第53話:サンクティタスの戦火・聖の泉
「貴方が本当の裏切り者ね、ブライト大佐」
「何故分かった?」
「たった今大剣振り下ろしたでしょうが。それまでは全てを疑って見ていたまでよ。」
そう言いながら陰美はブライト大佐に妖銃を向けた。
「お姉様、ヘカトンケイルはお任せします。」
「はいはーい!」
陽子は軽く返事をし、ヘカトンケイルを炎の渦で包んだ。
“陰陽術【火遁】炎渦柱”
「さあ、ブライト大佐。私とシャイン大尉とイレイズ大佐を相手に抵抗なさいますか?」
「・・・ふん、侮るなよ?極東の小娘が!」
そう言い放つと、ブライト大佐は全身から天力を溢れ出させ、その手に持つ大剣に纏わせた。大剣はただでさえ2mはあったところを更に巨大化させ、その長さはおよそ4m程にまで達していた。
「我が膂力は将校をも凌ぐと知れ!!」
ブライト大佐はその巨大剣を陰美に振り下ろす。巨大剣は大地を砕き、陰美は咄嗟に回避していたものの、その剣圧で飛ばされた。その一撃の隙に、シャイン大尉が切り込み、ブライト大佐の背後を取る。
「失敬!」
“サンセットスラスト”
天力を込めた長剣による日が沈む水平線に準えた一閃である。
“ライトアーマー”
シャイン大尉の長剣はパキンッという音とともにブライト大佐に接触した部分から折れた。
「軽いわ!」
振り返り、折れた長剣を持つシャイン大尉に巨大剣を振り下ろさんとするブライト大佐。しかし、大きく腕を振り上げたブライト大佐のガラ空きとなった脇腹にイレイズ大佐の大金鎚が入った。
「“ライトアーマー”だ、効かぬわ!」
「そうか?内臓にもかけたのか?」
「なに?」
“クエイクインパクト”
それは、金鎚に込めた天力を打ち込んだものの内側へ響かせる一撃であった。ブライト大佐は“ライトアーマー”という謂わば天力の鎧を纏っていたが、“クエイクインパクト”の前では意味はなかった。ブライト大佐は血を吐き、その場に膝をついた。
「ふふ・・・我に膝を着かせるとは中々やりおるわ・・・!」
「何故だ、ブライト大佐。何故裏切った?元より貴族階層の生まれであるお前が何故?」
イレイズ大佐が訊くと、ブライト大佐は不敵な笑みを浮かべながら答えた。
「単純な事よ・・・現在の貴族院の、オーディン殿の政策に納得行かぬからよ・・・!!我ら貴族院は妖界西欧諸国の長であり、崇められるべき存在!!それをあのオーディンは貶めた!!貴族も庶民も分け隔てなくなどと下らんことを宣って・・・!」
すると、ブライト大佐は立ち上がる。
「馬鹿な・・・!もう再生したというのか!?」
“クエイクインパクト”
イレイズ大佐のもう一撃をその脇腹に受けたブライト大佐であったが、今度は揺らがなかった。
「それはもう効かぬぞ・・・イレイズ!!」
“オラクルアーマー”
「これは・・・“オラクルアーマー”!?」
“オラクルアーマー”・・・それは、全身・全細胞に天力による防御を施すというものであった。しかし、その反動は大きく、一定時間後には全身に凄まじい負荷がかかるため、禁呪とされているのである。
「昨今の連中には・・・!貴族を敬う精神が足らぬ!庶民の頭が高い!!昔は貴族階層の者が街に出ただけでも皆が平伏したというのにィ!!」
“術法解除”
ブライト大佐が纏っていた“オラクルアーマー”が消えた。陰美の手が、ブライト大佐の背に触れている。
「貴様・・・いつの間に・・・!」
「貴方が下らないことを宣っている間に、よ。」
陰美は隠密部隊の技術の1つである“影身”という自身の名と同音である存在を隠す手法でブライト大佐の背後に近付き、直接手を触れたものにかかっているあらゆる術を解除する“術法解除”を使ったのであった。
「下らない栄光なら他者の邪魔にならないところで感じてなさい、鬱陶しい。」
陰美は鎧の剥がれたブライト大佐に“妖銃”で何発も妖力の弾丸を撃ち込んだ。