6.ゲームの勝利条件
<視点変更『ジライヤ』>
自分のクリーチャーが一撃で処理されたことに『ジライヤ』は驚いてはいなかった。
忌々しいとは感じていたが予想しなかったわけではないだ。
相手である『カラス』はバフなどのスペルが多いように見えた。
だからこそ、これぐらいのことをしでかすスペルはあるだろうと予測はしていたのだ。
ここまでは想定内。
『ジライヤ』は『インペリアルドレイク』に攻撃を続行させず、見せ札として『メサイアドラゴン』まで召喚したのには理由がある。
『インペリアルドレイク』は特性として巨躯という能力を持っている。
これは『インペリアルドレイク』が倒れた時、アクセルが2貯まるといったものだ。
それに加えカードを1枚消費するとアクセルが1増える。
インペリアルドレイク召喚に対して消費したアクセルは-1、それに使用時と撃破時のアクセル+3、メサイアドラゴン、デッドウルフ、がらくたのウォールメイド召喚時のアクセル+3と現在『ジライヤ』にはアクセル5。
アイオーンクロックに表示された数字を見て『ジライヤ』はほくそ笑んだ。
『冥界の門』、これは『ジライヤ』の持つカードのなかでも特別に重いカードだ。
発動条件にアクセル5と大きく要求するだけではなく、『メサイアドラゴン』が撃破されていなければ発動出来ない。
この困難な発動条件を突破したとき冥界の門は墓地の竜を堕天させ、不死身にして最強の『崩魔竜ジ・グレイヴ・オブ・デス』へと姿を変え復活する。
そうなれば勝利は確定したも同然だ。
そう『ジライヤ』は思いカードを発動しようとディスプレイに―――
――瞬間、腕が重く鈍くなるのを感じた。
体全身が水中にいるような感覚。
早く動こうとしても水の抵抗に動きが疎外されている感覚。
まるで全てが自分がスローモーションで動いているようなそんな――
――問題は、どちらがこのゲームを正しく理解していたかという話だ。
このゲームの勝敗は召喚したクリーチャーの数が決めるわけではない。
クリーチャーの強さが決めるわけでも無ければ、超人的な技能を持った人間が決めるわけでも無い。
あくまで勝敗を分かつのはプレイヤー同士。
このゲームは相手を屈服させるか、戦闘不能にさせた方が勝つゲームなのだ。
その認識の差。
それが、決定的な結果となって勝敗に現れる。
「助かったよ、本当に運が良かった。」
『ジライヤ』の背後で少年の声が通る。
無論、『カラス』の判断が掴んだ運を正しく運用したからだという結果に他ならない。
もし先の攻撃に怖じ気づいたり、逃げ腰な戦術をとっていたならば『ジライヤ』は文字通りの切り札を使用し戦況は決して覆せないものになっていただろう。
『ジライヤ』の切り札にはそれほどのパワーがあった。
この召喚するまでのわずかな時間こそ、手札的にもシステム的にも不利な『カラス』にとっての唯一の勝機。
『カラス』は『竜巻弾』を使用していた。
通常、その後に30秒のクールタイムが入る。
つまり30秒ありとあらゆるカードが発動出来ない無防備をプレイヤーは晒す事になる。
しかし、『カラス』の『再装填』はその常識を塗り替える。
『カラス』のアイオーンクロックに表示されるのは『遅延』の文字と残り5秒という文字。
「このカードは俺以外の時間を遅くするみたいだな。アクセル2も使う癖に効果時間も短いから正直、一か八かだったが良かったよ。」
そう言ってスローモーションで動いている『ジライヤ』の手のスマホに『カラス』は触れようとしてはじかれる。
「なるほど、お互いのスマホに触るのはルール違反なわけだ。道理で最初に俺のスマホに触って来なかったわけだ。あの時点で俺のスマホを破壊してたらあんたの勝ちだったのに降参を求めてくる割にはそうしないからおかしいなとは思っていたんだよ。まあ、でも――」
『カラス』はスマホに伸びていた人差し指を折った。
「十分だ。」
それと同時に『遅延』の効果が切れる。
「があああああああああああああああああああ。」
『ジライヤ』が指をおられた激痛で叫ぶ。
「痛いだろ?意外と指の骨を折るってのは簡単なんだ。体重をかけることを恐れるか恐れないか、それだけの話だ。俺もよくやられた。おっと動くなよ?」
そう言って『ジライヤ』の眼前に拳を向ける『カラス』。
『カラス』の表情は無表情で、たいした変化もない。
「あー先に言っておくが俺の右手には今『風塵弾』っていうカードが装填されている。効果名からしてさっきのお前の化けもの倒した奴の劣化もんだろうが、それでも人間が受けて死なないかどうかはわからない。さて、このゲームどうやら……俺かあんたかのどちらかが負けを認めるか戦闘不能にならないと終わらないらしい。」
『ジライヤ』は理解する。それは脅しだった。敗北を認める。でなけれお前に先ほど『ジライヤ』のクリーチャーを倒したの同じような攻撃を行なうと……。
護衛として召喚した『がらくたのウォールメイド』も反応速度以上で接近されたのならば、もう力を持たない。
(くそ、どういうことだ。まるで時間の進み方が遅くなったかのような感覚だった……。そんなカードを奴が?バカな、そんなカードを使うアクセルが何時の間に!)
『再装填』の効果によって倍の速度でアクセルが貯まるという事実を『ジライヤ』は知らずに思う。
「時間を数えるよ……10、9、8――」
「おい、ふざけるんじゃねぇ……俺がお前なんかに降参するわけがねえだろ……。大体なんなんだお前はルールを無視しやがって運営は何も言わないのか?」
「5、4、3―――」
「撃てるわけがねえんだ。学生だろ、あんた?学生が人殺しなんて出来るわけがねぇ!ははは、はったりもそこまでにしとけよ、糞ガキ!俺は――」
「――0。」
『カラス』はそのコールと共にためらい容赦なく右に装填された風の弾を撃ち込んだ。
風が走り『ジライヤ』の顔面を陥没させる。
ジライヤは倒れ、全身を痙攣させている。
「なんだ、生きてるじゃん。」
そう『カラス』が感想を告げると同時に『カラス』のアイオーンクロックの画面にWinnerと文字が表示されていた。
カード名:風塵弾
使用者:『カラス』
効果:風の弾を発射する。
"弾丸など必要ない"




