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5.風は疾る

<視点変更『カラス』>


口の中で鉄の味がした。

昔は当たり前のように舐めていた味は懐かしく不快だ。


「ぐっ……。」


地に伏せていた俺は立ち上がろうと体に力を入れる。

背中にのしかかった瓦礫ごと立ち上がる。

瓦礫は背中の方に倒れていった。

買ったばかりのジーンズはずたずたに避けて、服も所々破れている。

あの怪獣の体当たりによって倒壊するビルの上にいた。

普通ならば死んでいた状況。

俺は『加速』の恩恵による身体能力の超強化によって必死の状況をなんとか生きながらえることが出来た。

俺は手に握られたスマートフォンを見る。

驚くべきことにスマートフォンは無傷だ。ディスプレイには変わらずアイオーンクロックの画面。

その中で『加速』の残り時間の秒読みが行なわれている。

一か八かの賭けには勝ったようだ。

俺が助かった理由。

それはアクセルを使ったからに他ならない。

どうやらこのアクセルという数字を消費するとスロットのクールタイムが解除されて、そのまま新しくカードを使用する事が出来るようだ。

その後、崩れゆくビルの上で操作して『加速』を使用した。

音速に耐えうるほど超人化した肉体で俺は50mのビルの崩壊に耐え今に至るというわけだ。

スマホを見る。

画面に表示されるのは手持ちのカードとアクセル2という数字。

先ほど消費し1になったアクセルが2に戻っている。

推測するにアクセルという数字はカードを使用するごとに1増えるようだ。

格闘ゲームでいうところの超必ゲージのようなものだろうか?

加速の残り時間は20秒ほど……2つのスロットのCTが上がったようだ。

手札は3枚。

敵は――

俺は顔を上げて思わず声を失った。


「冗談きついぜ……。」


ビルを倒した巨大な怪獣に加えて、空を飛ぶ翼を持った巨大な竜が1体。

アイオーンクロックを見ると『メサイアドラゴン』という初めて見る文字が表示されている。


「追加召喚とか、そりゃ初心者相手に全力過ぎませんかね……もうちょっと慢心してもいいんですよ。」


俺が1枚カードを発動するタイミングがあったということは相手にもあったということだ。

奴からしてみればこちらが化け物を対処するまで待つ意味はない。

優勢だからこそ畳みかけるべきなのだ。

ビルが崩壊して俺が必死に生存を探していた間に奴は自分の盤面をより盤石なものとしたのだ。

空を飛ぶ竜に大地を歩く巨大な怪獣とまったくもって非現実もいいところだ。


「自衛隊は動かないんですかね?国の危機じゃありませんか?時間止まってるんでしたね!そういえば!!」


そうヤケクソになりながらも思考を巡らせる。

残る手札は『加速』の残り時間と2つのスロット。

これを有効に使えなければ確実に詰みだ。

その場合どうなるんだろうか?

あの怪獣に踏みつぶされるんだろうか、あの竜の爪で引き裂かれるんだろうか?

どの道、生きてこのゲームをでる事は出来なさそうだ……。

頭に思わず思い浮かぶ。

『ジライヤ』の「降参しろ」という言葉。

ルールでは戦闘不能になるか降参した場合ゲームが決着するとあった。

『アイオーンクロック』をよく見ると右上にメニューバーのような三本線があり、それをタップする。


―――

降参しますか?


YES NO

―――


そう文字列が表示される。

俺はあまり考えずにNOを押した。

まだやれる事があるのに負けを認めるというのは釈然としない。

どうせ負けるならやるだけのことをやって負けよう。

手札は三枚。

そこから可能性を作り上げなければならない。

―――

風塵弾ソニックバレット


風の弾を発射する

―――


―――

風兎ソニックラビット

ATK:■□□□□

DEF:■□□□□

SPG:■■■□□

―――


―――


竜巻弾サイクロンバレット』。


小規模の竜巻を発生させる。


アクセル2

―――


やはり望みをかけるならば『竜巻弾サイクロンバレット』だろうか?

アクセル2とカードに書いてある事から、おそらくはこのカードは使用すると同時にアクセルを消費するのだろう。

TCGでは強い効果を持つカードには相応のコストが設けられている事が多い。

無論コストを要求するわりには使い物にならないカードも多数あるが、今はそのようなことを考える状況ではないだろう。

希望的観測だろうと、これは切り札であることは変わりない。

小規模という辺りがどの程度なのかはわからないが、願わくばあの二体を葬り去るだけの威力を願って俺はスロットに『竜巻弾』を放り投げた。

瞬間、右肘に妙な違和感を覚えた。

右肘を曲げてみると撃鉄を引くような感触と共に腕の周りに空気が螺旋状にウネリはじめる。

俺は直感的に理解する。

右拳を突き出すとこの腕に纏われた風はその咆哮に向けて発射されるのだと……。


「そもそもが一か八かだ!頼むぜぇ!」


そう言って拳を二体クリーチャーに向けて突きだした。

撃鉄が上がる感触。

腕から放たれた風はどんどん規模を拡大していき、倒壊したビルの瓦礫を飲み込みながら大きなうねりとなって放たれる。


――風が捻れて疾った。


捻れ狂う暴風は顎となって怪獣と竜を捕らえる。

怪獣は巻き込まれ、最初は踏みとどまるもののその風の圧に負けて体をあらぬ咆哮へと曲げはじめる。

竜は翼をズタズタに引き裂かれ地表に落下する事も許されず体をぐしゃぐしゃに折り曲げられていく。

二体の化け物はたった一撃の風の弾丸の前に無力に散っていったのだ。

俺は思わず感嘆の声を上げた。

願いはした、そうだあって欲しいと思った。

けれど、本当に一撃であの化け物達を倒す事が出来るなどと思っていなかった。

俺は興奮しながら、もう一度拳を突き出してみる。

しかし、次は何も起こらない。

どうやら使用は1度きりのようだ。同種のカードと思われる『風塵弾』使い切りのものだと思った方がいいだろう。

俺は興奮に飛び上がりたくなるのを堪えて周りを伺った。

『ジライヤ』を探さなければならない。

今の状況はこれでやっと五分、いや消費したカードの枚数を考慮すれば……大幅不利だったのを少し不利に戻しただけだろう。

このゲームの勝利条件を振り返る。

相手を戦闘不能にするかリタイアするかの二択。

化け物を倒しているだけではゲームに勝つことは出来ないのだ。

カードが1枚ドローされたことが表示される。

俺はそれを見ながら、勝つための行動を開始した。


使用者:『カラス』

カード名:『風兎ソニックラビット

種別:サモン

効果:風兎を召喚する


ATK:■□□□□

DEF:■□□□□

SPG:■■■□□


"やあ、僕は風兎さ

僕に何を期待しているんだい?

走るしか脳の無い残念な生き物だよ?"

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