第76話:インターナショナル
流界・とこしえ荘近くの空き家の庭にある次元孔
次元孔から和神翔理、狗美、護国院陽子、護国院陰美、ミネルヴァ・エンシェント・ホワイト、シルフ、サキュバスNo.777が出てきた。
「全く、何故サキュバスNo.777まで・・・。」
陰美がぼやいている。そもそも、何故彼女らが流界に和神と共に来たのか?それは、あの貴族院での“話し合い”によるものであった。
事情を把握した貴族院長オーディンは、サキュバスNo.777の話を信頼に足るものとし、彼女がサタンから受けた“和神に追従する”という任務の継続を認めたのである。また、“サンクティタスの戦禍”での功績から互いに信頼関係が築けていると判断し、ミネルヴァにも和神の傍に付くよう命じた。ミネルヴァはサキュバスNo.777が近くにいるということに難色を示したが、自分がいない方が和神の身が心配だと思いその命を受諾した。
「本当・・・。こんな“魔”が近くにいるなど・・・。」
そう言ってサキュバスNo.777に敵意しかない視線を向けるのはシルフである。
貴族院でミネルヴァとサキュバスNo.777が和神に追従することが決まってすぐ、シルフは正に風の如く現れた。サキュバスNo.777の姿を見るや否や一触即発の空気が流れたが、此度のシルフは平静を保ち、周囲の者たちが臨戦態勢を執っていないことから直近の敵ではないと判断して自らの殺意を律した。そして貴族院長にシルフを始めとするあらゆる精霊の王・大精霊からの命を受けたことを告げた。その命とは“風の森を離れ、和神の傍に付くこと”であった。大精霊からの命であるならば異論はあるまい,と、貴族院はこれを承諾した。
「特使はいいのですか?護衛やお付きの方々はいなくても?」
陽子がミネルヴァに訊ねる。
「ええ。目立ってしまいますし。それと“特使”という肩書はもうありません。ミネルヴァと、名で呼んで下さい。」
「なんだか緊張します(笑)。」
肩を竦めてクスッ,と笑う陽子。陰美やシルフの尖った雰囲気とは対照的に、こちらは和やかな雰囲気が漂っていた。
和神は陽子とミネルヴァの話を聞きながら、これだけ美人が固まって歩いてたら充分目立つだろう,と心の中でツッコんでいた。確かにその光景は、ミスインターナショナル代表のツアーを彷彿とさせるものであった。現に妖、エルフ、精霊、魔物なのだから、ある種のインターナショナルなわけだが。
「いずれにせよ、我々は来たる“メリディエスの流界侵攻”を阻止すべく集まったわけですから、今だけでも協力しましょう。」
ミネルヴァがそう言うと、陰美とシルフも渋々サキュバスNo.777への警戒を緩めた。ミネルヴァの言う通り、今回いわば各世界の代表が集まったのは1週間後に迫っている“メリディエスの流界侵攻”に備え、流界の地の利の把握や侵攻地点の予測などの対策を取ることが目的である。その上で和神の存在は流界と各世界の良い橋渡し役になると考えられたため、一同は和神の住む“とこしえ荘”に向かっているのである。
「没収される前に“次元孔作り機”でそのナントカ荘に次元孔作っちゃえば良かったー。そしたらこんな歩かなくて済んだのにぃ。」
サキュバスNo.777がぼやく。彼女の言うように“次元孔作り機”は貴族院の研究所で解析されるため預けられていた。
「“没収”ではありません“拝借”させて頂いているのです。それにもし拝借しておらずとも、流界に無闇に次元孔を開けることは許されません。」
ミネルヴァがサキュバスNo.777の方を見ずに正論を述べる。
「むー。ミーちゃん冷たいっ。」
「ミーちゃん・・・。」
ふと黙って歩いている狗美に気付き、和神は声をかけた。
「狗美・・・?」
「ん?」
「大丈夫?」
「何がだ?」
「いや、なんとなく。ずっと黙ってるし・・・。」
「ああ・・・気にするな。」
やがて一同は“とこしえ荘”に到着した。




