第55話:サンクティタスの戦火・貴族院地下倉庫
和神と狗美がピクシー中尉とクリア少佐に会う10分前、陽子と陰美がイレイズ大佐とシャイン大尉に合流する3分前。特使は魔界と繋がる次元孔が出現したという貴族院の地下倉庫に到着していた。倉庫の前の広間には兵士たちが詰めている。
「ミネルヴァ様!」
十数名いる兵士の中、その場を取り仕切っていた曹長が兵をかき分けて特使の前へ来た。
「“様”はやめてください。それで、皆は何故ここに集まっているのです?」
「はっ!次元孔前に、門番のように魔物が立ち塞がっているからであります!!」
特使ミネルヴァが来たことを知って、兵たちはモーゼの十戒のように倉庫への道を開けた。特使が倉庫を覗くと、そこは空き倉庫で物は殆どなく、代わりに魔物が1体鎮座していた。
「・・・手強そうですね?」
「ええ、既に兵士が数人手足を刎ねられております。ただ、あくまでもあの次元孔を防衛することを目的としているらしく、この倉庫より外へは出てこないのです。」
「なるほど。ただ、モタついていても仕方ありません。あなた方はこちらで待っていてください。」
そう言うと特使は倉庫の中へと踏み込んだ。すると、鎮座していた魔物が目を開き、立ち上がった。その出で立ちはローブを纏い、手に刀を携えた人間サイズの一本角の“鬼”であった。
「“インプ”・・・ですか。」
「否、“ブルーインプ”。」
その名の通り、そのインプの体色は青かった。特使は“ブルーインプ”については図鑑を介して知っていた。青い体に尖った耳、一本角の人型魔物。その戦闘能力は高く、特にスピードに特化していると。
「気を抜いたな・・・?」
特使がブルーインプの特徴を思い返している間に、ブルーインプは特使の背後を取っていた。特使は瞬間的に“エンジェルアローサル”を発動。発動と同時に背部に展開される翼状の天力によって、背後で斬りかからんとしているブルーインプを牽制。斬りかかろうとしていたブルーインプにとってはカウンター攻撃を受けた形となり、態勢を崩す。そこへ特使の天力の剣が左腹部から右肩へかけて振り抜かれた。魔界の村・ゲビューラでサキュバスNo.777に浴びせたものと似るこの攻撃であったが、違ったのはここが地下であったこと。ブルーインプは上空まで吹き飛ばされる程の剣戟の威力を天井への激突で受けることとなった。ブルーインプは天井をぶち抜き、1階の貴族院敷地内の庭から飛び出し、10m程飛んでから地上へと落ち、近くにいた兵士らに捕縛された。
「凄い、ミネルヴァ様・・・。」
「あれが選ばれた者にしか使えないという“エンジェルアローサル”・・・。」
「確かに悪しき者があれを使えたら・・・考えるだけで恐ろしい。」
地下倉庫前に集まっていた兵士たちは口々に声を漏らしていた。特使は“エンジェルアローサル”を収めながら兵士たちの方に振り向いた。
「ここに美形の妖の女性が1人か3人、大柄な人間の男性が1人いらっしゃる可能性があります。その方々がいらしたら次元孔を通して差し上げて下さい。軍曹以上の階級の者は、私と来てください。残った兵の中から2人は援軍の要請をしてください。次元孔へ入ります。」
「は・・・はい!!了解しました!」
兵士たちは一同敬礼をした。そして特使は10名弱の兵士たちとともに次元孔へと足を踏み入れた。
そこは、荒れ果てた集落であった。
「ここは・・・“チェッカーレスグレイ”・・・?」
「おや、もう突破してくる者がいると思えば、オーディン殿の令嬢か・・・流石だ。」
その声の主は、特使含め兵士たち皆が知った顔であった。
「ヴァイス・ウィズダム・ダイヤモンド中将・・・。」