第95話:魔を退ける風
第2陣の飛行艇が堕ちていくのを心苦しそうに見つめる第3陣(最終ライン)の飛行艇の乗組員たち。しかし、すぐにそんな“余裕”はなくなった。シルバー少将が乗る飛行艇部隊の旗艦をドン,という衝撃が襲ったからである。
「チッ、やっぱあんな“花火”じゃ死なねえか・・・精霊!」
「やっぱり・・・ということは!少将は彼らは無駄死にになると分かってて自爆を!?」
血飛沫が舞い、操舵席に座っていたその兵士は斬り捨てられた。
「いちいち煩ぇヤツだ。おい!他に文句あるヤツいるか!?」
たった今、兵が斬り捨てられたのを見て、反論する者などいるはずもなく。
「よーし、いいか?今、この飛行艇は風の精霊の脅威に晒されてる!だが、この旗艦はあの閣下の鎧と同じ素材で作られた特別製だ、他の飛行艇みたく落とされるこたぁねぇ!落とせねえと分かりゃ精霊は他の飛行艇を落としに行くだろう。そしたら、その飛行艇ごと一斉射撃の集中砲火!!撃滅するんだ、分かったか!?」
「ハッ!!」
一方、旗艦の外では、フウが外装の破壊を試みていた。だが、シルバー少将の言う通り船体は堅く壊れそうになかった。
「めん・・・どう。」
そう呟くと、フウは宙にふわりとバク宙するように浮き上がった。
“超下降気流”
凄まじい衝撃が旗艦を襲い、完全に制御不能となった。
「何だ、どうした!?」
「異常な気流が発生し、飛行艇の魔導浮力でも耐え切れません!!墜落します!!」
「なにぃ!!?」
一度制御不能となりバランスを失った旗艦は急降下し、地面に叩きつけられた。これを見た残っていた他の飛行艇部隊は要塞へと撤退していく。
「本当に、やった・・・。」
撤退する飛行艇部隊を見て、隠密隊の使う抜け道で療養中の陰美が呟いた。
「隊長!」
撤退していた隠密隊と僧兵隊が陰美がいる場所まで退いて来たのである。
「すまないな・・・私が不甲斐ないばかりに。」
「隊長・・・。」
「不甲斐ないついでに頼みがある、暗。たった今、結界を襲っていた飛行艇部隊が撤退した。この機を逃すわけには行かない。負傷者のみ撤退させて、戦える者たちで魔鎧兵たちを迎え撃ちたい。」
「それは構いませんが・・・。」
いつもならばハッ,と即答する暗が何か言いたげである。それを察した陰美は、やはり無茶な命令か,と内心で省みる。だが、それは陰美の杞憂であった。
「その必要はないかも知れません。」
「?どういうことだ?」
奈良・北部 魔鎧部隊最前線
「隊長、駄目です!!進めません!」
「ええい!何を手古摺る!?あんな“女”1人に!!」
「はぁい❤あんま女だからとかナメてると、すぐイッちゃうぞ❤」
サラは魔力を具現化させた槍を手に魔鎧部隊を相手取り、大立ち回りを演じていた。無論“デビルスタイル”状態であったが、魔鎧部隊は翻弄され圧倒されていた。
「サラが1人で!?どうして・・・?」
「なんだか独特の口調だったので詳しくは解りませんでしたが、どうやら魔物である彼女は天帝結界を超えられないので、取り敢えず戦いながら待っている・・・とか。信用できないとも思ったのですが、あの魔鎧部隊を圧倒していたので・・・。」
「・・・。」
陰美は3秒で様々なことを考えた。現状・サラという魔物・護国院・これからの戦略、etc.・・・。
「隠密隊・僧兵隊は引き続き撤退だ。あとの事は恐らく、ミネルヴァ殿が指揮を執られるだろう。」
「ミネルヴァ様が・・・!?」
護国院本殿・緊急対策本部
ここでは未だああでもないこうでもないという下らない論争が繰り広げられていた。そこへ、勢いよく扉を開き入る者があった。
「何だ!?今重要な会議を・・・。」
論争を繰り広げていた幹部の1人が扉を開けた者に向かってそう言いかけて言葉を詰まらせた。
「護国院の“本部は”院長とその娘さんがいないと全く機能しないのでしょうか?現場の兵士たちは皆各々の役目を全うしておりますが。」
扉を開けたのはミネルヴァであった。




