第61話:ダイヤモンドカッター -Diamond Cutter-
「和神翔理・・・私のツレで“受け容れし者”だ。」
狗美がヴァイスにそう告げる数分前。
「和神様、あれが見えますか?」
特使が指を指す先を見やると、空中に漂う煌く何かが見て取れる。
「何か・・・光ってますね?」
「あれはヴァイス殿が放っている天力の欠片・・・言わば“ダイヤモンドダスト”の種のようなものです。天力に触れて間もない人間が見て取れるということは、恐らく“ダイヤモンドダスト”よりも大きな天力を撒いているのだと思われますが・・・。和神様、アレを“受け容れて”みて下さい。」
「えっ?」
特使の突然の提案に和神は思わず聞き返した。
「私の天力や狗美様たちの妖力も受け容れられたのです。きっとヴァイス殿の天力も例外なく受け容れられるでしょう。敵の天力を吸収するなんて気は進まないでしょうが、そうしないと狗美様に再び“ダイヤモンドダスト”が襲い掛かってしまいます。先も申し上げた通り、私にはそれを防ぐ余力は残されておりません。それに、ヴァイス殿の天力を受け容れれば・・・。」
現在。
「“受け容れし者”・・・だと?その男が?・・・そうかさっきの魔力を放ってきたのはそういう訳だったか。ならば・・・!」
ヴァイスが踏み込み、和神のもとへ向かおうとした所を特使が余力を振り絞った矢で迎撃しようと試みる。しかし、特使の矢は次々と弾かれ、1秒と経たない間にヴァイスは和神の眼前へと接近していた。振り抜かれたヴァイスの剣を特使の天力の剣が止める。しかしその剣の光は弱々しく、今にも消えようとしている。
「邪魔をするな、何も知らぬ者よ。これは此度の私の裏切りとは無関係。この者を斬るは“ジュエル12”としての使命であり、世界の為なのだ。」
急に見せたヴァイスの真剣な面持ちに、特使はその言葉の重みを感じ、今、この瞬間のヴァイスは“裏切り者のヴァイス”ではなく“貴族院のヴァイス中将”であることを察した。だが、それでもここを譲るわけには行かなかった。今のヴァイスがどうであれ、過去のヴァイスがした裏切り行為と未来のヴァイスがするであろう背信行為が消えるわけではないのだから。
「退け、ミネルヴァ中佐!!」
特使は弾き飛ばされてしまい、ヴァイスの剣は和神を完全に捉えた。だが、そのヴァイスを背後から狗美の斬撃が襲う。
「くっ・・・!」
剣に天力を“振っていた”ヴァイスは直接斬撃を受けた。そして、狗美へと牽制の斬撃を飛ばそうとするヴァイスに、準備を終えた和神の攻撃が放たれた。
“天撃【金剛石削】”
「しまっ・・・!!」
ヴァイスは眩い光に飲み込まれた。数分前、特使が言った言葉。
「ヴァイス殿の天力を受け容れられれば・・・その力をヴァイス殿に放てたのならば、必ずや打ち倒せるでしょう。ダイヤモンドを削ることができるのは、ダイヤモンドだけなのですから。」
狗美への牽制に天力を“振っていた”ヴァイスは自身が放つ予定であった“ダイヤモンドコスモ”用の天力の全てを直接自分で受けることとなった。その威力は特使に重傷を負わせた“ダイヤモンドダスト”を遥かに凌ぎ、眩い光が収まった時にはヴァイスはその場に倒れていた。
「やりましたね・・・和神様。」
「!特使!」
和神は後方で起き上がろうとする特使に肩を貸した。
「・・・あんな状態で無理しないで下さいよ・・・。」
「ふふ・・・貴方を護らねばと、必死だったもので・・・。」
そう会話を交わす2人に、瀕死のヴァイスが剣を振り上げていた。
「ぜがいの・・・ざいやぐ・・・は・・・ここで・・・断つ・・・!」
「!!」
剣が振り下ろされようとした瞬間、狗美の蹴りが脇腹に入り、ヴァイスはよろけた。そこから狗美の怒涛の連続打撃が打ち込まれ、最後に斬撃が体を切り裂き、ヴァイスはその場に倒れ、今度は起き上がっては来なかった。




