良い。
発電にはその燃料によって火力や水力、風力に原子力など様々な方法な方式があるが、オレが行く異世界にはきっと魔法があるので魔力を動力とした魔力発電を考案するつもりだ。方法はそうだな……ある程度の大きさのプロペラを魔力で回転させて発電すればいいだろう。火魔法なら火力発電だし風魔法なら風力発電、水魔法なら水力発電の応用が可能だろう。
でも待てよ? 異世界だから魔法なんて普通に在るだろうが、大きなプロペラを回し続ける事が出来る魔術師をそれだけの為に従事させる事が可能なのだろうか? 部屋でエアコンを掛けて寝ていたいオレが発電の為に魔法を使用し続ける事なんて、そんな本末転倒な事は出来ればやりたくない。
オレの左手にある龍の紋章には確かに魔力が宿っている(ような気がする)。やってやれない事は無いだろうがエアコンの電力を発電するために多くの魔力を消費した結果、魔王との戦いに悪影響が出たりはしないだろうか? だが熱帯夜が続き不眠症を患ったパーティメンバー達と一緒に魔王城へ突入するのは出来れば避けておきたい。
『ようやくここまで辿り着いたか勇者どもめ!』
「例え……昨夜から一睡も……して……いなくても……魔王を倒すのは……勇者たるオレの……オレの……なんだっけ?」
『勇者よ、今日はもう帰ってゆっくりと休むがよい……』
オレの苦悩は続く……。
これまでの戦績
0勝1敗(不戦敗1)