第67話:戦禍の跡
“サンクティタスの戦禍”。後にこう呼ばれるサンクティタス王国史上稀に見る動乱は幕を下ろし、街や貴族院では復興に向けての対応に追われる者達が右往左往している。
エッジ・スライサーと連絡が取れなくなったことで、敵は完全に撤退。石化したエッジ・スライサーは、サンクティタス王国最高の刑務所『ザ・ヘル』に安置され、“カッティングゼロ”の構成員及び裏切ったサンクティタス王国軍の者達もそこに収監された。今回の一件で浮き彫りとなったサンクティタス王国の闇に対して、貴族院長オーディンはこれまで以上に厳粛な院長にならんとしている。
一方で、この件の功労者として和神翔理、狗美、護国院陽子、護国院陰美は貴族院から受勲された。これは、サンクティタス王国始まって以来初のことであったが、古くからの慣例を取り払いたい今のサンクティタス王国にとっては丁度良い事であった。また、副賞として見たことのない宝石と金一封が贈られた。
特使・ミネルヴァは今回の功績が認められ、2階級特進を果たして准将となった。
風の森
受勲式やら何やらが片付いたところで、和神たちは特使に連れられ、風の森へと来ていた。一応、名目上は今回の騒動による被害の確認ということだが、シルフの住むこの森で魔界の住人が何かできるとは考えにくい。恐らくは少し頑張りすぎ、真面目すぎる特使への貴族院からの休暇のようなものなのだろう。
「被害はないようですね。」
特使は真剣な眼差しで周囲を見渡す。とはいえ、今日の特使は軍服ではなくカジュアルな服装をしている。特使もまた、貴族院の意図を汲み取っているようである。
「今回の一件では、皆様に何と感謝すればよいか分かりません。陽子様、陰美様には多くの兵が命を救われ、和神様、狗美様がいらっしゃらなければ、私は今ここにはいなかったでしょう。」
不意に特使は和神たちへの感謝を述べ始め、深々と頭を下げた。慌てて恐縮する狗美を除く3人。その様子に特使の頬も緩み、それまで見たことのなかった特使の美しくも愛らしい笑顔に3人と狗美も思わず見惚れてしまった。
そこへ、凶手が襲った。
魔界の南、魔導機械大国・帝国メリディエス
魔界屈指の軍事国家であり独裁国家であるメリディエスは、軍の元帥が国王を兼任している。
メリディエス帝国、帝都デウスマキナ・メリディエス城。元帥の部屋。
元帥に、部下が報告を挙げている。
「そうか。エッジ・スライサーはしくじったか。“次元門生成装置”と“完全変身機”をくれてやろうと、所詮はチンピラ上がりの盗賊か。」
元帥はふぅ,と呆れたような溜め息を吐く。部下が報告を続ける。
「どうやら、あらぬ邪魔者が現れたそうで。」
「邪魔者?貴族院以外にか。」
「はい。東洋の妖の女3名と・・・人間の男・・・のようです。俄かには信じがたいですが。」
「東洋の妖は高い妖力を持つ者もいると聞く。・・・だが人間とは・・・どういうことだ?」
「報告によると、妖力や魔力・・・天力までも使っていた・・・と。すみません、人間ではない者が他に3名いたようですね。」
「いや。」
元帥は席を立ち、窓から帝都の風景を見る。
「ふ・・・我らが最も嫌う種類・・・その最上級が現れたようだな。」
「・・・?どうしましょうか、計画の方は・・・?」
「構わん。進めろ。どうせ世界を相手取るのだ、敵を“知った”というだけの事、むしろ好都合というものだよ。」
風の森
和神は背後から背中を素手で貫かれていた。シルフの手によって。




