tetra
老人と少年は野原を抜けた。
そこはきらびやかな王都であった。
「ついたのぅ。 ここがヤマ王国の王都じゃ。」
「はい。」
少年は都を見わたした。
煉瓦作りの城壁に石で作られた床。
元の世界で言うところの中世時代のような都だ。
村とは違って行き交う人の量も多い。
商売人の声も高らかに響きわたっている。
その都の中心にそびえ立つ城。
そしてその城の近くに闘技場も見えた。
目の前を馬車が通りすぎた。
馬車には銀色の鎧で身を固めた兵が乗っていた。
よく見てみれば行き交う人々は皆筋骨隆々であった。
少年は目を輝かせて都を見ていた。
「都に感動するのも良いが・・・ 今からわしの知り合いのところへ行くぞ。」
「・・・あっ、すいません。行きましょう。」
老人と少年は都を進んでいった。
建物と建物の間の路地裏に来た。
「レッドギンよー。いるかー。」
「いるぜ!」
太い声が聞こえた。
路地裏の影から大きくて太く包帯のようなもので巻かれた剣を持った男性が現れた。
「よぉ、ブルード爺。 今日は何の用だい。」
「ちょっとわしの村のもんにエネルギーの感知について教えてやってほしくてのぅ。」
「ほぅ、この少年か。 見た感じもやしだけど大丈夫か?」
(もやしって何だ! せめてかいわれ大根と呼べ!)
「そう言うなよ。 こいつも立派な奴じゃ。 強化系統でな、ゴリラゴリラも倒したぞ。」
「へぇ、あの森の王者をねぇ。 じゃあ、まぁ教えてやるよ。 俺の稽古場に来な。」
「引き受けてくれるのか。 ありがたい。」
「いいってことよ。 それよりお前名前は?」
「マコトです。」
「マコトか。 俺はレッドギンだ。 俺も強化系統だな。 まぁ自在系統もちょっと使えるけどな。」
「じゃあお主の稽古場にいこうかの。」
「よし、ついてこいよ。」
こうして少年はレッドギンの稽古場に行くことになった。
大通りに面した建物。
なかなかいい立地の所に稽古場はあった。
「ついたぜ。」
「わしは黙ってみてるぞ。」
レッドギンは深呼吸をした
「修行開始だ!」
「はい!」
「じゃあ、早速俺の得意とするエネルギーの感知について説明するぜ。」
~エネルギーの感知~
ポテンシャルエネルギーは自在・操作・変化系統等の自分の体の外に放出する必要がある場合、「門」という部分から放出される。
門は体の表面に無数にある。
この門を開くことで先程の系統の能力が使えるようになる。
なので臨戦体勢の時、それらの系統の人は門を開けている。
門を開けていると自然にエネルギーが流出する。
一度門を開けたものは普段の状態が「門が中途半端に開いている」状態となる。
この状態でも少しエネルギーは流出するが、門を開いた時のような効果は得られず戦闘には不向きな状態である。
体外に放出されたエネルギーはポテンシャルの影響を受けない場合消えていく。
なのでポテンシャルの影響を受けない流出したエネルギーはせいぜい体表から1センチほどしかエネルギーが出ない。
もしそのエネルギーを感じとることができたら相手の体格や動作等もわかるという訳だ。
それを可能にしたのが感知。
エネルギーをエコーのように放出させる。
他のエネルギーとエコーがぶつかった場合エコーに反応が起きる。
門を一度開いた者は流出しているエネルギーに慣れ、それを感じとることができる。(個人差はある。)
ちなみに目の門を開けば流出しているエネルギーを視認することができる。
自在系統で操られたエネルギーも視認できる。
慣れさえすれば自在系統で操られたエネルギーですら感知することができる。
この感知を逃れる方法はある。
門を閉じることだ。
しかし一度門を開けた者は強化系統を使っていても少しエネルギーが流出することがある。
一度者を開けた者にとって門を閉じることは意識しないとできない。
しかし閉じれば感知を逃れることができる。
「とにかく、慣れだな。 まずは門を開けよう。」
「ちょっと待ってください。 門を開けたら感知されちゃうじゃないですか。」
「でも相手のエネルギーを感知したり視認したりすることが出来るんだぞ。」
「わかりました。 やってみます。」
苦渋の判断だった。
しかし勧められたものは断りづらい。
そういう生き方をしてきたんだ。
しょうがない・・・
「今からお前の体に俺のエネルギーを送り込む。 それで一気に門をこじ開けるぞ!」
「はい。」
「せいっ!」
体に何かが入り込んできた。
液体なのか気体なのか固体なのかはわからない。
ただその何かが全身を駆け巡り皮膚を中からつっついている。
ものすごく痛い。
と思ったのも束の間、今度はなぜか活気に満ち溢れてきた。
腕を見ると何か白い煙のようなものが覆っていた。
「目の門も開けたからわかるはずだろ。 体中の門が開かれエネルギーが流出している。」
「なんか、すごい活気に満ち溢れてきたというか・・・」
「それが門を開いた状態だ。 流出したエネルギーは実は身体を元気にしている。 強化系統も門を開けた状態だと効果が上がるから門を開ける意味があるんだ。」
「この後どうすればいいですか?」
「今からその門を閉じる練習をしよう。 体中を蓋で覆う感じを想像して。」
「はい。」
「今から俺が感知をする。 もし俺がお前を感知できなかったら成功だ。」
「わかりました。」
「まぁ初めてだから上手くいくわけないんだけど・・・」
レッドギンは言葉を止めた。
「どうしたんですか?」
「すげぇ。 俺でも感知できなかった。 一回で・・・ 天才だ!」
「あ、ありがとうございます。」
天才だと言われると悪い気はしない。
でもただ天才な訳ではないのだ。
少年にもいわゆる中2病の時期があった。
その時、色々と変な能力の修行をしていたのだ。
体から溢れる力を止める修行もつんでいた。
今の成功はひとえに中2病のお陰であった。
「じゃあ感知の修行だな。 エネルギーをエコーのように飛ばすんだ。。」
「はい。」
少年は門を開いた。
「おぉ、門を素早く開けるなんてな。」
これも中2病のお陰だ。
その後空気に集中した。
「俺は今、門を閉めている。 そしてこっそり門を開ける。 それを感知できたら言え。」
少年は空気にひたすら集中した。
空気と自分の境目が分からなくなってきた。
空気と一体化している気分だ。
門からエネルギーを少しずつ放出していった。
「目を開けているとエネルギーが見えてしまう。 目を閉じとけよ。」
少年は目を閉じた。
エコーに違和感を感じた。
「レッドギンさん、門開けましたか?」
「おぉ! あってるぞ! でも・・・」
「でも?」
「この距離なら当たり前だな。 本来なら遠距離で使うものだからな。」
「そうですよね・・・」
「俺は門を開いた状態でちょっとずつ離れていく。 感知できなくなったら言えよ。」
「はい。」
レッドギンが徐々に離れていった。
「すいません。 感知できません。」
「わかった。 一歩だけ戻る。 それで俺がどこにいるのかを数値で答えろ。」
「はい。」
レッドギンがちょっと近づいたのがわかった。
でも・・・
「数値では分かりません。」
「10.35mだ。 初心者にしてはいい方だがせめて30mは感知できないと戦えねぇぞ。」
「はい。」
「1km、一流の戦士は半径1kmの円の中を感知できる。」
「そんなに!」
「それに加え、その中に複数人いても彼らの動きやエネルギーの質を把握してどのような戦い方をするかを予測することもできる。」
「す、すごい!」
「俺はこの都全体を感知している。 もしこの都にヤバい奴が来てもどこにいるか分かるってことだ。」
「すごい・・・です!」
「感知は相手がどこにいるか、どんな心持ちかが分かる。 ちなみにエネルギーは気持ちによって流出する量が変わる。」
「はい。」
「でも、俺が空気の出入りがない密封されたところにいたり、相手が門を閉じていたりすると感知できない。 感知にはそういう側面もあるからな。」
「はい。」
「感知のいろはを教えたとことでお前に修行を課す!」
「はい。」
「とにかくエコーを飛ばせ! といっても門を開けているとエネルギーが流出していく。 時には休めよ!」
「はい!」
そこに老人が口を挟んできた。
「しばらく見ていたがなかなかの出来じゃのう。 戦士の選考会は3日後じゃ。 それまでに手続きをしようかのう。」
「選考会?」
「あぁ、言っとらんかったな。 まぁ何とかなるじゃろ!」
「そんな自信ありげに自信ないことを言わないでくださいよ・・・」
「三日間泊めてやるよ。 修行は毎日しろよ。」
「ありがとうございます。 でももし選考会に落ちたら・・・」
「再び選考会が開かれるまで待つのみじゃな。 その時は村に帰るぞ。」
少年は不安だった。
もし・・・
もし選考会に落ちたら一生元の世界に戻れないかもしれない。
次の選考会、いつ開かれるか分からない選考会を待って待って待ち続けて・・・
しまいにはこの世界で老いて死にました。
なんてことは嫌だ!
元の世界に戻りたい!
「さぁ手続きしに行くぞ。」
老人の声で我にかえった。
「俺はここで待ってる。 飯作っとくからな。」
「はい。」
少年は不安を抱きながら稽古場を出た。
都を進み闘技場まで来た。
スペインの闘技場に似ている、というかスペインの闘技場だ。
闘技場の前に人だかりができていた。
選考会の手続きの受付をしているようだ。
老人と少年は受付に行った。
「選考会の手続きをしたいんだが・・・」
「はい、わかりました。 こちらの誓約書にサインをご記入の上、身分証明書をご提示ください。」
そういって紙を渡された。
紙にはこう書いてあった。
国家特別時募集戦闘員選考会における規約および国家特別時募集戦闘員となった際の規約を遵守することを誓う。
氏名:
少年は氏名を記入した。
実はこっちの世界に来たときからジャージだった。
老人や街の人は中世の人のような服装をしている。
そしてリュックもずっと背負っていた。
なので元の世界の身分証明書なら持っていた。
ダメもとで見せてみた。
「マコト様ですね。 身分証明もできました。 これにて手続きが全て完了いたしました。 三日後の12時にここの来てください。」
「わかりました。」
老人と少年は闘技場を後にした。
「じゃあ手続きもすんだし観光するか。」
「観光って・・・ 修行しないと・・・」
「お主その格好で選考会に出るのか? 選考会はバトルロワイヤルじゃ。 装備は重要じゃ。」
「ジャージ動きやすいですよ。」
「ジャージとは何じゃの?」
(この世界、ジャージないのか・・・)
「あ、いや何でもないです。」
「装備についてだが、分かるか?」
(なんブルードさんゲームの説明係みたいだな・・・)
「分かりません。」
「じゃあ、説明するぞ。」
~装備の説明~
服や靴や装飾品には特殊な効果があるものがある。
攻撃力が上がったり、防御力が上がったりする。
それらを装備という。
装備はお金で買ったり、イベントで手に入れたりすることができる。
自分にあった装備をするべきである。
「なるほど・・・ ところでお金ありますか?」
「あるに決まっておろう。 お主は?」
(この世界のお金はどういったものなのか分からないし、持ってないってことにしとこう。)
「持ってないです。」
「仕方がない。 お金はわしが出す。 商店街でほしいものが売ってたら言いなさい。」
「ありがとうございます!」
商店街に着いた。
様々なものが売られており、とても賑わっている。
少年は商店街を歩き回り、ほしいものを選んだ。
ちなみに通貨はネオンというものだった。
1ネオン=1円というぐらいだろう。
藍の羽付き帽子 15000ネオン
青の派手な服 30000ネオン
紫のマント 20000ネオン
黒のスボン 20000ネオン
金の靴 25000ネオン
「高すぎるし、お洒落なだけで効果は微妙じゃ。 やっぱりわしが選ぶ。」
即却下された。
結局このようになった。
白い無地の布のシャツ 1000ネオン
小麦色の布のズボン 1000ネオン
靴は買ってもらえなかった。
しぶしぶ今までのジャージをリュックにしまい、その格好に着替えた。
地味というか貧乏というかなんか惨めな服装だった。
しかし、なぜか力がわいてきた。
「そのシャツは攻撃力上昇、ズボンはスピード上昇じゃ。 強くなったぞ。」
「あ、確かにそんな気がする。 服買ってくれてありがとうございました。」
「じゃあ、稽古場に戻るぞ。 奴の飯は上手いぞ。」
「お腹減ってきた~」
老人と新しい服装の少年は商店街を後にして稽古場に戻った。
「トンカツ作ったぞ。」
「美味しそうじゃのう。」
「本当だ。」
「じゃあ、せーので・・・」
「「「いただきます!」」」
少年は不安を少しだけ忘れることができた。
とある街に人々の悲鳴と建物が崩れ落ちる音が響く。
逃げ行く街の人々が目にしたもの、それは金色に輝く千手観音であった。
それは味方なのか敵なのか・・・
「愚かだ。」
冷たい声だった。