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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第3章:西洋妖界 編
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第65話:贈り物

特使の槍に背から胸へと貫かれたサキュバスNo.777。その胸元からケータイのような通信機が落ち、その通信が漏れ聞こえる。

「想定外の事態は起きたがメインミッションは継続可能。エッジ・スライサーは貴族院に入った。」

 これを聞いた特使は無言で驚愕した。

「フフ・・・アタシたちは貴族院に雪崩れ込むのがメインだったけど・・・ここでアナタたちを足止め・陽動するっていうのがサブミッションだったワケよ・・・関節技じゃないわよ?」

 不敵に笑うサキュバスNo.777を特使は近くの廃墟に投げ捨て、即刻貴族院へ続く次元孔へと向かった。特使に続いてきた兵士たちもヴァイスの配下たちとの戦いに勝利を収め、特使の後を追う。和神と狗美もこれに続こうとしたとき、和神を引き留める声があった。

「人間の男・・・。」

 気付いた和神は振り返る。声の主は廃墟の壁に寄りかかって力なく座り込むサキュバスNo.777だった。

「生きてたんだ・・・。」

「フフ・・・元々生きてはいないんだけどね・・・。それより、ミネルヴァちゃんに教えてあげて?エッジ・スライサーくんは、ビジュアルを変える道具を持ってるって。」

「ビジュアル・・・見た目を変えられるってことか?」

「そーゆーこと♪」

「おい、和神?」

 和神が立ち止まっていることに気付いた狗美が声をかける。

「・・・急いだ方がいいかもよ?誰に化けてるかまでは知らないから。」

「・・・なんでそんなこと教えるんだ?」

 和神が聞き返す。

「フフフ、サタン様はサンクティタス王国が乗っ取れそうなら乗っ取っちゃおうと思ってたケド、アナタたちみたいな不確定要素とかミネルヴァちゃんの“秘密兵器”とか。今回乗っ取るのはムリっぽいから・・・だったら“カッティングゼロ”の勝手にもさせたくないっていうのがサタン様の考えよん❤

要は“カッティングゼロ”は自分たちが利用するのには丁度いいけど、自分たちが利用されるのには鼻に着く・・・ってカンジぃ。」

そう言いながらつらそうに微笑むサキュバスNo.777に、和神はどこか同情していた。よくよく考えてみれば、今回の戦いはサンクティタス王国が産んだ膿が原因で起こった事である。“カッティングゼロ”でさえこれに便乗したに過ぎず、オリエンス王国やサタンは更にこれに便乗したに過ぎない。ましてやサキュバスNo.777や魔物たちはそれの使いっぱしりである。

「不憫だな。」

 和神は無意識にそう口にしていた。

「和神・・・。」

「アハッ♪・・・イテテ。不憫なんかじゃないよ♪サタン様配下のアタシや魔物たちなんて消耗品リアルエクスペンダブルズだもん。ただの駒だもん♪使えなくなったら代用品を作るだけよん❤幸せだなぁ・・・。」

 サキュバスNo.777は左手の人差し指で鼻の横を擦る。それが強がりであることは多少鈍感な和神にも明白であった。

「行くぞ、和神。」

「・・・。」

 和神は先刻、サキュバスNo.777が狗美に刺した槍の分の魔力をサキュバスNo.777に飛ばした。攻撃としてではなく、塩を贈るように。

「!なに?これ?」

「受け取ったものを返した。宛先、間違ってたからね。」

 和神は踵を返し、貴族院へ続く次元孔へと走り出した。

「次はもっといいもの贈れよ?」

 狗美はそれだけ言って和神の後に続いた。呆気に取られるサキュバスNo.777は小さく呟いた。

「なるほどねぇ・・・。」


一方、エッジ・スライサーの“変身能力(?)”の存在を知らないを貴族院に戻った特使は兵たちに、院内に潜伏していると思われるエッジ・スライサーの捜索を始めさせていた。特使自身は急ぎ院長ちちのいる謁見の間へ向かった。



前回は急用のため更新できず申し訳ありませんでした。加えて、第62話・63話の作中で誤りがあったので、修正致しました。重ねてお詫び申し上げます。

今後も『異界嬢の救済』をよろしくお願い致します。

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