第73話:精霊の安堵
「それ以来シルフ様は世界を放浪されることをやめ、この森に定住するようになり、外界との関わりを持たなくなりました。“魔を嫌う”というのは言わずもがなですが“人間嫌い”というのは接触を避けたいから。過去を思い出してしまうからです。」
シルフの過去を一通り話し終えた特使は不安そうに和神の方を見やる。
「貴方にシルフ様がしたことを許せとは申しませんが、どうかご理解頂きたいと・・・。」
「別に責めませんよ。」
「!?」
皆が一様に驚いた。
「いや、凄い痛かったですけどね。死んでませんし。そもそも魔界に行っていたのに不用意にこの森に入ってしまった自分の責任ですから。だから、責めてません。それより今の話からすると、シルフ・・・様は俺を殺したと思ってるんじゃないですか?生きてるよーって知らせないと、またトラウマが増えますよ。」
さっきまで死にかけていたことを感じさせず、スッと立ち上がる和神を皆ぼうっと見ていた。
「?何ですか・・・?」
和神は皆の視線を照れるように訊ねる。
「お前・・・自分を殺しかけた奴に会いに行く気か?」
「え、うん・・・まあ。」
「まあって・・・。」
狗美は呆れたようにため息を吐き、和神に近付く。
「だったら・・・私の傍から離れるな。いいな?」
「・・・分かった。」
陽子と陰美と特使はそのやり取りをぼうっと眺めていた。
「ん・・・?何だ。」
3人の視線に気付いた狗美が何の気恥ずかしさも見せずに堂々と言うと、3人はハッと我に返ったように立ち上がる。
「では、参りますか。シルフ様のもとへ。」
森の中央・精霊の社
「我のこの手は・・・。」
シルフは自らの右手を左手で強く握り、天井の梁の上で体を震えさせていた。
「シルフ様?」
特使が1人で社へと入った。それを見たシルフは虚空に姿を隠した。
「シルフ様、貴女が貫いた人間・和神様は生きておられます。私を含め3人の者が治癒の術の心得がありましたので、問題なく回復されました。」
「!」
それを聞いたシルフは特使の前方5mほどの場所に姿を現した。
「それは・・・真か?」
「はい。和神様、どうぞ。」
扉を開き、和神が入る。その瞬間、シルフは和神の目の前に移動し、自分が貫いた箇所に触れる。
「本当に・・・無事・・・?」
「はい、大丈夫です。」
和神がそう答えると、シルフはフッと和神の背に手を回し、懐に顔を埋めて、よかった・・・よかった・・・,と和神の無事を全身で感じた。いきなり抱き着かれた和神は初めこそ少し驚いた顔をしていたが、すぐにそれを受け容れたようであった。
「シルフ様・・・。」
特使の表情も自然と緩み、暖かな時間が流れた。
あまりにも早く時が流れてしまう世界・・・故に“流界”。
シルフからの話を聞いた当時のサンクティタス国王が名付けたという。
サンクティタス王国・貴族院
動乱が去り、戦場となった各地の復興に邁進する貴族院とサンクティタス軍。そんな中、またも動乱を予期させる者が貴族院の前に立った。
「ねぇ、そこの大っきい軍人さん。ミネルヴァちゃん、いる?」
魔界の南、魔導機械大国・帝国メリディエス
「決行は1週間後!我らメリディエス帝国は、必ず成し遂げる!!かつて奪い損ねた世界を!我が帝国の手に!!」
「ウオオオオオオオオオ!!」
幾千幾万と整然と並んだ兵士たちが雄叫びを上げる。
「士気は十分だな、マキーナ大将?」
「その呼び方はやめろ、スティール中将。私はただのスポークスマンに過ぎん。全ては元帥閣下のお力だ。」
「そうかね?どう思うよ、メタル?」
「・・・肯定・・・。」
演説を終えたマキーナを旧友であり戦友であるスティールとメタルが待っていた。メリディエス三英傑。彼らはそう呼ばれている。




