第7話:VS王狼院
諸事情により、今回からしばらく挿絵はなくなります。
「お前が嫁になれば俺は完全に王位を継承できるぜ。そうなればお前も王妃だ、悪い話じゃないどころか最高の話だろう?名字も持たねぇ、親もいねぇ、ド貧困だったお前みたいな女が王妃になれるんだぜ!?こんなシンデレラストーリー見たことねぇぜ!」
狼斗が狗美を説得し続ける。説得というよりも脅迫に近い上、傲慢で横暴な態度であるが、狗美は冷静に言い返す。
「悪いが、自分より背の低い男は嫌いでな。」
狗美の身長は170cmほど、狼斗の身長は神社の障子や賽銭箱の大きさから見て、160cmあるかないかといったところであった。取り巻きの男たちと比べても明らかに頭2つ分くらい小さい。
「それはダメだ!」
「狼斗様に身長の事は・・・!」
取り巻きたちが慌てふためいている。
「狼斗様・・・!!」
狼斗の側近が顔色を窺う。
「おい・・・予定変更だ。」
取り巻きたちがはい,と背筋を伸ばす。
「屋敷に連れてって丁重にもてなすつもりだったが止めだ・・・。ここでいたぶってやれテメェらぁぁ!!」
「はいぃ!!!」
スーツの男たちが皆狗美に集中し、姿を異形のものへと変えていく。それが、人狼の本来の姿なのである。身体全体は人間の体裁をしているが、頭や手足は狼のそれとなっている。
「ある程度いたぶったら連れて来い!」
命令を出した狼斗は、神社の奥へと入って行く。
「おい!!逃げんのかよぉ!?クソチビ!!」
叫んだのは、和神だった。皆、存在を忘れていた“人間”の突然の暴言に人狼たちは呆然とし、狼斗は背を向けたまま怒りに震えている。
不意に、人狼の1人の鼻っぱしらに膝蹴りが入り、倒れ込む。人狼たちが呆然として和神に注目している隙に狗美がやったのである。元より、和神も隙を作るために叫んだのである。
奇襲に気付き、人狼たちが狗美の方へ目を向けた時には、既にもう1人がやられていた。狗美に向かおうとする人狼たちの中で一番近くにいる人狼の顎を和神は殴りつけた。人狼といえど、顎を殴られればグラ付く。そこに狗美の跳び蹴りが入る。
ズドン!
・・・これは狗美の蹴りの音ではなかった。銃声。それは、狼斗が和神に対して使った拳銃のものであった。
「大丈夫か、和神!」
狗美は和神の状態を確認した。肩から血を流しながら。撃たれたのは狗美だった。和神に対して放たれた弾丸を狗美が間に入り、庇ったのである。
「狗美さん・・・!」
「安心しろ、妖力を凝縮して撃ち出す弾丸だ。すぐ治る。」
「はぁ!?ダッセーなァ、女に守られてよぉ!ザコいんだよ人間!そんなデク野郎より俺のがいーだろ?犬神ちゃーん。」
狗美は撃たれた肩を抑えながら鼻で笑う。
「ふっ、私はこの2日で何度も彼に守られ、助けられてきた。少なくとも、1度も傷つけられそうになった事はない。お前のようなクズと違ってな。」
「ぐぬぬぬ!このアマゴラァ!!」
狼斗はブチ切れ、狗美に撃ちまくる。
「ぐああ!」
怒りの弾丸は人狼に命中した。狗美がさっき跳び蹴りで倒した人狼を楯にしたためである。狗美は1発も被弾しなかった。狼斗はますます怒り狂い銃をブッ放す。しかし、弾丸は相変わらず楯にされている人狼に命中している。人狼に隠れながら、狗美と和神は次の行動について話し合う。
「和神、いいか?私は今から犬神状態になって人狼を蹴散らす。恐らく犬神化した時点で人狼の注意は私に集中するから、その隙にお前は裏の祠に行って、“犬神の数珠”を取ってきてくれ。それで暴走が抑えられるか分からんが、私にその数珠を向ければ何らかの効果はあるはずだ。人狼を殲滅したら次はお前を狙うかも知れんからな。」
「わかりました。」
和神は即答した。今度こそ犬神化した私に喰われるかも八つ裂きにされるかも判らないというのに,という言葉を狗美は呑み込んだ。そう言っても、他の方法を考えている暇はない。2人はすぐに行動に移った。
「行くぞ。」
「はい。」
狗美は犬神状態になっていく。昨夜邂逅した時には気付かなかったが、狗美が犬神化していくにつれて彼女を取り巻く空気が変化し、何か“気”のようなものが膨大に膨れ上がるのを和神は感じた。これが俗に言う“妖気”なのだろう。人間である和神が感じるほどの気の変化、妖である人狼たちはその比にならないほどに感じていた。ましてやそれを放出しているのは、自分たちと敵対する存在である。人狼はひしひしと明確に感じていた。
“死”を。
和神はすぐに裏の祠へ駆け出した。予想通り人狼たちは狗美に釘付けで、和神の動きには全く気付いていない。程なく神社の裏の洞窟に辿り着いた。何とも不穏な瘴気的なものを感じるが、祠はこの奥にある。
「ぎゃあああ!!」
恐らく狗美にやられたであろう人狼たちの断末魔が神社から響いてきて、洞窟の不気味さを際立たせる。が、四の五の言っている場合ではなく、和神もこれしきで怖気づく人間ではない。祠を目指し、洞窟に進入した。