第52話:クリア・コレル少佐の罪
「アタシは確かに法を犯した。貴族院の仕事で庶民階層の街に潜伏していたマフィアから押収した金銭の額を何度かちょろまかして差額を頂いた。」
「・・・本当、ですか?クリア少佐。」
ピクシーは信じられないといった様子で真偽を確かめる。
「ホントさ。・・・んで、その金を使って禁止調合薬の製造を他国の薬師に頼んだ。」
ピクシーは天力で形成した手錠をクリア少佐の手首にかけた。
「クリア・コレル少佐・・・あとは軍で伺います・・・。」
「ああ・・・。」
クリア少佐は大人しくピクシーの部下に連れて行かれた。
「禁止調合薬って・・・どういう薬ですか?」
「黙れ人間!さっさと連れてけ!」
和神が連れて行かれるクリア少佐の背に訊いたのをピクシーが遮る。しかし、少佐は答えた。
「・・・全能薬さ。知り合いの子どもが不治の病でね。その治療に必要だったんだよ。」
「今その子は?」
クリア少佐はニカッと笑いながら車輌に乗せられていった。
「何で不治の病を治す薬の製造が禁止されている?」
狗美がピクシーに訊ねる。
「・・・必要な素材が殆ど麻薬とか覚醒剤とか、猛毒とかの類だからよ。それに薬自体にも副作用があったはず。」
「副作用?」
「・・・“飲ませた者の寿命が半分になる”・・・。その子の親が飲ませたのか、それとも・・・?」
珍しく憂い顔を見せたピクシー。切ない空気が漂う。それを冷静なメイドの声が晴らす。
「身柄を拘束された以上、裏切りようもありませんね。」
「そうだな・・・特使に合流しよう。」
和神はメイドと狗美の言葉に頷き、軍用車に乗り込んで貴族院に向かって発車した。
貴族院裏の森“サンクチュアリーフォレスト”“聖の泉”前
「イレイズ大佐・・・!」
シャイン大尉は息も切れ切れに大佐の名を呼ぶ。
「もう少しだ・・・!コイツを押し返せれば、あとはザコばかりだ!」
イレイズ大佐の息もまた上がっていた。既に他の兵士たちは倒れており、立っているのはシャイン大尉とイレイズ大佐のみとなっていた。その2人の前には、3mを超える躯体に無数の顔面と手足を有する世にも不気味な魔物が立ちはだかっていた。
「くっ・・・!幾ら切り落としてもキリがない手足・・・どうすれば!?」
「う~む・・・幾ら潰そうと無くならぬ顔面もな・・・。」
シャイン大尉は両手持ちの長剣を、イレイズ大佐は1tを超える大金鎚を武器としていた。しかしそのいずれの武器も目の前の魔物には無力であった。そこへ、1つの炎弾が飛来し、魔物に直撃した。
「なんだ!?」
驚くシャイン大尉とイレイズ大佐の前に、陽子と陰美が舞い降りる。
「無数の手足と顔面・・・ヘカトンケイルか。」
「妖術が有効だね。」
陽子と陰美は“鬼火”をヘカトンケイルに絶えず浴びせつつ、陽子は“陽撃”で陰美は妖銃でたたみかける。
「救援に来てよかった。」
ブライト大佐が両刃の大剣を携えて駆け付けた。
「あの者たちは?」
「ミネルヴァ殿のご友人だ。」
そう告げられると、シャイン大尉とイレイズ大佐は納得したように頷くと、周囲に跋扈している小型の魔物の掃討に取り掛かった。
“陰陽術【火遁】炎流槍~臓腑滅爆”
渦巻く炎が槍のようにヘカトンケイルを貫き、更に貫いた炎が爆発する。
「グギョオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
無数の顔から一斉に悲鳴が上がる。
“鬼火【孔雀】”
陰美は自身の背後に10個ほどの鬼火を出し、叫ぶヘカトンケイルの顔面を黙らせるように放った。しかし、その鬼火の内の1つが軌道を外れ、イレイズ大佐めがけて飛んでいく。
「うお!なんだ!?」
間一髪鬼火を躱すイレイズ大佐。
「おい、気を付けてくれ!」
「貴方がね。」
「?」
鬼火はイレイズ大佐の背後にいたブライト大佐に当たっていた。そのブライト大佐の振り上げていた大剣がイレイズ大佐の数cm横に振り下ろされ、地面を砕いた。
「チィ、気付きやがって・・・。」




