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7.亜下リサ

胸が張り裂けそうだった。

漫画や映画の登場人物になったかのような感動。

それと同時に何か手を出してはいけないものに手をを出してしまったのではないかという背徳感が背筋を走る。

興奮と恐怖が混じり合う感覚に俺はただ、立ち尽くしている。


「観測対象42、観測を完了。」


空から声がした。

見上げると白いローブを羽織り背中に白い羽を生やした女性が舞い降りる。

少女は美しく、金色の髪を風にそよがせながら降りてくる。

有り体に無い語彙を振り回して言えば、


「――天使?」


それは絵画に出てくる天使そのものだった。

天使は機械的に言葉を続ける。


「勝者『カラス』。アンティ15:15。カードの移行を開始。」


そう天使が告げると同時に俺のスマホと足下でのびている『ジライヤ』のスマホが発光する。

すると『ジライヤ』のスマホからカードのようなものが複数枚射出され俺のスマホに吸い込まれていった。


「これより固定時間の巻き戻しを行ないます。記録時間と現在の固定時間の相互比較。88899822899222箇所の修正。ロールバック。」


そう告げる声と共に俺と『ジライヤ』の戦闘で破壊された建築物や生き物がまるでビデオを巻き戻すかのように逆走し始めて元の形へと戻っていく。

俺は起っている事が理解出来ず、ただ呆然とその光景を眺めている。


「完了。再チェック……修復率99.9999%。タキオン回収後、現固定時間において1分後に時間の動作を開始します。」

「あ、あの……。」


思わず声をかけた。

理解が出来ないことが起り続けている。

だから、思いつくことを声にしてみた。


「あなたがアイオーンですか?」


いま目の前で起っていることを含め、この15分程度の間、全ての現実が崩壊していた。

このゲームを運営するアイオーンという存在。

それはもはや人間などではなく、もっと超常的な何かを彷彿とさせている。

だからこそ、目の前にいる天使のような何かこそ、アイオーンなのではないかと思った。


「否定、当機はアイオーンクロック支援独立観測ユニット……ドミネーター22号。」


そう機械的に淡々と天使は告げる。


「――やめておいた方がいいよ。それわけのわからないことしか言わないから……。」


その声が聞こえた方を振り返ると、そこには制服姿の少女がいた。

髪はポニーテールに結ってあり、瞳には強い光が宿っているように感じた。

彼女の着ている制服には覚えがある。

確か紺の生地に赤のリボンのセーラー服は確か聖華学院の制服だ。


「君は――」


そう声をかけようとした瞬間、時間が動きはじめる。

周りの人々は先ほどあれほどの破壊劇があった筈だったのに何事もなかったかのように歩き始めた。

今この場で自分が直面していた非現実的な出来事が本当に無かったかのように現実が回りはじめる。

変わったことがあるとするならば、自分の足下で人が1人意識を失って寝転がっているぐらいだ。


「おい、大丈夫か?」


そう通りかかったスーツの人が声をかける。

それは俺に対してではなく、足下で倒れた『ジライヤ』に対してだった。

そしてその注目は自然と俺に向く。


「君、彼の近くにいたけど、何かあったのかい?」


そう尋ねられ答えあぐねてていると後ろから手を引っ張られた。


「ぼけっとしてないで早く来なさい。」


そう引っ張られるまま走る。


「おい、おいあんた……。」


そう呼びかける声を遠くして、俺は引っ張られる方向へと足を動かす。

顔をあげるとそこには俺を引っ張る腕にかかるほど長い髪をたなびかせた女性の後ろ姿があった。


「いいから、走って!」


そう言葉を告げられ言われるままに女性を追って走る。

そうしていくつか道を曲がって裏路地に入った後、彼女は立ち止まった。

息が上がった。あまり運動をしてこなかったせいだろうか?

先ほどはあれほど超人的な身体能力を手に入れて動いてたというのに一旦、現実に戻ってしまうとすぐこれだ。


「あなたね、気絶してる敗者の横でぼーっと立っている奴があるの?」


そう目を細めていう女性は一言で言うならば美人だった。

スーツに身を包み、肩まで伸びた髪、整った顔に濃く見えない程度に軽く化粧が施されている。

それが妙に色っぽく感じさせれて俺は思わず息を吞んだ。


「まあ、でも初めての対戦であれだけの大立ち回りしたことは評価してあげる。あれでもランキングで20位ぐらいなのよ彼……。」


そう少し感心したように告げる女性。


「あなたはあの戦いを見ていたんですか?」


そう尋ねるのに笑って女はスマホを見せてくる。

画面に表示されているのはアイオーン・クロックの画面。


「わたしもアイオーンプレイヤーよ。『亜下リサ』ちなみに本名だから……リサで言いわよ?『カラス』くん。」


そう亜下リサは笑って告げた。

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