第51話:サンクティタスの戦火・貴族階層門前
貴族階層、入り口の門前
特使の側近でありサンクティタス軍中尉のピクシーが手擦っている。その相手は、クリア少佐ではない。ダークエルフ族の中から稀に生まれるという上位種・ダークハイエルフである。
「こいつ、ウザ!」
このピクシー中尉、生まれも育ちも貴族出身であるが、庶民階層の友人が多いせいか、度々貴族らしからぬ言葉を使う癖がある。だが、今のピクシーの状況ではそんなことも言いたくなるだろう。何故なら、相対しているダークハイエルフは身長2m以上はあろうかという所謂ノッポ。でありながら非常に軽快な身のこなしでその両手に携えた長いククリ刀で細かい剣戟を見舞ってくるのだから厄介極まりないのである。しかも、その体躯の力か、一撃一撃はピクシーの一撃よりも重かった。
「あー!もー!メンドくさい!!」
“リヒトストリーム”
自棄になったピクシーはダガーを持った右手の拳を前に出し、和神の使った“天撃”の回転効果が加わった天力の波動を撃った。
「ぬるい!」
しかし、これは相手に読まれていた。技の隙を突かれ、右手のダガーを弾かれる。更に怒涛の剣戟がピクシーを襲う。ダガー一本では到底捌き切れず、圧倒され、やがて貴族階層の門まで追い詰められてしまった。ピクシーの部下たちは他の魔物への対処で救援に来る気配はない。
「ヤバい・・・?」
そして、ピクシーにトドメの一撃が見舞われようとしたその瞬間。
“ブリッツバースト”
眩い閃光とともにダークハイエルフが吹き飛んだ。
「大丈夫かい?ピクシー中尉。」
「クリア少佐・・・。」
ピクシーを助けたのは、荒々しい逆毛の銀の長髪に散弾銃を持ったエルフ族の女性・・・他でもないクリア少佐だった。
そこへ、魔物を次々と撥ねながら軍用車が突っ込んで来て、クリア少佐の前で止まった。その軍用車を見て、ピクシーは瞬時にそれが特使の所有している物であることを認識した。
「ミネルヴァ様!?」
しかし、降りてきた3人を見てピクシーはすぐにがっかりした。特使に仕えるメイドの1人と和神と狗美だったからである。
「なに?何か用?」
「救援に参りました。」
ぶっきらぼうに訊ねるピクシーに冷静に答えるメイド。
「そりゃあ、ありがたいわ!あんたら見たことない連中だが、ミネルヴァ殿の知り合いなら安心だしな!」
ハッハッハ,と口を大きく開けて笑うクリア少佐。狗美はしばしクリア少佐の部隊とピクシーの部隊とともに魔物を制圧することになった。和神は正直現状は戦力外のため、メイドとともに軍用車の側から見守っていた。
その間、和神は不審な動きをしないかクリア少佐から目を離さずにいた。だが和神は、先ほどの反応・態度からして裏切るようなタイプではないような気がしていた。とはいえ、人とは何を考えているのか分からないもの。終始油断せずに注視していた。だが、結局クリア少佐は怪しい動きを見せることもなく、魔物は制圧された。
「いや~助かった!ありがとな!」
戦闘後、クリア少佐は気さくに狗美の肩をぽんぽん叩きながら礼を言ってきた。
「まあ、救援なんて要りませんでしたけどね・・・。」
特使じゃなかったことが余程嫌だったのか、ピクシーは終始仏頂面で戦っていた。
「確かにまぁ、救援はなくても何とかなったわな。・・・差し詰め、アタシが何かやらかさないか監視しに来たってトコだろ?」
「・・・気付いてたんですか。」
「まぁな・・・。ミネルヴァ殿が自分の軍用車で救援を寄越すなんてそうあることじゃないからな。それにアタシには嫌疑が掛けられてるだろ?横領と薬作ったっていう。だからもしかしたらなってな。」
「そうです。だから私が同行したのです。」
ピクシーは冷静さを取り戻したのか、言葉が丁寧に戻っていた。
「そっか・・・今度の軍法会議で言うつもりだったが、嫌疑はどっちも・・・その通りだよ。」
クリア少佐の口から、1つの真実が語られた。




