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9.世の中都合のいいことばかりじゃない

――――――――――――――――――――――――――――――



対戦ゲームとは切っても離せないものにコミュニティというものがある。

ゲームを中心とした集まり、語り合いの相手、友人、形は様々だが語り合いの場だ。

個々人の強さを競う対戦ゲームにおいて重要なものは個々人の頭脳、能力、知識と考えるものもいるかもしれない。

しかし、実際にはこのコミュニティの比重は個々人の能力よりも重い。

現実におけるTCGトーナメントプレイヤーと呼ばれる存在が一人でその境地にたどり着けたかといえば、否である。

相談する相手、切磋たくまする相手がいる、知識交換を出来るということは個人の能力よりもはるかに大きなアドバンテージを持つ。

ゆえに有名プレイヤーの周りには必ずといっていいほど、その人物を中心ももしくはその人物が所属するコミュニティがある。

コミュニティとはつまり、対戦ゲームで強くなるための最も重要な要素なのである。


――――――――――――――――――――――――――――――


「コミュニティ…ですか?」


『亜下リサ』の急な誘いに間の抜けた返事を返してしまう。

残念なことに展開に脳みそがついていけてないのだろうか…。


「そうだ、今、私が中心になってコミュニティを運営しててね。名前は『ローズガーデン』。私『亜下リサ』をはじめに『クアドロボルケーノ』、『ロットリドル』、『辞書引き』などといったランキング上位者も複数名在籍しているの。けれど私達は結構思考が似通ってるから煮詰まっちゃっててね。そこで将来が有望そうなあなたに白羽の矢が立ったというわけね。」


いきなりプレイヤー名を羅列されても、よくわからない。

そもそもさっきのトップ10ですらまだ頭に入っていないのだ。


「それはつまり、僕の知識があなた達に有用だということですか?」


正直、先の対戦も行き当たりばったりで知識なんてものはないのだが聞いてみる。


「初心者のあなたにそんなことはまだ期待していないわ。私達の知る知識をあなたに教えてあげる。このアイオーンクロックというゲームの仕組み、アドバンテージの取り方、定石。それらをあなたに叩き込んであなたの勝率に貢献してあげるという提案。」

「聞いてるだけだと僕に利点しかないように思えますが…亜下さんたちになんの利点が?」


つまりは彼女たちのコミュニティに所属すると彼女の達の知るアイオーンクロックの知識を教えてもらえるというわけだ。

このゲームに関してまだまるでわかっていない俺にとって、それは非常においしい話だった。それも上位プレイヤーからの指南となればレベルの高い指導を受けられるだろう。

だからだろうか、俺は強く警戒してしまう。

おいしい話には必ず裏がある。

そんな経験めいた予感が俺の胸にあった。

『亜下リサ』は不満そうに俺の顔を見つめていう。


「リサよ、名前で呼んでね。そうね、美味しい話だって警戒してるのかな?」


そうリサはくすりと口に手を当てて笑った。


「あなたに期待しているのはセンスかな。」

「センス…ですか…?」

「前にも言ったけど、このゲームは初心者が勝てるようにはできていないの。私だって最初の試合はこっぴどくやられたわ…。」

「意外です。」


そう苦笑するリサに率直な感想を告げる。


「ほとんどの人がそういうものよ。勝てる人もいるけど、それは初心者同士がぶつかって運ゲーをして、運が良かったほうがたまたま勝ちを拾えたというだけ、普ジライヤみたいなある程度ゲームをやっているプレイヤーに初心者が勝つなんてことは、このゲームでは大きな事件なのよ。」

「そうなんですか?」

「ほら、見て?」


そういって『亜下リサ』は自分のスマートフォンを見せてくる。

そこにはチャットリストが表示されている。


―――


おい、カラスっていうのは何者だ?


おいおい、将来有望そうな新人ちゃんが出てきたねぇ、初戦だろ、誰かの勧誘?


運がいいだけの糞野郎でしょ。


ふん、偶然勝っただけの初心者が話題になってるのが超ウゼーんですけど、見つけたら絶対狩る。


俺は偶然やつのバトルを見たが、逸材だと思ったね。


お、閲覧者発見―どんなデッキ使ってた?カード特性は?プレイスタイルは?


つーか、それよりアインガルドどうするの?最近はば効かせすぎでしょ。


I am happy


うわ、ハッピーくんまた来たんだ。


ハッピーさんちーす。


You are happy.


せんくーそーべりまっち。


ロズガンがイシュタルあたりに任せとけばいいんじゃないの?あいつら正義感強そうだし。


てか、ジライヤ負けたのwwwwwwwwwwwwざっまwwwwwwwwwww


お、ジライヤに狩られ奴か?


まーた自分の傷を自分でえぐるやつに出会ってしまったか…


そんなわけないだろ、日時指定しろぶっ殺してやる!


顔真っ赤wwwwwwwwwwwwwww


ねえねえ、それより最強さんと最悪さんがぶつかったらどっちが勝つと思う?


ありえない話するんじゃねーの。その二人は受け身なんだから対戦カード実現しないでしょ。


We are happy


俺たちハッピーイェー!


ねえ、誰かカラスくんに挑んできてよ、公開で!私、絶対見に行くからさ!


お前、それ負けた方カモりたいだけだろ。



―――


匿名性のグループチャットのようだった。

俺のバトルの結果を元に俺の話やジライヤの話、脱線してまるで関係ない話と話が二転三転している。


「これなんですか?」

「さっきのランキング集計してる人が運営しているアイオーンクロックプレイヤー専用のグループチャットね。私が運営しているローズガーデンが小規模のコミュニティなら、これは大規模のコミュニティ。情報源としては便所の落書き程度のものだけど、どういうプレイヤーが話題になってるかとか知る分には使えるわ。」

「それで、俺の名前出てますけど…。」

「ええ、大人気ね。あなた…。」


冷や汗が流れた。

話題になっている。それも俺を狩るだの、俺はどんなプレイヤーだのという憶測がチャットで飛び交っている。

それは虚実含めたもので情報の正確性こそないものだったが、1つ確かなのが俺というプレイヤーがこのチャットで注目されるべき存在として目立っているということだ。

つまりこれは俺が狙われやすくなるということを意味している可能性がある。

ゲームの概要すらまだきちんとつかめていない俺にとって、これは窮地といって差し支えなかった。


「あなたが成し遂げたことはそれだけ驚くにたる事実なの。これからあなたは面白半分に狙われることもあるでしょうね。ジライヤをカラスはどんな奴だって…。そこで私達、ローズガーデンの庇護下に入っておけば、あなたに手を出すということはローズガーデンに敵に回すことだって牽制になるわけ、それに面白半分で見ている層にも納得させることが出来るわ。私達それなりに有名なようだから…。」

「なるほど…。」

「どう、悪くない話だと思うけど乗らない?」


そう身を乗り出して尋ねた。

俺は腕を組んで考える。

事実、メリットしかない話だと感じる。

ソロで対戦ゲームをやるというのは苦行だと語った他のゲームのプレイヤーも知っている。

無論、リスクもある。

まだ右も左もわからないゲームだ。

彼らが本当に俺にメリットを提供しているのかという疑問。

そもそもとして、この誘い自体がなんらかの罠なのではないかという邪推がある。

けれど、それを考えた上でもメリットは上回ると感じさせられると思った。

どうせ、わけのわからないゲームなのだ。

思いつく限りのベストを尽くしてみたい。

そう考え俺は答えを返した。


「よろしくおねがいします。」


そう頭を下げる俺にリサは嬉しそうに微笑んで、


「よろしくね。『カラス』くん。」


そう笑って告げた。

そうして俺は『亜下リサ』と明日、会う約束をして別れた。

そこで他のコミュニティのメンバーに俺を紹介してもらえるのだという。

帰り道、ゲームを片手に電気屋から出てくる子供を見た。

子どもたちは嬉しそうな顔で新しいゲームを持って駆け足で家に帰ろうとしている。

あのような時期が俺にもあったなと内心笑いながらスマートフォンを見る、

アイオーンクロック。

今の俺にはこのゲームが…


――――


『コキュートス』から対戦申し込みを受諾。レートを決定してください。

対戦者3:3トレードを希望。

残り時間20秒。


――――



俺はスマートフォンの画面を見ながら硬直した。


使用者:『カラス』

カード名:遅延ディレイ

種別:スペル

効果:周囲の時間の流れを遅延する。(30秒)

アクセル2


――時よ、止まれ。お前は美しい、


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