第82話:嵐の前の静けさ―Kumi―
護国院本殿の北・転生の洞窟
この地を訪れた者は生まれ変わったように強くなる、或いは死んで、文字通り生まれ変わることになる。故に“転生の洞窟”。そんな解説をしつつ陰美は陽子と狗美を先導する。護国院長である父と転生の洞窟を管理している陰陽隊の隊長・難波に許可を得て、3人は早朝から転生の洞窟に来ていた。木々に囲まれ、横綱が撒かれた大岩によって入口は封じられていた。内部は異様な気配で満たされており、それは奥に行く程に濃くなっているようであった。何故この洞窟がこのような性質を持っているのかは謎とされている・・・。
「さて、では話してもらいましょうか?何故和神を置いてきたのか。」
2人の前を歩く陰美が徐に切り出した。
「その前に陰美、こっち。」
陽子の言葉に振り返る陰美。3人の背後には、いつの間にか異形の妖が複数体群がっていた。幽体を翻している妖、鬼、大蜘蛛、狼など姿は様々であったが、一様に白い気を纏っていた。
「私に気取られずに背後を取るとは・・・。」
「この洞窟自体気が濃いから、仕方ないよ。」
3人は群がって来る妖どもを迎え撃った。白い気を纏う妖どもは通常種よりも手強かったが、3人の相手ではなかった。1時間ほど経つ頃には、群がる妖どもはいなくなっていた。「しかし、打ち倒した妖の死骸が消え去るというのはどういうわけだ?」
陰美の言う通り、通常の妖ならば大抵は倒されれば死体を残すものであるが、この洞窟の妖は倒されると一体残らず死体を残さずに消滅していた。
「まあいいじゃない、後味悪くなくて。ね、狗美さん?」
「え?あぁ、まあな・・・。」
陽子の言葉に生返事をする狗美。心ここに在らずといった様子である。とりあえず3人は少し奥へ進み、中央に泉のある開けた空間に出た。
「やはり和神を連れてくるべきだったんじゃないか?狗美、貴女の為にも。」
「・・・和神は、もういい。」
「?どういう意味だ?」
陰美はいい加減知りたかった。狗美と陽子が和神を連れて来なかった理由を。
「何故狗美も姉様も和神を連れて来たがらなかったのです?和神には妖力など様々な力を受け容れさせた方が戦力として・・・。」
「和神は、もう戦わなくていい。私はそう思っている。」
「!?」
狗美の告白に陰美は言葉を詰まらせた。
「私が巻き込んでしまった王狼院との戦いや陽子のための護国院との戦い、その後の西洋妖界や魔界での戦いでは和神は前線に出ざるを得なかった。和神が決めた戦いだったし、その責任を取る戦いでもあったからな。だから私が傍に居て護ってやればいいと思っていた・・・絶対に護り通すと決めていた。だが、今回は違う。和神は私たちと共に貴族院と護国院から認められて、何も贖罪する必要はなくなった。今回の戦いに和神が参戦る必要はない。」
「いや、メリディエス帝国は“流界”を狙っているんだ。和神こそ戦う責任が・・・。」
「だったら“流界”に住む者全てが戦うべきだろう?何故和神だけなんだ?他の者が戦わないのなら、和神も戦う必要はない。」
「くっ・・・確かにそうだが普通の“流界”の民は戦えないだろう?だが和神は力を持っている。力がある者は戦うべき・・・。!!」
そこまで言って、陰美は悟った。
「だからここに連れて来なかった・・・貴女も和神のもとに残らなかった!妖力を吸収させないために!?」
狗美は黙って頷く。
「・・・そうだ。和神がただの人間になれば、戦力外の足手まといでしかなくなれば、戦わなくて済む。それに和神が1人の差で勝敗が決まるような戦いか?メリディエス帝国がどんな国かは知らんが、大国なんだろ?今までの“一組織”との戦いとは訳が違うんじゃないか?一国と“一世界”の“戦争”だ。和神自身戦う気でいるのだろうが、力が無い状態で戦うようなバカじゃない。」
「だが、ミネルヴァ様とシルフ様・・・と一応サキュバスNo.777がいるのだぞ?天力と霊力と魔力は少しずつ蓄えている。」
「それは構わない。もし“流界”が蹂躙されることになった時、生き残るための余力として持っていてほしいからな。」
「・・・・・。」
狗美の考えを全て聞いた陰美は、陽子に目をやる。
「お姉様も同じことを?」
陽子は静かに頷く。
「ここまで、和神はよくやったと思うよ。ううん、よくやったなんてものじゃない。頑張り過ぎなくらいだよ。人間なのに、ね。」
陰美は目を伏せ、2人の意見を鑑みた。
「確かに・・・そうかも知れません・・・。たかだか20余年しか生きていないというのに、この短期間で大変な経験だったでしょうね・・・。それに狗美の言う通り今回の戦争に和神は不要かも知れません・・・。」
陰美は考えをまとめた。
「解りました・・・。戦いが始まったら、和神には家に籠っていてもらいましょう。」
一方その頃、ミネルヴァの通信機に貴族院から連絡が入っていた。
次回から新章『帝国の侵攻編』に入ります。




